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USスチールの買収に一言

 昨今、日本製鉄が米国のUSスチールを買収すると発表し、日米で話題になっている。
 
 USスチールの労働組合が反対し、トランプも反対、引きずられてバイデンも反対している。労働組合は反対の姿勢を見せることで、日本製鉄から少しでも自分たちに有利な条件を引き出したいのであろうし、トランプもバイデンも大統領選を控えた人気取りだ。
 
 一方、USスチールの経営陣は買収に同意し、すでに株主総会でも了解されている。買収金額は、その時点のUSスチール株価の40%増とのことだから、株主は大喜びだろう。
 
 以下、この買収に関する日本製鉄のステートメントから抜粋すると、
・日本製鉄が目指すものは,USスチールを強化し、米国市場において共に成長することであり・・・・日本製鉄は、USスチールが今後何世代にもわたって米国の象徴的な企業としてあり続けるための最適なパートナーであると確信しています。
・日本製鉄は、強い決意のもと、これらのプロセスを完遂し、本買収を完了させます。
・日本製鉄は、本買収が完了したのち、USスチールが現行の労働協約から140%増しとなる14億ドルの追加投資を行うとともに、本買収に起因するレイオフ及び工場閉鎖を行わないことなどをUSWにコミットします。
 
 立派な大義名分を大上段にかざしているが、ポイントはUSスチールの買収が将来にわたって経済的に成り立つかだけだろう。
 
 日本製鉄とUSスチールの規模を比較すると、
         日本製鉄  USスチール 兆円
     売り上げ  8.9      2.7
     利益   0.59     0.13
     総資産   10.7       3.1
 
 規模感としては、USスチールは日本製鉄の約三分の一、買収金額は2兆円と言われており、日本製製鉄の総資産の約2割だから、まあまあかもしれない。
 
 で、ごまめの歯ぎしりだが、個人的には賛成しがたい。日本の鉄鋼会社はかつて日本の産業をリードしていたが、今は主役を自動車などに譲り、わき役になっている。しかしながら、今でもある程度の利益を出して、それなりに存在感があるのは、一重に技術的優位性を保っているからだ。
 
日本の鉄鋼会社は研究開発などホワイトの技術者ばかリでなく、現場労働者、ブルーのレベルが高い。技能的に優れているだけではなく、総じて責任感が強い。日本人の真面目さ、ひたむきさが大きな力になっている。私が第一線の技術者だった時に、現場に助けられたことは枚挙にいとまがない。
 
 かつて在籍していた鉄鋼会社でも、20数年前に米国の鉄鋼会社を買収したことがある。当初数年間の業績はまあまあ、私も先方の経営陣と話したことがあるが、自信満々だった。しかし、その数年後、あっさりと経営破綻してしまった。買収を画策したトップは営業出身であり、現場労働者の力を理解していなかったのだと思う。
 
 今回の日本製鉄のトップも現場を知らないようだ。この数年、日本製鉄の業績は順調、国内で諸々の政策を推進しているぶんにはいいのだが、米国の鉄鋼会社の買収では、本質を見誤っている・・・・気がする。

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