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日建グループ オープン社内報|デザイン人生相談 オレに訊け!①

杉山 俊一
日建設計 設計部門 設計グループ
プリンシパル

自宅ワークプレイスの光環境

40代女性からのお悩み相談

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在宅勤務になってから、光環境が気になるようになりました。オフィスでは均質な光環境が確保されているので、快適でしたが、自宅では、時間によって光環境が変わってしまいます。だからといって、時間の移り変わりは感じていたいし、オフィスみたいな自宅にはしたくありません。何かいいアイディアはありませんか?

光は TFO-time feeling object- に合わせて~自宅ワークプレイスの光環境づくり~

私の自宅の狭い書斎を例に、TFO-time feeling object- に合わせた光環境づくりをテーマにお話しします。
Time 時間の経過に合わせた環境
Feeling 自身の体調や気分に合わせた環境
Object 作業対象・見る対象に合わせた環境

窓の明かりの採り入れ方:複数のスクリーンで快適な光を!

最初に私の自宅の作業環境をスケッチ(下図)でご紹介します。光環境としては、正面(南側)に窓、その内側に天井から照明器具を下げ、そしてカウンターとデスクの二段の作業机に、デスクにライトを置いています。窓枠にはオーダーしたペーパーブラインドを設置、これは上部レース・下部ベージュのペーパーでアコーディオン状になっていて、オールスルー・半透過・やや遮光・その中間、と調整できます。そして、この窓の上には遮光用ロールスクリーンを設置しています。
朝の仕事始めは、全開放で空を見たり換気したりします。作業を始めるとレースを降し、集中したい時はベージュのペーパーで外が見えないようにします。これらはいわばフィーリング(F)に合わせて、といったところ。
午前11時くらいになると正面からの直射日光を遮るため、一番手前のロールスクリーンを適宜降ろし、14時くらいにはまたペーパーブラインドに戻します。これらは主に時間(T)に合わせた光環境づくりで、もちろんカーテンでも置換え可能です。

照明器具の選び方:照らす場所と対象を考えた設置方法と組合せを!

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天井照明は、下面だけではなく天井や横方向に心地よく光が放たれる器具で90W電球にしています(上図)。天井から約70㎝・窓から30㎝の位置、ほぼ身体の中央に設置していますが、この位置が机上面の明るさが程よく、自分の手影が出にくく、かつ机に向かう視野やPC画面に電球が入らずグレアが起きない位置です。これは机上の見る対象(O)への対応です。また私は天井を見上げて考え事をすることが多く、そのような気分の時は天井の程よい明るさが大切な要素になります。人の視覚は、必ずしも照度で明るさを感じるわけではなく、見る対象に光が当てられることで明るさを感じます。更に明るさには周囲とのバランスが大切で、見上げた時に天井面に電球があるとそこに瞳孔が合ってしまい、目にストレスが生じるので、電球を天井から少し降ろし天井を柔らかく照らしています。これはフィーリング(F)に合わせてといったところです。実は建築の設計実務でもこの手法は様々なところで必要になります。

最後に、デスクライトはLEDで昼白色製品です。天井の電球は色温度が3000ケルビン程度でいわば夕陽の色、リラックスタイムには良いのですが、建築の資料を見るときは特に緑色系・濃い青色系の色が見えづらくなるため、デスクライトの約5000ケルビンの日中弱めの太陽光に近い昼白色と組合せて使用しています。これはまさに見る対象(O)への対応です。このようにTFOの3要素が光環境をつくる基本になっています。

これまでの職場の光環境は本当に快適だった?!

さて、昨年3月以降自宅での仕事が増えて感じることは、オフィスでは気にしていなかった外の光の変化や天候の変化に敏感になったことです。生物としては当たり前ですが、一日の生活のリズムが光によって感じられるようになってきたのだと思います。
太陽光と人の心身の健康の関係についての様々な研究が発表されています。
これまでのオフィスでは仕事環境の均質化を求め、光環境は固定化されて来ましたが、それが人体にとって本当に快適だったのか?を再考し、太陽の光と時間(Time)・気分(Feeling)・対象(Object)、という常に変わるもの・動くものとの関係に合わせて光環境を作っていくことを考えてみてはいかがでしょうか。

光という文字について

最後に光という文字がどのように出来たか、ということに触れたいと思います。高橋政巳・伊藤ひとみ著「漢字の気持ち」によると、光という文字の上部は火を、下部は人がひざまづくさまを表し、火によって光を届ける人の意から光という文字になったとのことです。太古の昔は太陽の他は燃える火そのものが光であり、光は必要な場所に人によって届けられるもの、いずれにしても動くものだったと捉えられます。

出典:高橋政巳・伊藤ひとみ(2011)『漢字の気持ち』、新潮社、p87

※この記事は、2021年2月に日建グループの社内報に掲載した内容です。


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杉山 俊一
日建設計 設計部門 設計グループ
プリンシパル
東京工業大学建築学科、修士課程修了後1992入社。以来、複合建築を中心に多くの大型プロジェクトを中心に手掛けてきている。近年では、東京スクエアガーデン(2013年)、六本木グランドタワー(2016年)、熊本桜町再開発(2019年)等大規模かつ鉄道・バスターミナル等交通施設と複合したTODプロジェクトを担当。

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