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西表島「民宿 さわやか荘」の三線

沖縄県西表島にある「民宿 さわやか荘」の食堂にある三線を弾きたいがために三線を始めたと言っても過言ではない。
きっかけは、ほんの些細な出来事で以下のnoteで詳細を書いたことがあった。
さわやか荘の食堂から聞こえた三線が、ピアノの挫折が原因で楽器を毛嫌いするようになった私に、音楽を楽しむ人生のきっかけを作ってくれた。


三線を弾くようになってから2年が過ぎ、そして2年ぶりの西表島、目指すは民宿さわやか荘の食堂に置いてある三線だ。
食堂で三線を見つけるやいなや、夕飯のチキンのトマト煮がまだ半分残っているにもかかわらず、三線に触りたくて仕方がない。
パカッとケースを開けるとドーンと立派な三線が横たわっていた。
この三線に会いたかった、だから弾き続けた。
再会した時の1曲目は「かぎやで(カジャディ)風節」を弾こうと決めていた。「かぎやで風節」は沖縄のおめでたい席では定番の曲で、琉球舞踊の演目としても有名である。

歌詞は
「今日の誇らしゃや  何にぎや譬(たとえ)る  蕾で居る花の 露行き逢いたごと」
意味は
「今日の嬉しいことを何にたとえよう、蕾の花が朝露を受けてパッと咲いたようだ」
三線との再会はまさに「今日の嬉しいことを何にたとえよう」っという琉歌そのものの心境である。

緊張とビールの酔いで、なんとも千鳥足のような「かぎやで風節」になってしまったが、2年前まではこの曲の存在、否、三線の三の字も知らなかった人間がここまで歌三線が出来るようになった。
大したもんだと言いたい。

歌い終わると、厨房の奥からさわやか荘のお母さんがヒョイと顔を出して「難しい曲をちゃんと歌って、すごい、踊り出すところだったわぁ」とニコニコ顔が見えた。
「蕾に朝露が落ちてパッと開いた」そんな気分だった。

オーナーのAさんが私も1曲と「鳩間節 上原バージョン」「まるまぶんさん」を披露してくれた。
Aさんの歌三線は、ゆっくり流れる島の空気そのものの味わいで、決して真似は出来ない領域を感じた。
私は琉球古典音楽の歌三線を習っているが、同じ歌三線でも、音楽のジャンルとしては沖縄本島と八重山諸島では似て非なる音楽だということが分かった。
印象的だったのは歌三線の覚え方である。
Aさんは地域の三線名人から手取り足取り教わるのではなく、ビールを手土産に名人の弾く三線を目で見て覚えるのだという。
今どき、完全放置で見て覚えろ的な環境があることにビックリだ。独特な味わいは、見て覚えたからこそ表現できるものなのかもしれない。
三線が弾けるようになって、三線の音を聞いて何かを考えたり、感じとる場面が増え、それはそれは非常に面白い毎日に変わった。

西表島から帰る朝、さわやか荘のお父さんが港まで送ってくれたのだが、お父さんは運転しながら、「三線始めて人生変わったでしょ?楽しいことが増えたんじゃないか?」と言っていたが本当にその通りだ。
三線を弾けなかった自分よりも三線を弾けるようになった生活は楽しい。

さわやか荘の三線は私の歌三線のスタートラインだ。