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都市部の料理人と過疎地域をつなぐ「サーカスキッチン」を立ち上げます。

幼少の頃、帰省先の香川でサーカスに連れていってもらったことがあります。普段遊んでいる裏山や庭とは全く違った雰囲気に、兄妹と心を踊らせました。サーカスは普段静かな町にやってくる非日常であり、じいちゃん、ばあちゃん達と過ごす楽しい思い出の時間でした。

僕のサーカスの記憶は幼少で止まっていますが、大人になった僕は今、サーカスの名をつけた取り組みを始めようとしています。今日は、これから緩やかに始まる「サーカスキッチン」というプロジェクトについて、紹介させてください。

過疎地域へサーカスのようにやってくる専門店

僕はこれまで、大阪でスパイスカレーの店舗を経営しながら、各地でカレーの出張販売をしてきました。わざわざ遠出してきたのは、地方の旅行先で出会う方から「この地域にスパイスカレー屋なんてないから、次来たらカレー出してよ」とお誘いいただくことが多かったから。出店してみるとどんな地域にもカレー好きの方はいらっしゃって、幸いにも喜んでいただけることが多かったです。

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(移動販売車で出店したり、店舗を間借りしてきました)

やってみて分かったのは、「お昼休みにランチを外で」という選択肢がない平日ランチ難民となる地域が多かったり、空き店舗を使って賑わいが生まれていること自体に喜んで下さる方がいることでした。喜んでくださる方がいるのなら、サーカスや旅芸人のように不定期でも通えたらいいな、と思ったことが始まりです。
それを一人で続けるのではなく、同じような価値観を持つ料理人と、過疎地域に専門的な料理を出すその日だけの特別なレストランを開く、コミュニティを作っていきたいと思うようになりました。


サーカスという「非常設型エンターテイメント」の価値

今になってサーカスという娯楽の仕組みは理にかなっているなと思うことがあります。川端康成『伊豆の踊り子』は大正初期の作者の実体験をもとに書かれた小説ですが、そこには旅芸人の一座が宿を渡り歩きながら芸を披露していく様子が描かれています。江戸時代から昭和のはじめ頃までは、日本版のサーカスとも言える「旅芸人」と呼ばれる人達が季節の折節に現れ娯楽を提供していました。

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サーカスや旅芸人のように場所を転々とする業態はなぜ世界各地に発生してきたのでしょうか?
それは、専門サービスはマーケットボリュームが必要だからです。娯楽のような「時々味わうぐらいが丁度よい」サービスは、小さな集団では顧客が固定され供給過多になってしまいます。
そのため常設の劇場のようなものは都会にしかありませんが、「移動する」ことによって顧客を入れ替えることで、マーケットサイズの小さい農山村でも専門的な娯楽を楽しめる仕組みが、サーカスのような非常設型のエンターテイメントです。娯楽の少ない農山村へも文化的な機会を提供できる、社会的価値の高い営みだったはずです。


サーカスキッチンが出店する地域

さて、そんなサーカスのように「料理人が過疎地域に出張してレストランを開く」というとシンプルで簡単なように聞こえますが、考えないといけないことが色々あります。

まず地域との関わりを持つ時に配慮しなくてはならないことは、中途半端に関わり去ってしまうと「あの人もまた去ってしまった」という裏切られ感やサービスが減る負担を地域に与えてしまうことです。外部からの受け入れや間に入って下さった方が、受け入れ後のケアで走り回り疲弊してしまったという話も良く聞きます。観光とは違う一歩踏み込んだ関わりをする以上、そこへは最大限配慮をしなくてはいけません。

一方でそうした配慮が求められることは、地域と関わることへの心理的障壁を生んできてしまったことは事実でしょう。地域から求められる「覚悟」に尻込みしてしまう人も多いと思います。
今このタイミングでサーカスキッチンをやろうと考えているのは、その微妙な地方と都会の関係性を耕している方が各地で増えてきていると感じるからです。

近年、観光以上移住未満の「関係人口」という言葉が使われ始め、地域によっては専門人材が配置されている所も出てきました。例えば僕が出店させていただいている吉野町では「TENJIKU吉野」という旅人を受け入れる滞在施設を役場が運営しており、地域の手伝いをすると無料で滞在することができます。その地域のお手伝いをコーディネートするのが、「関係案内人」という役割を担った地域おこし協力隊の方です。

吉野では旅人という言葉が定着しており、地元の方との懇親会では「今度の旅人はこんな人か、おもろいなぁ」といったように、短期の滞在であっても温かく迎え入れてくれる空気があります。その空気が心地よく、何度も通うようになった人も多いと聞きます。
いずれ様々な地域でとは思いますが、まずはそうした関係人口の土壌を耕して下さっている方がいる地域とつながり、丁寧に関係を築いていけたらと思っています。


「儲かるから」では無い価値観で出店する。

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関係人口の土壌が出来た地域から始めていきたいと思う理由が、もう一つあります。「すぐに去っていく人は困る」といったニーズが強い地域へは、長期的・定期的に通い続けて関係性を育むことが大切です。
ところが料理人がただでさえ少ない休日を使って定期的にどこかへ通うということは難しく、それを実現しようとするとビジネス性が必要となります。それはつまり、「儲かるから通える」というあり方です。仕事としてであれば恒常的に通うことはできるでしょう。

