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琉球古典芸能コンクール2021・その①挑戦の扉

「琉球古典芸能コンクールに出てみたいです。」

いつもの三線レッスンの時間に夫は突拍子のない発言を山内先生に投げかけた。
思わず「先生!私もっ!!」と瞬間的に出た言葉の1年半後、沖縄県那覇市にある琉球新報ホールのステージに立つ。楽器コンプレックスで音楽コンクールとは無縁の人生を歩むものと思っていたことは、単なる思い込みに過ぎなかったということが分かった。

「先生!私もっ!!」の発言に山内先生は笑顔で
「では来年どうですか?」っと提案してくださった時のことは今でも鮮明に覚えている。
こうして私の琉球古典芸能コンクール新人部門への挑戦が始まった。まだ新型コロナウイルスがまん延する前の出来事だ。

山内先生が所属する野村流音楽協会のコンクールは琉球新報が主催する琉球古典芸能コンクールだ。
毎年夏に琉球新報ホールにて舞踊、三線、筝曲、太鼓、笛、胡弓、において審査が行われる。
琉球古典芸能の伝承と発展を目的地としたコンクールである。
それぞれ新人部門、優秀部門、最高部門と分かれていて、新人部門で合格しないとその上の優秀部門には進めない仕組みになっている。
新人部門は3年の芸歴が必要で、課題曲は「稲まづん節」「伊野波節」の2曲から1曲を選択する。
山内先生の教室では「稲まづん節」が課題曲である。

「稲まづん節」の歌詞は、
「ことし毛作や  あんきよらよかて  倉に積みあまち   真積しゃべら」 
意味は、「今年の稲作はみごとな出来ばえで、倉に積みきれないので、真積にもしましょう」っという豊作を祝っためでたい曲である。
先生から楽譜である工工四(クンクンシー)をいただき、気が遠くなる。
B4用紙1枚半にも及ぶそのボリュームにビビり、約4分50秒の曲を暗譜して歌う自分が想像できなかった。
曲はめでたいが、私の胸の内は成し遂げられるのかという不安でサワサワ、ザワザワとうるさかった。

私のザワつきと同じく、新型コロナウイルスが日本をかき回し始める。
沖縄在住の山内先生は上京が出来なくなり、毎月のレッスンは中止にせざる終えない状況に変わった。

沖縄や東京の非常事態宣言の発令、延長、解除に一喜一憂しながらコンクールまでの1年半、私は山内先生から届いた「稲まづん節」の音源と共に練習を重ねることとなる。
分からない所はメールで先生に聞き、非常事態宣言が解除と再発令のすき間のタイミングで先生が上京し、レッスンを受けることができた。
2020年春、コンクール本番まではまだ1年以上ある。粛々と取り組めばいいと、この頃はまだまだ気持ちに余裕があった。
つづく。


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