見出し画像

【読んだ】 i(アイ) 西加奈子

おすすめ度 ★★★★★

はぁ〜、良い。なんで私、もっと早く西加奈子さんに出会ってなかったんだろう。早く読みたかった。できればリアルタイムで。

読み終わって、しばらく呆けてしまって、感想もあらすじも上手く書けなかった。これ以上ないほど中身が詰まっていて、何も書ける余地がない。
他の人はどう書いてるんだろう、と思ったら素晴らしい感想文を見つけた。

ほんとこの通り。言いたいこと全部これに書いてあります。おしまい。

というのは流石にひどいので、なにか書こう。


チクチクするような心理描写

主人公のアイは、とても繊細で思慮深くて、傷つきやすい。裕福で愛に溢れた家庭に育っているのに、悩んだり傷ついていること自体にも罪悪感を覚えてしまうほど。

そういえば、前回読んだ「うつくしい人」の主人公にも近いところがあった。

西さん自身がそういう面があるんだろう。そうじゃなきゃ、ここまで細かく胸がチクチクする心理描写はできないと思う。

ほんとに特別な言葉や独特の表現が目立つわけでもないのに、どうしてこんなに刺さる文章がかけるんだろう?すごい、としか言いようがない。

平和な日常を送る罪悪感

ストーリーの中に、世界で起きた痛ましいニュースがちょいちょい入ってくる。
アイは、高校生の頃から大きな事故や災害による死者の数を、ノートに書き記していて、そのノートに書かれているのかな?と思うような唐突な書き方で小説に織り込まれている。

10月8日 パキスタン北東部でマグニチュード7.6の地震が発生し、結果7万人以上が死亡した。
(中略)これだけの人間が死んでいるのに、世界はまだつつがなく進行していた。朝起きたらお腹が空き、満員の電車は数分おきに出発し、授業は退屈だ。
じゃあ、人はどこで死んでいるの?
アイは時々、そんな風に思いさえした。

悲しいニュースを目にするたびに、近いことは考える。
どんな酷いことが起きて、ショックを受けたとしても、日常は変わらない。

死、でなくても、例えばチョコレートが安価で買えることは、貧しい国の搾取や児童労働に繋がっているけれど、我が子がチョコを食べたいといえば買ってあげたくなる。
自分のしていることが、もしかしたら誰かの不幸や死に繋がっているかもしれなくても、自分の日常が変わらないことを優先している。たまに
私はアイほどに繊細ではないけれど、疑問や罪悪感を抱くことはある。

どうして自分は平穏でいられるんだろう?
そうでない人はどうしてそうでないんだろう?

アイは、少なくない金額の寄付もしているが、それでも苦しい気持ちは消えない。

そうすることで少しでも罪悪感から逃れたかったからだが、もちろんそれだけではなかった。苦しい思いをしている人のことを思うと苦しかった。自分の行動が誰の役にも立っていないかもしれないと思うことが苦しかった。(中略)
自分は何も傷ついていない。
自分は何にも手を染めていない。

悲しみを味わうしかない?

後半、アイに降りかかる苦しみや悲しみの描写は、読んでいるこっちも辛くて泣いてしまった。

世界中の、いわれのない悲劇に見舞われた人たちは、みんなこう思っていたのだろうか。
この悲劇を、一度でも体験してみろ。

私はそんな気持ちになったことがない。そんな不幸を味わったことがない。
ただ、それを単純にラッキーだと思えるほど厚かましくもいられない。罪悪感がある。アイのように。

結局は、存在を全否定したくなるほどの悲しみがないと、その罪悪感を手放すことはできないんだろうか?
アイほどではないけど、アイに共感する気持ちを、私はどうすればいいんだろう?

わからない。これはアイの物語だから。
自分のことは自分で考えるしかないのだ。


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,766件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?