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きちんとしてなくてもなんとかなるのは。

アメリカでの生活は、何が起こるかわからない未知の要素に取り巻かれているという感じがする。日本で育った私の目には、たいていが人為的なミスであることがほとんど。時間に遅れる。約束を守らない。予約していたのに予約されていない。決めておいた約束を直前になって変更する。事前に通知されているべきことがされていない。とにかくキリがない。そして、人為的ミスなのに「すみません」の言葉が続くことがほとんどない、といっていい。

今朝も11時から娘は受験する大学に提出する一斉テスト(SAT/ACT)のための、準備コースの予定が入っていた。6月の時点で、夏休みの日程をリクエストするときにいつ欠席するかをすでに通達してあるし、黄色でマークした「確認しました」の返事もメールでもらってある。にもかかわらず、留守中の土曜に「今日予定が入っていますが...」と連絡がきて、私は「欠席の連絡してありますけど。戻るのは来週の水曜からです」と返事した。にもかかわらず、ニモカカワラズ!今日水曜日は「欠席」になっていて、空いてる先生がいないからキャンセルされたというではないか。

私が激怒するのがわかってるムスメはちゃっちゃと対応し「ママは怒鳴りこまなくていいから」と私をなだめに入る。「冗談じゃない。無能なのにも程がある!」と私の怒りは収まらない。当たり前である。こんなこともできなくて金もらってるなんて信じられない。

We, capable people are cleaning up the mess that incapable people make. That's why the world barely functions. (私たち能力のある者たちが、能力のない連中のミスの尻拭いをしている。だから世界はなんとかまわっている)

私の口癖だが、子供たちもだんだんそれが身にしみてわかってきたようだ。

事前にどんな不測の事態が生じるかを想定して準備するのも限度がある。前述のようなミスを防ぐには、数日前と前日に嫌味のように確認の連絡を入れるしかない。なんで私がそんなことをしなければならないのだ。こういうミスをしても彼らにはなんの処罰もないからへっちゃら、なのである。でも被害があるのは私だから、それを防ぐために私が手を回すことになる。

とにかく、アメリカ人はきちんとしていない。彼らはお互いにきちんとしてないのをわかっていて、それを当たり前のようにカバーし合ってツジツマを合わせてしまう。いつも「なんとかなるさ」精神で、お互いに同じことを繰り返しあっている。Natural consequenceがないのである。相手に迷惑をかけたという悪気もなく、無事になんとかなってよかったと言い合ってる。

きちんとした日本人である私にはそれが耐えられない。我慢できない。「なんとかなるさ」の仲間になんてなりたくない。

自分でコントロールする範囲には限りがあるけれど、せめてその範囲は死守しようとする。子供たちと私の間では、時間に遅れることも忘れ物をすることもないが、彼らの友達が絡むとそうもいかなくなる。私が苛立つから子供たちは友達を管理しようと全力を尽くす。そのうち私がやってるのと同じような、管理する役割を子供たちもすることになり、そこでようやく私の苛立ちを理解するようになった。

息子の高校時代の友達にフィリピン人がいて、「フィリピン時間」を刻む時計で暮らしている。約束の時間に最低30分は遅れる常習犯で、ついにムスコはアルバイト先の会議の開始時間を30分早めに伝えた。案の定遅れてきた友達に本当の開始時間を言うと、友達は怒ったらしいが「お前、いつでも遅れてくるだろう。そんなこと言える立場か。俺のおかげで会議に遅れないで済んだんだぞ!」と言い返したという。まったくだ。よくやった、と褒めちぎったのは言うまでもない。

娘の親友はフィリピン人母と白人父のハーフである。お互いの家に遊びに行くときには親に送ってもらう身分だから、フィリピン時間が出動する。

「ママ、7時に迎えに来て」
「日本時間(7:00)、アメリカ時間(7:15)それともフィリピン時間(7:30)?」
「アメリカ時間」

そして、私はアメリカ時間7時15分を、日本時間で時間通りに迎えに行く。これは冗談ではない。

ムスコは大学の仲間8人(男4人女4人)と10日間のイタリア旅行に行った。男4人はルームメートでお互いをよくわかっている。特にリーダー格でもないムスコがこの旅行の一切を仕切った。ヨーロッパは早くからアメリカからの旅行者を受け入れることにしたが、そのためのPCR検査の結果とかワクチン接種の証明とか、かなりの書類が入国の際に必要だった。検査結果は入国の48時間以内に出たものじゃないとだめだから、いつ検査の予約を入れるかなど、仲間に指示を出し何度も催促していた。

4人のうち2人は前日に5時間かけて運転して我が家に泊まってから4人揃って出発という予定だった。私は久しぶりに大食いの若者4人を振る舞うのを楽しみにメニューを考えて準備。最初2泊の予定だったのが、1泊になった。ランチなのかディナーなのか。最初ディナーだったのに「ランチの方が良さそうだ」二人が朝一番に出発して、ランチに間に合うように到着できるのか。朝そんなに早く起きられるのか。

「12時までに到着しろって言ったけど、たぶん2時頃になる」

前日の夜。「到着するのは夕方になるって言い出した」「........」

そしてムスコがキレた。
「いい加減にしろ。何回も何回も予定変えやがって!俺の母親がお前たちに料理するって言ってるんだぞ。準備があるんだから、お前たちが到着してから料理するっていう話じゃないんだ。それに俺は中途半端な時間に食事なんてしたくない!」

無事、彼らは1時に到着したのだが、一体何時に出発したのか連絡がこなかった。ムスコは出発したら連絡入れろ、と何度も言ってある。何度も何度もテキストを入れた。それで2時間ほど前にようやく到着時間がはっきりした。

「ねぇ、彼らの親、料理しないよね?だからじゃないかなぁ。料理するのに準備が必要で、温かいうちに食べるために時間を合わせるっていう経験をしてきてないんじゃないの?」
「........そうかもしれない。」

おそるべしアメリカ人。料理せずに子供3人育てている。そして周囲がツジツマを合わせてあげているということを知らずに育っている。

"We, capable people are cleaning up the mess that incapable people make. That's why the world barely functions."

と、私とムスコは言い合った。






ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。