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【読書記録】自閉症のうた

おすすめ度 ★★★★★

東田直樹さんの本は3冊目。まっすぐで清廉な文章がすばらしくて毎回感動してしまう。

(これとは別に「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」も読んだのに記録つけてなかった!)
重度の自閉症者である東田さんのエッセイと、同じく自閉症の息子を持つ作家ディヴィッド・ミッチェルさんとの往復書簡。そして、短編小説2本。

エッセイも往復書簡も素晴らしいのだけど、まず先に小説の素晴らしさを語りたい。
読んだ後、しばらく頭がじいんとして呆けてしまうほどよかった。


短編:自閉症のうた

「自閉症のうた」は、80Pほどの短編で、自閉症の少女・加奈子が主人公の物語。
言葉が話せない、笑うことも泣くことも自分の意思ではできない加奈子の心のうちを丁寧に綴っている。
加奈子を愛していて、大切にしているけれど想いを通じ合わせることができない両親のことや、病院で出会った同じく障がいのある少年・高雄と母親のこと。
現実の世界で起きていることと、加奈子の中の世界が混沌と入り混じっていて、でも抜群に読みやすい。
息ができないような現実の切実さと、夢のように自由な心の中の美しさが、弾けるようにみずみずしい表現で伝わってくる。

疾走感と没入感がすごくて、読んでいる間なにも考えることができなかった。ただひたすら加奈子の世界に入り込んでしまった。

すごい。

加奈子の「うわぁー」という叫びが、どんどん布団の中にたまっていく。どうして私は、こんな所に閉じ込められなければいけないの。自分の声に埋もれながら加奈子はわめきつづけた。
布団に全身を囲まれて、加奈子は貝のようになった。なぜなの、何がいけなかったの。気持ちが収まらない。

高雄君は生きているのに、生きているのに、どうして天井を見続けなければならないの。お願いだから、誰か高雄君を今すぐ助けてあげてと加奈子は祈る。
言葉が話せなくても、何もできなくても高雄君は人間だ。加奈子の気持ちが高ぶる。どうして、みんなわかってあげないの。腹が立ってしょうがない。

下手な考察や感想が書けないくらい、すごい作品だった。

短編:旅

「旅」は、一人称の「僕」の視点で語られる25ページくらいの短い話。
ネタバレになるので詳しくは書けないが「自閉症のうた」と全く違う意味で面白い。

僕の視点でいろんな人が登場し、何が現実で何が夢なのか、妄想なのかなんなのか全然わからないまま話が疾走していく。
僕は何者なんだろう?と思いながら読むと、驚きのラストが…的な話だ。

こんな話も作れるの、東田さん、天才かよ。

往復書簡とエッセイ

東田さんの文章は、いつも短くて迷いがない。
どうしてこんなに磨き抜かれていて、まっすぐ届くんだろう、と思いながら感銘を受けて読んでいる。

僕が思春期の自分に何かアドバイスできるなら、それは励ましの言葉ではない。「頑張って」とか「いつかいいことがあるよ」と言っても、辛すぎる毎日を送っている僕の耳には届かなかったと思う。
いいことも悪いことも、現在の自分のことを客観的に見られる人は、それほどいないような気がする。過去を振り返って、初めて自分がその時に何を考えていたかわかるのではないか。

言葉が文章や思考を構築するための道具かと聞かれると、少し違うような気がします。まず思いがあって、それを伝えるために、言葉があるのではないでしょうか。僕は、言葉をたくさん覚えたからと言って、思いが育つわけではないと考えています。

僕は、これまで特定の人に、恋愛感情を抱いたことはありません。これは、多分僕が自閉症であるかどうかとは関係ないと思います。誰かに特別な感情を持つことなく一生を終える人は、それほど珍しくはないような気がします。

確かに僕にとって訂正は、楽な作業ではありません。それは、内面を表出することそのものが、大変なエネルギーを必要とするからです。
そのために、僕はなるべく文章を頭の中で整理してから、文字盤ポインティングするように心がけています。そして、できるだけ短く、的確な言葉で自分の考えや想いを伝えられれば、文字盤ポインティングも長い時間をかけずに終えることができます。

私たちは、指先を自由に動かしてあっという間に文章を書くことができる。思ったことを言葉にして出すことができる。
間違えたらすぐに訂正できる。
そこにかかる負荷をあまり意識することもない。

東田さんは、それが難しいからこそ考え抜いて、頭の中で整理して推敲を重ねて書いているのだ。
だから誰にも真似できない、誰にも似ていない文章になるんだろう。


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