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コロナ禍の建築におけるデジタル技術が果たす役割

大浦 理路
日建設計 デジタル推進グループ デジタルソリューション室
コンサルタント

コロナ禍におけるデジタル技術の活躍と普及というのはとても目覚ましいものがありました。これは、ウイルスの感染拡大により、企業活動や市民生活に大きな制約が出る一方で、デジタル技術の活用により日々の様々な制約の緩和、回避を可能としたからです。とかく、監視社会の助長、データの不正利用など、負の側面で語られることも多いデジタル技術ですが、正しい理解と倫理の下に利用することができれば、人間を人間らしく、より豊かな生活へと導いてくれることでしょう。
建築においても例外ではなく、デジタル技術が果たす役割はより一層大きくなるものと考えられます。

①コロナ禍におけるデジタル技術

図1:コロナ禍においてデジタル技術が果たした役割

コロナ禍の建築においては、館内の行動がかなり制限されることを私たちは身をもって知りました。マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保するなど、社会的な行動制限の他に、誰かが使った席や物を使いたくない、Face to Faceでのコミュニケーションを避けてしまうと言った心理的な行動制限が取られているケースが多いのではないでしょうか。
デジタル技術は見えなかったものを可視化、制御することで、社会的、精神的な行動制限を緩和することが可能だと考えています。

本稿では、建築との親和性が高いと考えられる位置情報を利用した「感染源の遮絶」、「3密の可視化」、「3密の緩和」、「感染経路の追跡」についてお話したいと思います。

感染源の遮絶

館内における感染拡大を防止する最も効果的な方法は、感染源を館内に侵入させないことです。サーモカメラによる発熱者の特定と合わせて、感染履歴や罹患兆候(生体情報)と位置情報から、感染源となる来館者の入館を未然に防ぐことができます。また、そもそも”入館者の低減”という観点から、前稿「Smart Operation Building~withコロナのオフィスビル 5つのキーワード~」にもあったようにロボットを駆使した配送や清掃も有効です。このロボットが自律的に走行するために、ここでも位置情報が利用されるでしょう。

②感染源の遮絶

3密の可視化

位置情報を利用して3密を可視化することにより、状況を次の通り認識して、自ら3密を回避できるようになります。

「密閉」 
空気質(CO2濃度)をモニタリングすることで、十分換気されているか

「密集」
位置情報による人数とその空間の大きさから、十分疎になっているか

「密接」
位置情報による人と人の距離から、十分離れているか

③3密の可視化

3密の緩和

3密は可視化により回避することができる他に、積極的に建築側を制御することで3密を緩和することも可能です。

「密閉」
位置情報から得られる人数に基づく、空調設備による換気量の増加や窓の自動開閉による自然換気の促進

「密集」
位置情報に基づく、エレベーターの混雑緩和および人数制限を設けた運行制御

「密接」
位置情報に基づき、人と人とが近づきすぎた場合に、例えば打合せテーブルの真ん中から透明なパーティションが飛び出す仕掛けなど

④3密の緩和

感染経路の追跡

水際対策や3密の回避、緩和を講じても、感染リスクを完全に解消することは難しく、感染者が発生した場合を考慮して、対策を用意しておいたほうが良いでしょう。個人の位置情報を積み重ねることで、感染経路の追跡が可能となります。感染者の移動履歴から、利用空間や濃厚接触者を特定し、全館消毒、全社員の行動履歴調査などを行うというような多大な労力を要することなく、迅速にかつ効果的に対応できます。

5社による協創

これらの一端を担うデジタル技術として、日建設計を含む5社による協創を開始し、2020年4月にプレスリリースを出しました。

おわりに

位置情報に限らず、建築におけるデジタル技術が果たす役割はより一層大きくなるでしょう。バイタルデータから健康や生産性を把握するツールとそれを最大化させる空間。リアルコミュニケーションと遜色ない、もしくはそれ以上のデジタルコミュニケーションができるツールと空間。そんな夢を皆様と共に描きながら、より豊かなExperienceを実現していきたいと思います。


大浦

大浦 理路
日建設計 デジタル推進グループ デジタルソリューション室
コンサルタント
2015年、東京大学大学院建築学専攻を修了後、日建設計に入社。
入社から2018年まで設備設計部に在籍し、南青山研修センター(2018)など、環境性・快適性・意匠性を緻密に結びつけた建築を目指し、設計に従事。
2019年よりデジタルソリューション室にて、人工知能を用いた空調制御やヒューマンセンシングによる空間趣向性の分析など、建築における最先端技術利用のシーンを試行・実践している。世の中に広がる多様なシーズとお客様の潜在的・本質的なニーズを的確に結びつけるソリューションの提供を目指し、提案を行っている。



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