【読書記録】汝、星のごとく
おすすめ度 ★★★★★
本屋大賞の作品を初めて読んだ。
これが本屋大賞か、と納得した。
夜9時前に読みはじめて3時間、一気に読み切ってしまい、読後も色々考えてしまい寝付けなかった。
物語の力が強い
私は日頃から小説への(めんどくさい)こだわりが強く、文章の美しさとかリズム感を大事にしているのだが、そんなものをぶっ飛ばすくらい物語の力が強かった。文体は現代的で若者っぽい、登場人物もそれなりに多く、関係性も複雑、会話も多い。だけど、没入できる。
あらすじを書いてしまうと、とっても軽薄でゴシップな印象になってしまう。週刊誌の格好の餌食になるようなネタが満載だ。
不倫、浮気、略奪愛、ヤングケアラー、うつ病、LGBT、SNS炎上、性犯罪、教師との恋、などなど…言葉だけ書くとキャッチーで、話題性重視なのかと思ってしまう。
「正しくない」って何
でも読んでみると、この物語は、そういう第三者からみた「正しさ」に苦しんでいる人を描きたかったのだとわかる。
第三者から見て「正しくない」人の言動や心理描写がすごく緻密で、執拗なまでにじっくりガッツリ描かれている。
「あぁ、ヤングケアラーね、はいはい、そういう系ね。」と一歩引いて読んでいたのが、いつの間にか登場人物側の視点に移って、一緒にしんどくなっていく。
きっと、すごい量の取材や調査をしているんだろう。
そこいらのノンフィクションやドキュメンタリーより、生々しい現実味がある。主人公の男女二人が、とてもしんどい人生なので、「頼む、救いがあってくれ…!」と祈るような気持ちで読んでしまう。途中で止められない。
重さ比較
私の知る数少ない女性小説家で比較するなら、西加奈子さんの「夜が明ける」に近いものがあるけど、もう少しグロテスクさ控えめ。
瀬尾まいこさんの「夜明けのすべて」よりは重厚感多め、という感じがした。(どっちも夜明け系)
噂話の怖さ
話の舞台は、瀬戸内海の小さい島だ。そして、主人公の一人は若くして人気漫画の原作者になる。
島の人達の噂話や、SNSの無責任な正義感が、怖いくらいリアルに描かれている。攻撃されたり炎上したり筋違いの同情をされたり。怖い。
だけど、自分はどうだろう?
私はこの本を読んで、登場人物の人生をなぞっているから、攻撃する側の人たちに批判的でいられるけれど、現実ではそっち側じゃないだろうか。
今話題になっている、あの人やこの人のことが頭に浮かんだ。
もちろん直接攻撃したりはしないけど、よく知りもしないくせに「あぁそれはあかんわ、最悪」と勝手に脳内ジャッジしていることはある。
当たり前だけど、ごくごく当たり前のことだけど、どんな人だって人間なのだ。体があって心があって、これまでの人生がある。
ゴシップに載るもの、SNSでの言葉、写真はその人のごく一部、点でしかない。だけど人生は線で、とても複雑に絡み合っている。
主人公の人生をずっと追っているとわかるけど、そんなことは週刊誌には載らない。
読後に省みる
物語にはどうしようもなくダメな母親が出てくる。その人は最後までどうしようもないままだ。一方で、立ち直って前向きになる人もいれば、最初から愛情深く素晴らしい人もでてくる。それが物語の闇にも光にもなっている。
でも、これもどうなんだろう?
「素晴らしい」と「ダメ」の境目はどこなのか。そもそもそんなこと他人が勝手にジャッジしていいのか。何様なん?私。
作品のテーマとしては、男女の恋愛や家族の愛といったものが挙げられると思う。
でもそれ以上に、「正しさとはなにか」「正義のもつ暴力性」のようなものを作品全体からひしひしと感じる。
それが、読後にも心に引っかかって、頭に渦巻いてしまう。結果、睡眠不足。
本屋大賞は、すごい。
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