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【読んだ】できそこないの男たち

おすすめ度 ★★★★★

福岡伸一さんの本、こちらも数年前に買ったものを再読。(前回はこちら
どれを読んでも本当に面白い。あー面白い。なんでこんな面白いんだ。

という語彙力のない感想を連ねたところで、今回の話はDNAだ。
というか、分子生物学がDNAとかその辺りの学問なのだが、それすら知らない私でも、ワクワクしながら読める。

性別を分ける性染色体とは何か、どんな役割があるのか、というのが本筋。中盤は分子生物学用語のオンパレードで正直まったくわからないのだけど、わからないのに面白い。

福岡伸一さんの文章をご存知ない方のために、少しだけランダムに開いた一節を紹介すると

私達の身体の殆どは、脳にせよ、肝臓にせよ、筋肉にせよ、ぎっしり詰まった細胞の塊からできている。これらの成り立ちを調べるためには、塊を薄く薄くそぎ切りにした「切片」を得る必要がある。(中略)
それをはっきりさせるためには、精子の頭部をスパッとそぎ切りにして内部を覗いてみるしかない。
天才料理人の手にかかっても、マイクロメーターレベルの刺し身が切り出せないのにはわけがある。

こういった絶妙な比喩や表現方法で、今まで何の興味もなかった「ヒトゲノムの解析方法」や「細胞の切片の切り出し方」なんてのも読めてしまう。
わからんところはわからんけど、なぜか読み終えるととても頭が良くなった気がする。頭のいい人が言わない感想である。


本書は、男女の性に関する分子生物学がテーマだ。タイトルの「できそこない男」というのは、よくあるフェミニズム論とは全く異なる視点での「できそこない」を指している。

受精卵がどう育ち、どう性分化するかの描写は、ドラマティックでかっこいい。ほらみて。

たった今、子宮の奥の暗がりの中で受精が成立した。その瞬間を想像してみよう。
受精卵のプログラムはこの時点からスタートし、一瞬の立ち止まりもない不可逆的な進行を開始する。

ただ、この本は圧倒的に女性向けだと思う。タイトルからも分かる通り、男性が遺伝子的に見ていかに「できそこない」で不整合や不具合が多く、生き物としての安定性が低いか、そして遺伝的にもメスの遺伝子の「運び屋」でしかないことが連連と書かれているからだ。

これをムキーっとならずに読むことができて、女で良かったなぁと思うくらい、男性がこき下ろされている。分子生物学的に。
男性が読むとどういう感想になるか聞いてみたいが、残念ながら周りに読んでくれそうな人はいない。
ちなみに女性である私が読むと、「ふん、偉そうな口をきくんじゃないよ、男のくせに」くらいには(一時的に)偏りが出る。


話は旧約聖書のアダムとイブや、日本の男系天皇制にまで及ぶ。叙情詩のような創作物語も挟み込まれている。さらには筆者の研究員としての経験や、歴史的な発見にいたる研究者のドロドロ競争劇まで、300ページにも満たない本の中に、どうしてこんなに色んなものを詰め込めるのか、すべてをこんなに魅力的に書けるのか、不思議でならない。

うぅ、福岡伸一さんの本を読むと、わかりやすい科学本に物足りなくなってしまう。
それなりに時間はかかるが、他のも読みたい…面白い…!

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