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【メディア&テクノロジー・ウオッチ】欧米メディア業界でオンボーディングに脚光

「メディア&テクノロジー・ウオッチ」は、日本経済新聞社の研究開発機関である日経イノベーション・ラボが執筆する不定期掲載のコラムです。ラボが注目するメディア業界の動向や最新テクノロジーについて、欧米メディア・研究機関の記事やデータなどを参照しながらまとめています。

オンボーディング(onboarding)という言葉をご存じでしょうか。一般的には会社や組織に加わった新人が一刻も早く業務をこなせるように、必要な専門知識・技能を身に付けさせるための研修プログラムやその期間を意味します。採用や人材管理の専門用語ですが、欧米のメディア業界では「電子版などデジタル事業で新規獲得した読者(顧客)をきめ細かくサポートし、長期的に利用してもらうための取り組み」という意味合いで頻繁に使われています。

多くの新聞や雑誌は紙の販売や広告収入の落ち込みに苦慮しており、電子版のサブスクリプション(定期購読)モデルで安定的に収益を上げる戦略に軸足を移しています。多大なマーケティング費用をかけて獲得した新規読者は各社にとって宝のような存在ですが、「使い方がよくわからない」などの単純な理由で購読習慣を身に付けないまま解約されてしまうリスクもあります。新規ユーザーが契約してから数週間の間、手厚くフォローするのは当然の流れといえます。

各メディアの取り組みについて米メディア関連の非営利団体、アメリカン・プレス・インスティテュート(American Press Institute)が「優れたオンボーディングで購読者のロイヤリティーを獲得する方法(How to win the loyalty of new subscribers through great onboarding)」(2019年12月5日)との見出しの記事でまとめています。

記事によれば、メールやチャット、動画などで新規読者に歓迎のメッセージを伝えることが何よりも肝要と訴えています。既に多くの企業が実践中。例えばミズーリ州の地方紙、カンザスシティ・スター(Kansas City Star)。新規読者は同紙から「歓迎メール」を受け取り、メールに張られたリンクから短い動画サイトに誘導されます。読者はその動画を眺めるだけで読み方のヒントやコツなどを知ることができる仕掛けです。

ミネアポリス州最大の地方紙、スター・トリビューン(Star Tribune)の場合はもっとストレートでシンプル。発行人のサイン入りのお礼の手紙を各新規読者に郵送しています。

購読者に主要記事の見出しや要約、お知らせなどをメール形式で定期配信する「ニューズレター」も有効なオンボーディング戦略のツールです。テキサス州の地方紙、ダラス・モーニング・ニュース(Dallas Morning News)は「重大ニュース速報」など複数のニューズレターを送付することで新規読者との距離を縮めています。

これら取り組みはネットフリックスやスポティファイなどサブスクリプション事業で大量の定期購読者を持つ新興メディア企業にとっては当たり前の戦略で、紙の読者を中心にビジネスを展開してきた旧来型メディアにとっては新鮮に映るのかもしれません。今後は新規ユーザーの獲得に向け、新旧メディアの争奪戦が一段と激しくなるのは確実で、オンボーディング戦略もより多様化・高度化しそうです。

日経イノベーション・ラボは、「テクノロジー・メディアへの飛躍」を目標に掲げる日経がデジタル分野でイノベーションを興こすための中核拠点という位置づけです。すでにラボが中心となって人工知能(AI)や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などの研究開発・調査を実施しています。




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