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Beyond COVID-19、nextコロナを見据えて ~医療福祉施設の設計技術を一般建築に~

國吉 敬司、片岡 えり
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ

新型コロナの第三波の中、この原稿を書いている現在、10都府県に緊急事態宣言の延長が発令されています。飲食店を中心とした営業時間制限や不要不急の外出自粛の要請、テレワークのさらなる実施など、生活スタイルに大きな影響を及ぼしています。
これまで事務所ビルなど一般建築において、地震・水害といった自然災害に対するBCP(事業継続計画)は認知されており、建築計画にもそれらを取り込んだ設計が求められていましたが、今回のような「感染症」という災害の観点で計画されることはなかったのではないでしょうか。

医療福祉施設の設計技術を一般建築に

Beyond COVID-19、さらにはnextコロナ(さらなる未知の感染症)の流行も見据え、事務所や住宅などの一般建築においても、感染に対する『安全』『安心』は重要なキーワードです。
日建設計では感染症指定医療機関をはじめ、多くの医療・高齢者施設の設計において、感染症対策に関する多くのノウハウを培ってきました。陰圧切り替えができる手術室やICU、感染症病室など、現在も多くの病院でCOVID-19への対応に利用されています。
医療福祉施設で取り組んできた感染に配慮したディテールや工夫は、一般建築にも応用可能な設えが多くあります。高度な技術だけでなく、感染源となりにくい設えなど、nextコロナを見据え、一般建築にも使える感染症対策に配慮した工夫について、以下4つのポイントにまとめてみました。

Safety Point1:安全な空気の流れをつくる

今回、あらためて換気の重要性が一般にも認識されました。センサーによる換気量をコントロールする技術、発生源からのダイレクト排気など、安全な空気の流れをつくるということは一般建築にも応用できます。

図1

目に見えないガスや臭気を感知できる空気汚れセンサーや手動の強弱換気スイッチを組み合わせた換気量制御システムで、部屋や用途に合った換気量をコントロール
図1:センサーによる換気量コントロール

図2

尿や便に含まれるウイルスの飛散(エアロゾル)を抑えるため、便座近傍から排気を取る
図2:発生源からのダイレクト排気

Safety Point2:ドライで清潔な水廻り空間をつくる

ドライで清潔な水廻り空間をつくるということは医療施設の基本ですが、一般建築にもヒントとなります。

図3

濡れた手で使っても、ペーパー廻りに水がかからない下向き型ペーパーホルダー
・洗面の直上に設置することで、床面への水滴落下を防止
・床面・洗面廻りでの菌の発生を防ぐ
図3:下向き型ペーパーホルダー

図4

カウンター・ボウル一体型で清掃しやすく、オーバーフローを取りやめて菌の繁殖を抑える
ボウル間の平場をなくし、非接触の壁出し自動水栓で菌の発生源となる水溜りをなくす
図4:水溜りのない洗面器

Safety Point3:清掃しやすい環境表面をつくる

できるかぎり凹凸を作らない、清掃に配慮した建築計画も重要です。ちょっとした配慮によって、清掃しやすい環境表面が実現できます。

図5

医療施設では一般的な、床面と壁を曲面で継ぎ目なく曲線で立ち上げ、埃溜まりをなくすディテール
引き戸は床上にレールが出ない上吊り式、家具はキャスター付きとすることで床清掃が容易になる
図5:床と壁を曲面でつなぐ

Safety Point4:手指衛生を使いやすい適所に配置する

使いやすさと清潔性を兼ねそろえた医療施設のディテールは一般建築へも応用できます。

図6-02

廊下や家具配置の邪魔にならないように、手洗いや手指消毒液設置場所を建築計画的に工夫
使いやすい位置に配置することで日常動線の邪魔にならない
図6:適材適所に手指消毒

おわりに

COVID-19感染禍のなか、医療機関においては、想定できなかったことなども多くあり、臨時的・緊急的に使いながらの運用改善を行いつつ、今も懸命に治療・対応に当たっておられます。これらの医療機関の方々の声を伺いながら、さらなる未知の感染症も見据え、ハード側もソフト側と一体になって、より一層の進化をとげることが必要です。
感染制御に対してもっとも注意が必要な医療福祉施設に対してはこれらの最新情報にアップデートするとともに、今後は一般建築においても感染症に対してこれらの最新の知見・技術を応用していくことが求められます。


TOP画像:埃溜まりのない折り上げ天井照明(岩手医科大学附属病院)


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國吉 敬司
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト
公的な地域基幹病院や大学病院、民間病院、高齢者福祉施設など多くの医療福祉施設の空調・衛生設備設計を手掛ける。佐賀県医療センター好生館、鳥取県立中央病院、北播磨総合医療センター、住友別子病院など。佐賀県医療センター好生館では省エネルギーな建築設備計画、竣工後の継続的な運用最適化が評価され、空気調和・衛生工学会技術振興賞を受賞。

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片岡 えり
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
伊万里有田共立病院、阿蘇医療センター、明治大学グローバルタワー、小学館ビル、福岡高地家簡裁庁舎、集合住宅、高齢者福祉施設などを幅広く担当。伊万里有田協立病院では外気負荷削減手法を組み合わせた省エネ取り組みが評価され、空気調和・衛生工学会技術振興賞・カーボンニュートラル賞を受賞。



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