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読書。鳴呼、Michael Lewis。

トップの画像は、Goodreads から。なんてステキなんだ。

一世を風靡した、かの "Liar's Poker" でデビューした彼の本の読書記録を note に書いたことがあると思っていたのに、記事がない。なんということ。

Liar's Poker: Rising through the Wreckage on Wall Street (1989)
Pacific Rift (1991)
The Money Culture (1991)
Losers: The Road to Everyplace but the White House (1997)
The New New Thing: A Silicon Valley Story (1999)
Next: The Future Just Happened (2001)
Moneyball: The Art of Winning an Unfair Game (2003)
Coach: Lessons on the Game of LIfe (2005)
The Blind Side: Evolution of a Game (2006)
The Real Price of Everything: Rediscovering the Six Classics of Economics (2007)
Panic: The Story of Modern Financial Insanity (2008)
Home Game: An Accidental Guide to Fatherhood (2009)
The Big Short: Inside the Doomsday Machine (2010)
Boomerang: Travels in the New Third World (2011)
Flash Boys: A Wall Street Revolt (2014)
The Undoing Project: A Friendship That Changed Our Minds (2016)
The Fifth Risk: Undoing Democracy (2018)
The Premonition: A Pandemic Story (2021)

全18冊。太字はわたしが読んだ8冊。読んだ順序はバラバラ。

ムスメの大学の友人である Sophia(あの「天真爛漫」な)がジャーナリズム専攻だというので、ふと聞いてみたら、彼の著作は授業でも取り上げられているそうだ。おぉ、それはいい。学生は彼から大いに学ぶべきだ。

まず。同じウォール街出身という親近感がある。
で。高額の給料を振り捨てて辞めたという経歴がたまらない。
そして。書いたのが、 "Liar's Poker" なんだから。

ご覧のとおり、経済金融関係のトピックが多い。私が新卒として米系証券会社の東京支店に就職したのは1990年のことで、その数年後にニューヨーク本店に転勤になった頃にはもう彼のデビュー作 "Liar's Poker" は「業界関係者皆が読んだ本・読むべき本」みたいになっていて、ウォール街就職を目指す学生の How To 書みたいに読まれてしまったと、彼自身が後に書いている。

以前書いたことがあるが、私はアメリカに来たばかりの頃は、日本語で読める本と同じレベルの英語の本が読めず、そのことに対する腹立ちと苛立ちで本を一切読まなかった。

あれから30年近くたって、英語でなんでも読めるようになったのでようやく手にしたら、もうもうもうもう。きゃーわかるーあはははは、みたいな話ばっかり。

私が就職した頃には、もうアメリカの市場では鞘が抜けないから、日本で荒稼ぎしようみたいな外資系ばっかりで、私はそういうアメリカ人トレーダー達と働いていた。いわゆる、株式インデックス裁定取引、である。トレーダーの英語注文を日本語にして発注するのだが、お昼休みを除いて画面を見ながら座りっぱなし。トイレに立つ暇もない。一日に何件の注文をさばいたんだろう。100-200件は平気でこなしてたんじゃないだろうか。私がいなければ、彼らは売買できないことが明らかで、とても大事にしてもらった。そして私はいずれトレーダーになるはずだった。

スピーカーで市場動向が流れスクリーンにニュースと価格が流れ、それに呼応するようなF-Word 連発のあの雰囲気。だから、私は今でも当たり前のように F-Word が口からとびでてきて、それこそ TPO をわきまえないと、とんでもない育ちに見られかねない。英語が母国語じゃないから、どのくらい「悪い言葉」なのかの感覚がないのである。

うちの子供たちは、両親ともに F-Word 連発のウォール街で働いていたから家庭でも連発だった、というのが理由ではないけれど、同じ世代の仲間同様に F-Word はじめ、ここには書けないような悪い言葉をばんばん使う。

が。アメリカで生まれ育ったうちの二人はしっかりと TPO をわきまえていて、小さな子どもの近くでは言わないとか、大人のまわりでは気をつける。当然だ。

家庭によっては、子供は家では親の前では決してそういう言葉を使わない。使わせない。だから、ムスメは友達を私に紹介するときや、うちに連れてくるとき、"You can swear around my Mom. She does not care." と言い含める。

まったく構わない。むしろどういう時に使うのかとか、どういう使い方をするのかがわかるし、そこに「感情の強さ」が込められるから、それでいい。それに、センテンスのどこにどう F-Word をつっこむかというルールは本能的直感的であり語感的なもので、結構おもしろい。

swear というのはそういう「悪い言葉」を使うという意味。

Lewis の筆致。ノンフィクションなのに、登場人物描写とかストーリー展開はまるで小説を読んでいるが如き。

彼の作品には、正しいことをする人たち、本来その現象や組織を正しく有るべき姿に戻そうとする人たちが登場人物で、彼らの努力と業績の軌跡が鮮やかに描かれている。そういう人が見つからなきゃ、そもそも書かないのだそうだ。

アメリカに暮らして30年近くになるが、この国は教育水準の幅も貧富の差もピンキリ。アメリカに来る前にロンドンでも1ヶ月ほど暮らしたが、欧米とも多国籍の人々が集まって暮らしているという点は同じだったのに、ロンドンでは「イギリス人になろう」と思って人々が生活している印象がなかった。

が、ニューヨークにきたら、すっごいアクセントのあるタクシーの運ちゃんから「数ヶ月もすれば、僕みたいにしゃべれるようになって一人前のニューヨーカーだよ」なんて励まされて、移民がアメリカという新天地で頑張って生きるんだ、みたいな活力をビシビシ感じた。

でも。
私は日本人で日本という祖国から逃れてきたわけではないから、今ですら冷静にアメリカという国とアメリカ人を観察している。が、日本と比べて、うんざりすることが多いこの国に暮らしながら、Lewis が描く人たちのことを読んで、あぁこういう優秀な人たちが「アメリカ」という国を良い国にしていこうと思って、私の目には見えないところで一生懸命働いている、ということがわかった。

日本は皆均等にそこそこ賢い。アメリカはその差が大きい。でも、トップだけ比べたら、アメリカ人の優秀さというのは、国が大きいだけに、世界中の国から移住してきた人達と競争して上りつめた人たちだけに、次元がまるで違うのではないかと思わなくもない。

政府機関で働く人達もウォール街で働く人達も、Lewis が描く人たちは変わり者が多いけれど、その特定能力の凄さには息をのむ。

私の二人の子供たちはこの国で生きていくだろうから、私もこの地で人生を終えることになるだろう。そういう覚悟を決めて、Lewis の本を次々に読みながら、以前のように他人事のように客観的にばかりこの国を見ているわけではない自分に気づいた。

嘘とデタラメの垂れ流しのトランプを盲目に支持する究極のアホも多い国だが、大丈夫。こういうすごい人達が政府機関や各種業界のあちこちに存在している国なんだから、アメリカ国民は今年の大統領選ではきっと正しい選択をするだろうと思う。

そう思いたい。






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