[ 第二章が始まった ]:シロクマ文芸部(振り返る)
↑こちらのお題に参加してみました。
いろいろと振り返りたくなる時期ですな〜😊♪
[ 第二章が始まった ]
振り返るとそこには、人差し指。
「うわーぃ、ひっかかったー!」
と、喜ぶ男子は、小学生からずっと一緒のサトシ。
「子どもか!」
つか、コレやる時はちゃんと爪切れ、ほっぺた痛い。
もう中学生なのに、それも、あたしたちは受験生だよ。
そして今は12月。
いい加減、落ち着けよサトシ。
年明け早々、入学試験がやってくるぞ。
サトシとは、ずっとこんな感じの付き合いだ。
異性だから、という特別な関係はない。
振り向けばいつもそこにいる。
そんな存在だった。
ずっと、こんな他愛もない関係が続くのだと思ってた。
なのに……。
冬休みが始まる前の日は、半日で学校が終わる。
その日に、屋上に来て欲しい、って、サトシから言われた。
しかも、昨日。
このシチュエーションって、なに、サトシに限って、まさか……ね。
つか、前日に言うか〜。
おかげで、そわそわして受験勉強どころじゃないし、まんまと寝不足だよ!
まったく〜。
で、学校帰り、なんとか無理やり友だちを巻いて屋上に来た。
なのに、そこには誰もいなかった。
自分で呼び出したんだから、いろよ。
と思いながら、なんとなく空を見上げた。
雲一つ無い青い空が広がっていた。
「よっ!」
と、声が聞こえた。
振り返ると、さりげない佇まいのサトシが立っていた。
「よっ、じゃねーよ、」
とは言ったものの、なに言われるか内心ドキドキだった。
ホント、告白だったらどうしよう……。
「あのさぁ、」
うん。
「オレ、」
う、うん。
「今度、」
──この後、あたしの記憶が少し飛んでる。
サトシが正確には、なんて言ったか覚えてない。
でも、確かに言っていた。
「親が海外へ転勤することになったんだ」
的なことを。
海外?
思いもよらない一言。
少し言葉に詰まった。
心臓が、別の意味のドキドキに変わった。
「どこへ?」
そう、あたしは聞いたんだと思う。
「イタリア」
何分で行けるの?
気軽に行き来できる国?
ってか、飛行機?
えっ、空港って、あたし行ったこともない。
あ、冗談かもドッキリかも、って思った。
でも、サトシはその類の冗談はしない奴、と、すぐに思った。
「付いていくの?」
「うん」
その返事の後、サトシは明るい口調で言った。
「悩んだけど、外国に住むなんて滅多にない機会だから」
「いつ?」
もう、単語しか出てこない。
「年明けすぐに」
「受験は?」
「向こうの学校を受けようと思う」
「そっか、」
「うん」
サトシの呼び出しは、告白なんかじゃなかった。
続けて出た言葉は、もっと重たいものだった。
「オレたち、ずっと一緒だったよな」
「そ、だね」
「でも、コレからはずっと一緒にはいられない。いつ帰ってこれるか分からない、だから……」
だから?
「おまえ、好きな人とかできたら、そいつを選べ。オレはもう関係ないから、そいつと仲良くやれ」
「───なんだよ…それ」
少し笑った。
サトシは続ける。
「いや、こんな時は告白するもんだろ、でも……、オレ、待っててくれとか、そういうのイヤだから。オマエはオマエの人生を歩んで欲しいから。だから───」
サトシが言葉に詰まる。
あたしが言葉を紡ぐターンだ。
でも、でも……、なんて言えば……。
先に言葉を紡ぎ出したサトシが言う。
「オレが帰ってきた後でも、今までのような関係でいられたら楽しいと思う。だから、今度……再開できるときまで、気持ちはとっておく」
おーい、それはどう言う意味だよー、なーんて軽口も叩けないほど、頭が混乱してた。
「じゃ、元気で」
「───うん、サトシも、元気で……」
そう言葉を交わして去っていくサトシ。
呆然と立ちつくすあたし。
学校の屋上に、ひとり残るあたし。
少し、落ち着いて、考えをまとめてみる。
いや、まとめなくても分かる。
もう、サトシとは会えない、ってことだ。
振り返ればそこにいた、小学校の時から、ずっとそこにいた。
そんなアイツに会えない、ってこと。
そこにいるのが当たり前だと思ってたのに。
いなくなるなんて、考えもしなかったのに。
違った。
あたしはバカだ……。
大馬鹿だ……。
おもむろに屋上のフェンスに走る。
校庭が見下ろせる。
みんな部活をしていた。
その中に、校舎から出てきたばかりのサトシの後ろ姿を見つけた。
前を向いて歩くサトシの背中。
なにか言いたかった。
なにか言わないと後悔しそうだった。
大声で叫びたかった。
でも………。
なにも声にできなかった。
変わりに、涙が溢れてきた。
遠ざかる、サトシの背中。
涙でどんどん掠れていく。
だけど………、
あたしの気持ちは、ぜんぜん、声にならなかった。
───その日を最後に、サトシとは一度も会っていない。
※※※※※※
そして今日は、初めての同窓会。
会場は私たちのクラスの教室だったところ。
冬休み中だからと、学校から特別に許可が降りたそうだ。
なにも大学受験を控えたこんな時期に開催しなくてもいいと思うけど、意外なほど人が集まった。
みんなきっと、受験勉強の息抜きがしたかったんだと思う。
昼間の学校ということで、質素なパーティだった。
それでも、みんなの会話は弾んだ。
あの頃と同じように。
あたしは、参加しようかちょっと迷った。
迷った原因は、もちろんサトシ。
会えても会えなくても、なんか………気まずいと思ったから。
でも、結局、参加した。
サトシは、いなかったけどね。
まぁ、そんな気はしてたんだ……。
あたしは、同窓会を少し抜け出して屋上に来てみた。
なんか、あの時のケリをつけたくて。
12月の夕方の屋上は、めちゃくちゃ寒かった。
コートを持ってくればよかったと思いながら空を見上げる。
少し、橙色の空が広がっていた。
あたしは、体を丸めながらフェンスまで歩いた。
部活に勤しむ後輩たち。
あの時と同じような光景がそこにはあった。
ただ、校舎から出てくるサトシの後ろ姿はない。
後悔はなかった。
あの時、声が出せたなら、なにか違ったのかなぁ、なんて思うことはあった。
でも、それだけだった。
高校3年間はそれなりに楽しかった。
うん、サトシのいない3年間は、なんとか乗り切れた気がする。
ただ───、
なんとなく………、
ん?
誰かが左肩を、トントン、と叩いてる。
反射的に振り返るあたし。
そこには誰かの、人差し指。
「うわーぃ、ひっかかったー!」
!!!
「よっ、」
と、手を挙げるサトシの姿。
それを見て、あたしの口から声が出る。
「よっ、じゃねーよ」
あれほど声が出せなかったのに、あっさりとそれは出た。
そこから、あたしとサトシの第二章が始まった。
おしまい。
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