白いリボン

 死んでしまえば良いと思った。
 夏の暑い日で、きみは蟻を見つめていた。麦わら帽子がやけに邪魔に見えたのはきっと、きみが昨日の夜中に新しいのを買ってもらったのだと見せに来たからだったのだと思う。だって、それくらいしか理由が見当たらない。きみには確かに麦わら帽子が似合っていたし、こんな日だから帽子をかぶるのは当たり前で、この頭の上にだって、麦わら帽子は乗っかっていて。じいちゃんのお下がりの、ざらざらで汚いやつ。それを馬鹿にされたような気がしてたまらなかったのかもしれない。でも、まあ、理由なんてどうでも良いのだ、きみに対して、死んでしまえば良いと思った、それだけが事実なのだから。
「ひいちゃん」
ラムネ、冷えてるって。
 きみはいつのまにか蟻から興味を逸らして手を振っている。日焼け止めの塗りきれなかったところがちょっとだけまだらになっていて、きみが完璧でないことを示しているようで。
 頷いて、脚を踏み出す。
 さっきまできみが見ていた蟻を踏み潰してしまったけれど、もう興味を失ったきみはそれに何も思わないようだった。


▼掌編集「虫の声」
 https://nikumaru-shobou.booth.pm/items/1331934

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