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越冬サナギが起きたなら・その①

丸投げされるのも悪くない。受け止め方次第、気持ち次第なのだ。

最近、フェイスブックやインスタグラムでつながりのある人たちから「蝶々、好きなんですか?」とか「ちょうちょを育ててるんですか?」と聞かれる。
決まって答えは「いやぁ、好きと言うか丸投げされたもんで…。ええ、チョウチョにです…。」

ウソではない。
昨年の夏、私達夫婦はアゲハチョウに無理やり子育てを押し付けられた。
アゲハチョウは我が家の小さなプランターのさらに小さなミカンの小枝に15粒の卵を相談もなく産み落とし去って行った。
アゲハチョウは一生で約100個の卵を産む。産みっぱなしの完全放置の産卵スタイル。
しかしアゲハチョウはここなら立派に育つであろう場所に卵を産むと言う。

彼女が立派に育つであろう選んだ場所は、隣の家の見るからに美味しそうなハッサクがぶら下がる木ではなく、坂の上にある甘い汁がこぼれ落ちそうなオレンジ色の実が鈴なりに揺らぐキンカンの木ではなかった。
先見の明があるのかないのか、グリコのポッキーに負ける細さのミカンの木に我が子を15個まかせられると判断したナミアゲハの選択は正解だった。

私達夫婦に起こった出来事は当事者でもウソかと思う不思議な出来事である。
15個産み落とされたナミアゲハの卵は、十人十色の青虫時代を経て1匹は越冬前に羽化し、8匹が我が家の玄関先の小さなダンボールの中で越冬サナギになった。残りの6匹はサナギになるための場所を探すワンダリングで見失い、その所在は未だ不明のままである。

サナギの殻は硬く丈夫だという図鑑の情報を信じていないわけではないが、雨風が強い日に我が家の玄関ポーチの小さな屋根では頼りない。
雪の日には、見かねて上り框まで避難させたこともあった。
もっと過酷な環境で越冬しているサナギは日本中にゴマンといるはずである。
運悪く春先に羽化できない致命的なダメージが起こったとしても自然淘汰の一つに過ぎない。
しかし私達は「そんなことは分かっとるわい!」と
8個の越冬サナギを過保護に見守り続けていた。
桜全線が関東に到達しようという頃、ついに8個の越冬サナギは長い夢から覚めようとしていたのである。
つづく。

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