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【読書記録】「勉強しろ」と言わずに子供を勉強させる法

おすすめ度 ★★★☆☆

もう、タイトルだけで拒否反応が出るくらいの嫌〜なタイトルである。
じゃあなんで読んだかというと、怖いもの見たさ半分、「できるもんならやってみろ」精神半分。

内容は、大半が予想通り鼻白むものだったが、意外と参考になるところもあったので星3つ。


時代も反映してそう

2009年の本なのだけど、この時期こういう本が多かったのかも。
自己啓発本にしても、子育て本にしても。

詰め込み教育がダメなのはわかるけど、ゆとり教育もどうやらダメみたい。
かくなる上は自主的に勉強をしっかりやってくれる子にするはどうしたら…という想いに応えたものなんだろう。
すっごく気持ちはわかるけど、こうして文字にするとゾワゾワする。

今はどうなんだろう?
受験至上主義は過熱しているらしいけど、それだけじゃないよねって派もいるし。より多様化しているのかな。

基本は受験派向け

著者はゴリゴリに優秀な法学博士で、ロースクールの講師や東大入試の解答者なんかもしている。この時点で、この本を求める層がそもそも「子どもを受験させたい」「弁護士にさせたい」「優秀な大学に」という親なんだろう。

出てくる事例も小学校受験や中学受験の話が多いので、まあまあ私には縁のない世界だった。
縁のない世界の話すぎて面白がって読めた。
大体、「第一章 できる子はここが違う!」「第二章 できなくなるには理由がある」とか、目次を見てるだけでスリル満点だ。

できる子ってなんだ。怖。

参考になるところも

一方、勉強させるためのノウハウだけではなく「学びとはなにか?」という視点があったのは良かった。
著者は人生は全てが学びだ、という考えで、いろんなことを前向きに捉えている。基本的には子供の興味関心を育て、やりたいことを思いっきりやってもらおうという方針なのだと思う。いいね。

「著者の子育て奮闘記」と題した章では、子どもの興味や関心を惹くような逆質問をしようという話がある。

なぜなに期を迎えた子供に、親が答えを教えるのではなく逆に質問するというものだ。

大岡裁きの三方一両損は本当に一両損か?
首輪のない犬が虐待されたら首輪のある犬より罪が軽くなるのはなぜか?
自殺は許されるのか?

など、物語やニュースから子どもと話を深めていく事例は面白かった。
私も結構子どもたちとこういう議論をしている方だけど、ネタはいくらあってもいいですもんね。良いネタをいただいた。

見てる世界が狭いのかも

一方で、やっぱり解せぬと思ったのは、この著者の挙げる例があまりに上の層に偏っているところだ。ロースクールや医者を目指している子や、中学受験、小学校受験をしている子たちの話がほとんど。

社会に上下をつけるのがそもそも解せぬけど、学力のヒエラルキーでいえば上位層の人たちを見続けてきた人なんだろう。
第五章には「多くのエリート志望者と接して」という章があり、彼らがエリートになるまでの努力について語られている。
いろんな苦労や苦悩があって、志も高いし努力もできて素晴らしいなと思う一方で、それ以前の「恵まれた環境」ありきの話だと感じてしまう。

エリートになるには努力がいる。
でもそれ以前に親の理解や経済力がいる。
自分も周りもそういう環境だとそれが恵まれていることにも気付けない。
無自覚なバイアス。

こうして生み出された立派なエリートが世の中を動かした結果「貧しいのは努力が足りないだけ」「自己責任」みたいな考えが蔓延っちゃうのではないか。


本のラストは、あるラーメン屋の若者で締めくくられている。
初めはだるそうにしていた少年が、半年後にラーメン職人として立派に働いていて心を打たれるエピソードだ。
学力だけではなく、何か目標に向けて熱中していれば人間は輝いて見える。学問だけが人生ではない、という良い話だった。

でも、絞り出したエピソードがそれだけ、というのがこの著者の見える世界の限界のようにも感じられた。

この本を読む親も、それこそ上ばかり見ている人なのかもしれない。
「できない子」にならないように、「できる人間」になるように。
本を読んで、一部の人たちだけが素晴らしい教育を我が子に施し、子どもは立派に育ち競争に勝ち抜いて、社会を作る側になるのだろうか。

それで本当にいいんだろうか。



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