ところがこのモチベーションで地方出店を行ってしまうと、作りたい景色から離れていってしまうことが想像できます。儲けようと思えばあらかじめ安く大量に仕込んで冷凍したものをレンジで温めて提供するような料理ができてしまうからです。他所から来た人間が、稼ぐだけ稼いで帰っていく。そのような構図になってしまった時に、その地域との関係性はいびつになるような気がしています。

もちろん料理人が全て持ち出しとなってしまわないような収支のラインは大切ですが、「儲かるから」ではない価値観を共有できる人達と、コミュニティを形成していきたいと思っています。それは半分ボランタリーな、社会貢献的・趣味的な余力で行うものになりますが、だからこそ「不定期な関わり方で良い」という余白を残しておきたいのです。

サーカスキッチンは料理人にとって、義務感で行われるものでもなく、ビジネスで行われるものでもなく、自分の人生を豊かな時間で埋めるためのプロジェクトでありたいと考えています。


現代の料理人は、探究心を持ち料理を楽しむ人達だった。

幸い、今の所僕がこのプロジェクトを相談している料理人には「儲かるから」ではないモチベーションで関心を持って下さる方が多くいらっしゃいます。料理人=職人として寡黙に厨房の中で料理を作り続けている、というのは少し古いイメージのようで、20〜40代ぐらいの料理人は休みがあれば遠方の名店にも日帰りで食べにいくような、好奇心や探究心の高い方も多いようです。料理人仲間が集まれば「この牡蠣をいかに美味しく食べるか」のような調理競争が始まったりすることもあるらしく、お金のために働くというよりは料理自体を楽しんでいる人も多そうです。

ところが年齢が上がると監督的な役職になり自分で腕をふるうことが減ったり、厨房と客席が遠く自分の料理で喜んでもらっている姿を見れない環境にいるなど、仕事の中でやりたいことが出来ないと感じている方もいることが分かってきました。
そう考えていくとサーカスキッチンは、料理人の好奇心をくすぐるプロジェクトであり、料理という技術を持っていることの喜びをリアルに感じられるものであるべきだということになってきます。


一方通行にならない関係性を育むプロジェクトへ。

ここまでくると、過疎地域と料理人を結びつけるプロジェクトの型のようなものが浮かび上がってきます。過疎地域で最も困るのは、草引きや農作業の収穫などです。都会から行くと美しく見える田園風景は、それを支える日々の手作業の集積であることは、言われないとなかなか気づけないものです。

例えば一次産業の収穫手伝いとレストランの出店を組み合わせてみてはどうでしょうか。二泊三日で料理人が地域へ旅をする。一日目に収穫を手伝い、収穫した野菜をいかに美味しく調理できるかというお題を楽しみながら、二日目にその野菜を使ったレストランを開く。何人かの料理人で一緒に行けば、お互いの技術や知識を交換することが出来るなど、料理人にとっても刺激的な時間が過ごせるでしょう。

ツアー

たった一日だけのレストランなので、タイミングが合わなかったり家からなかなか出られない方へ向けては、料理したものをパッキングして冷凍しておけば、後日でも食べられます(自前で真空パック機を持っている料理人仲間がいるんです、これが)。

移動などのコストがかかるのでレストランでの収益は僅かにはなってしまうかもしれませんが、料理人が赤字にはならないような収支で運営できるパッケージは作れるはずです。迎えて下さる地域の方にとっても喜ばれる機会であり、料理人にとっても学び多く得るものが多いような、一方通行とならないプロジェクトへと育てていきたいと思っています。


料理人の方、地域の方のヒアリングのお願い

さて、ここまで書いてきたものの、まだプロジェクトは本格的に始まっていません。世の中の感染拡大状況を見つつ、構想はありながらも積極的に動きづらいのが現状です。

一方で、コロナ禍の影響を受けて、飲食業で働いておられる方が仕事を失ったり、勤務日が減ってしまったという方も出てきていると聞きます。感染対策を十分にすることを大前提に、飲食業界が大きく荒れたコロナ禍の中で、何かを始めたいと思っている方とつながり動き始めたい。

そこでしばらくは、オンラインでのヒアリングと仲間づくりをしていきたいと思っています。この記事を読んでいただき、関心を持ってくださった料理人の方、地域の関係人口づくりに取り組まれている方、ぜひお話を伺わせてください。まだまだ仮説だらけのプロジェクトですので、どういう形であれば参画しやすいか教えていただけると嬉しいです。

ヒアリングへのご協力や関心を持って下さった方は、以下フォームよりご連絡いただけると幸いです↓
https://forms.gle/8d656fYSnt6SurLH6
大阪起点で始まっていくプロジェクトなのでまずは関西を中心とした動きになっていくとは思いますが、いずれ各地に広げていきたいと思っています。関西以外の方もぜひ、ご連絡お待ちしています。


最後に、今後サーカスキッチンに関する投稿を行うSNSを作成しました。今後の動向について関心を寄せていただいた方は、フォローいただけますと幸いです。

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2021年、このプロジェクトに邁進する一年になりそうです。どうぞよろしくお願いいたします。


サポートいただいたお金は、今行っている若者の就労支援などへ充てさせていただきます。