【ほんわか童話】心も温ったまる、火の用心
童話でHappy♪その6
これは昭和の頃の子どもたちのお話です。
北風が冬の訪れを知れせてくれる寒い夜。
「火のよーじん! カチカチ」
近所の子どもたちが集まって、何人かの大人と一緒に、拍子木をカチカチ鳴らしながら街を歩いていました。
「マッチ一本火事のもと! カチカチ」
街を歩いていると、あちらこちらから、いい匂いが漂ってきます。
「あ、魚の匂いがする」
「コレ、絶対、野菜炒めだよ」
「カレーだ」
「うん、カレーだ」
「あー、カレー食べたくなった!」
カレーの匂いをかいで、子どもたちは火の用心どころではなくなってしまいました。
付き添いの大人は笑顔で、
「カレーは分かったから、火の用心の声出し忘れないで」
「ひ、ひ、火のよーじん、カチカチ」
カレーに気をとられていたので、子どもたちの声は、ちょっとバラバラです。
「マッ、チ、一本、カジ・ノ・モト! カチカチ」
そんな、覇気のない声を出している子どもたちに、
「ごくろうさま~ぁ」
と、声をかける大人がいました。
そこは有名な会社の社長さんの家の前。
これまた世話好きで有名な、社長の奥さんが、子どもたちを呼び止めました。
「おいしいおしるこがあるから、食べなぁ」
道路と家の門の間の広いスペースに、テーブルが置かれて、その上にたくさんのお椀が並んでいました。
カレーに心を奪われていたはずの子どもたちは、一目散にテーブルに近寄っていきました。
テーブルの上のお椀には、茶色の中に丸くて白いおもちの入っている“おしるこ”が入っていました。
美味しそうに湯気が上っています。
「わーぁっ、」
子どもたちは目を輝かせました。
「寒かったろう、さぁ、お食べ」
「いっただきまーす!!」
子どもたちは、お箸とお椀を一斉に取ると、すぐさま口に運びました。
「アチチチチッ」
「慌てるなぁ~」
付き添いの大人たちがそう促しました。
「おいし~ぃ」
「あったまる~ぅ」
「しみるね~ぇ」
と、子どもたちはそれぞれの感想を言いました。
「おかわりもあるからねぇ!」
「イエーイ!!」
そんな子どもたちの表情を、世話好きの奥さんは目を細めて眺めて眺めていました。
すると、1人の女の子が言いました。
「ほんと、寒かったから、うれしいです」
「ほんとほんと、ちょうど腹減ってたから最高だよ」
子どもたちが次々話し始めました。
「おばさん、ありがとう」
「おばさん、いい人ですね」
子どもたちの素直な一言に、世話好きの奥さんはちょっと苦笑いで、
「ありがとう」
と、言いました。
「そうだ、おばさん、おしるこのお礼に」
と、1人の男の子はそう言ってから、
「おばさんの家だけ、火の用心は大目にみるよ」
「え?」
世話好きの奥さんはビックリしてそう言いました。
「そうだそうだ、おばさんいい人だから、火の用心はしなくてイイよ」
別の男の子が言うので、奥さんは可笑しくて仕方ありません。
子どもたちに付き添っていた大人も笑顔になりながら、
「おいおい、火の用心を大目にみたって、お礼にはならないぞ!」
「えーぇ、そうなのぉ?」
男の子はとぼけた声を上げました。
「じゃぁさぁ」
今度は別の男の子が言いました。
「マッチ、三本くらいまで大目にみるよ!」
「えーっ!」
奥さんは驚きながら大笑い。
すかさず女の子が、
「バッカじゃないの、マッチ三本も使っちゃったら、大火事になっちゃうよ」
「そっか、ってバカはねぇだろ」
と、小競り合いが始まりそうだったので、付き添いの大人が、
「はーい、それではみんな、お椀とお箸をおいて、奥さんにお礼を言いましょう」
おしるこがまだお椀に残っていた子は、慌てて口に入れ、みんなお椀とお箸をテーブルに乗せて、
「ありがとう」
「おいしかったです」
「温まりました」
と、それぞれ礼を言いました。
中にはハイタッチを求めてくる子もいました。
「ハイ、がんばってね」
奥さんは1人1人と挨拶を交わしながら、とても心が熱くなるのを感じていました。
そして、
「火のよーじん! カチカチ マッチ一本火事のもと カチカチ」
子どもの声が、先ほどよりも熱をおびた声になり、夜の街に響き渡りました。
おしまい。
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