見出し画像

沖縄ぜんざいの冒険

沖縄のぜんざいは一見シロップなしのかき氷だ。しかし、氷と器の境い目をスプーンでかき分けると、ふっくら炊き上げた甘い金時豆が汁ごと何粒も顔を出す。
思いがけない白玉だんごも覗いてくる。
南の島らしく、汗をかいたこめかみを程よく冷やして、しばし暑さを忘れるには右に出るものはない。
ギーギーと聞き慣れないセミの声とムワッと容赦ない南風を感じたあとに食べる沖縄ぜんざいは「あぁ、また沖縄に来ることが出来た。良かった。」という幸福感を味覚で感じることができる。
沖縄を代表するグルメは数多ある中で、沖縄ぜんざいはひっそりとその存在感を主張する。

沖縄ぜんざい初心者の私としては、最後の一口までおいしく楽しむ方法を模索中である。
真っ白に細かく砕けた氷を豪快に崩す勇気が出ず、こっそり控えめに氷と金時豆を混ぜて食べる。これで十分美味しい。
しかし、たまに金時豆多め、たまに氷だけを口に運ぶなど小さな冒険を始めたくなる。
結局、15分後には器の底に金時豆が気持ち良さそうにプカプカ浮いている姿を見るのだが、金時豆だけでも十分美味しいので満足だ。
でも、でも欲が出て氷を追加したくなる衝動は仕方ない。

今のところ那覇市の「千日」、名護市の「ひがし食堂」で沖縄ぜんざいの小さな冒険をしているが、道すがら沖縄ぜんざいを知らせるのぼりの誘惑で立ち寄った小さな沖縄ぜんざい屋もそれは大変おいしくて、まだまだ冒険の余地ありの予感がしている。

そして驚きはその価格だ。
今やかき氷一杯1000円時代であるが、沖縄ぜんざいに至ってはワンコインでお釣りがくる。
フワフワのムースクリームや果肉たっぷりの濃厚フルーツシロップが輝いているわけではないが、沖縄ぜんざいのその一杯は沖縄の甘い時間が凝縮されている。

金時豆と氷をサクサク崩す音がこだまする平和な時間を感じ、流行り病は去ったと思った。


千日にて