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【読書記録】明治・父・アメリカ

おすすめ度 ★★★★★

小学校の図書ボランティアに行ったら、司書さんに勧めてもらった本。
めちゃくちゃ面白かった。
1978年に星新一が実父のことを書いた本で、勧められなければ絶対出会えなかった。


民俗学的

星新一の父、星一(はじめ)さんは明治生まれ。福島県の田舎で育ち、東京に出て単身アメリカにわたり、コロンビア大学を卒業、帰国して星製薬を創業するまでが描かれている。一(はじめ)だとわかりにくいので作品中では「星」と書かれているのでそれに倣う。

星の話だけではなく、当時の政治や民俗学的な生活の様子も描かれている。
幕末から明治で、伊藤博文や新渡戸稲造、野口英世など有名人がたくさん出てきて驚く。星さんすごい人だったんだ。
星父がアメリカに渡ってからは、アメリカの歴史も振り返る。結構ディープな話も出てくるし、世界史に明るくないので知らないことが多い。

星新一の語り口だから面白い

しかし、星新一独特のあの簡潔な語り口だから、とても読みやすくわかりやすい。
時代も国籍も感じさせないニュートラルな文体なのに、これぞ星新一!という感じがする。不思議だ。

伊藤博文があらわれた。尊大なやつに違いないと思っていたが、期待はずれもいいところ。貧弱な顔つきの小男で、パッとしないあごひげを生やしている。大柄な杉山といい対照だった。

ニューヨークに戻り、コロンビア大学へ授業料を払いに行く。それをしないと、学生になれないのだ。しかし、年額百五十ドルで、所持金では足りない。そこで、こう交渉した。
「この学校に憧れて、日本からきた苦学生です。いま、半年分の授業料、七十五ドルを支払います。とりあえず、半年間だけ講義を受けさせてください」
「あとの半分はどうする」(中略)
どんなことをしてでも、ここで学んでみせる。その熱意を認め、係は承知してくれた。
「よろしい、悪くないアイデアだ。しっかりやりなさい」

「きみが星くんか。よく来たな。大いにがんばりたまえ」
「着いたばかりです。よろしくご指導を」
「来たばかりなら、金を持っているだろう」
「はい、百ドルあまり…」
「商品を仕入れる資金に、貸さないか。利息は払うよ」
「どうぞ、お使いください」

段々ショートショートを読んでいるような気持ちになって、このあとSF的展開が起きるんじゃないかという気さえする。
実際、星の半生はフィクションのように波瀾万丈だし、星自身が主人公のように立派で私欲がなく努力家だ。
フィクション以上にハラハラしながら読んでしまう。

まるでフィクションのようなエピソードをいくつか書くと

12歳で小学校の先生になる…?

星は12歳から小学校の先生になっている。
小学校を4年で卒業し、そのあと学ぶところがないからと私塾に通い、教員の養成所に通う。で、12歳で就職。
「生徒には自分より年長のものもいる」とある。
明治の田舎ってそんな感じなの…?ちょっと想像し難い。

富士山登山に徒歩で行く…?

東京に行ってみたかったけど親に反対されるから、富士登山を名目に行くことにする。なんと福島県から東京までひたすら歩いたのだそう。
農家の納屋や小学校の建物に泊めてもらいながら。12歳で。
これも想像し難い。

21歳になってアメリカの小学校に通う…?

アメリカに行ってから学校に通うことになるのだけど、入ったのは小学4年生。満21歳になっている。順番があべこべすぎやせんか。

これ以上書くとネタバレになってしまうのでやめるが、アメリカに行ってからの話は本当に星新一の創作を読んでいるような軽やかさとワクワク感がある。
本人談ではなく文献をもとに書いているので、会話などはきっと創作なのだろうが、全くストレスなく話が頭に入ってくる感じが気持ちいい。
星新一の文体の良さを余すところなく感じることができる。

どうやら、もう一冊「明治の人物誌」というのも司書さんのおすすめらしいから読んでみよう。わくわく。


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