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久米島紀行③球美の島、琉球古典音楽の島

久米島が発祥とされている琉球古典音楽の楽曲に中城はんた前(なかぐすくはんためい)節と白瀬走川(しらしはいかわ)節がある。

これまで散々、来島していたのにも関わらず、久米島が歌の島だということを歌三線を始めるまで知らなかった。
旅の楽しみ方は興味を持つ事柄によって左右され深みを増す。

中城はんた前節は、飛び立つ蝶を擬人化しまだ見ぬ世界へ思いをはせる人間の心模様を表現した歌だ。
久米島には15の城(ぐすく)が存在する。
中城は現在の宇江城(うえぐすく)の事を指し、沖縄の中で最も高台にある城だ。琉球古典音楽では「柳(やなぢ)」という琉球舞踊の演目の際に歌われる。
演者は紅型衣装に手には花籠を持って踊る。目にも鮮やかな演目である。

高台から海原に向かって蝶が天高く飛ぶ姿を想像する。もちろん蝶は沖縄を代表するオオゴマダラだ。
日本で見られる蝶としては最大級で羽を広げた大きさは15cmにもなる。特徴としては黄金に輝くサナギであるが、成虫は白と黒のコントラストが際立ち、飛ぶ姿は薄衣をまとった天女が手招きしているような妖艶さがある。
全身に潮風をまとい、久米島の空を生きる姿である。

白瀬川にある桜を表現し、琉球古典音楽では「本貫花(むとぅぬちばな)」で歌われる曲の1つが白瀬走川節である。
諸説あるが、この白瀬川の桜はツツジの事ではないかとも言われている。
踊り手は紅白の花をつなげたレイの様な物を持って舞う。
白瀬川に咲いている花でレイを作り、想いを寄せる男性や健やかに育つ子ども達への願いを込めて、かけてあげましょうという女性の優しさを歌った歌だ。
両手に持ったレイがふんわりなびくと女性の優しさ、たっぷりとした温かい気持ちが伝わる演目である。

どちらの曲も人が抱く感情を蝶や花びらで表現し、けして直接的ではないが、ズシンと私に響く。
琉球王朝時代の久米島の存在感がジリジリ迫ってくるようで、歌っていると気持ちが高まる。
ついつい歌声が大きくなるわけだ。

久米島を味わい、久米島の美しさを知るには琉球古典音楽を無くしては完全ではないのだ。