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出口治明さんに取材しました #ファクトを活かそう

こんにちは。次の日経を考えるチームのSuperMurachanです。日経電子版に掲載した「#ファクトを活かそう」の記事転載、第3弾です。APU(立命館アジア太平洋大学)学長の出口治明さんに取材しました。テーマは「エビデンスで考える」。時折混じるやさしい関西弁で、エピソードではなく、エビデンス(証拠)で考えることの重要性を説明していだたきました。経済や財政問題、教育など多岐にわたりボリューム感あるインタビューになりました。ぜひご一読ください。

「エビデンスで考える」 #ファクトを活かそう 03

――出口さんはエピソードではなくてエビデンスで世界をみることの重要性を説いています。著書「日本の未来を考えよう」(クロスメディア・パブリッシング)で、財政問題や高齢化といった日本の課題を多くのデータで読み解き、正しい現状を認識する必要性を訴えています。

常に縦と横で考えています。人間の頭、つまり脳はこの1万年以上進化していません。喜怒哀楽や経営判断は昔も今も一緒ですから、「昔の人はどうだったか」を調べるのは有効な手段です。これが縦軸の時間軸です。また、横軸は「世界の人はどういうことを考えているのか」という空間軸で考えることです。
たとえば夫婦別姓の話です。源頼朝は北条政子と結婚して鎌倉幕府を開いています。別姓ですよ。横でみれば経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国36カ国のなかで法律婚の条件として夫婦同姓を強制している国は皆無です。結婚という制度はどこにでもありますが、縦と横をみれば夫婦別姓という考え方は当たり前なんだなということがすぐにわかります。
次に大事なのはデータです。「縦・横・算数」「エピソードでなくエビデンスで考える」。フランスに遊びに行った友人が帰国後、「向こうの店員さんは不親切だ。ニコリともせず品物を渡すだけだ。これに比べたら三越も大丸、高島屋も店員さんは優秀だ」と話してくれました。でも、この30年間フランスは労働時間を年1300時間まで減らし、それでも2%の経済成長をしている。一方、日本は正社員に限っていえば2000時間でほとんど減らせず、1%成長がやっとです。その話をしたら、彼も「そうだね。俺が話したのは単なるエピソードだ。個々の人が一生懸命やっていても、それをマネタイズできないマネジメントが日本の問題だね」と、すぐに理解してくれました。

――出口さんの「数字・ファクト・ロジック」に基づいた物の見方や分析手法は、「ファクトフルネス」の内容と共通項が多いと感じます。

エピソードではなくエビデンスで世界をみるべきというのは、僕もずっと言い続けてきました。データをベースにしない議論は不毛です。コミュニケーションするためには信頼できるデータをベースにロジカルに考えていく以外にない。「日本の未来を考えよう」という本にいろんなデータを盛り込み、ありのままの姿を見てもらおうと思いました。「ファクトフルネス」を読んでみて、同じことを格好よくまとめた人がいるんだな、というのが最初の感想でした。

――「ファクトフルネス」は「恐怖」「焦り」といった人間が陥りやすい本能について項目ごとに書かれています。出口さんが「まさにそうだな」と思った本能はありましたか。

本能というのは単なる切り口にすぎませんから、本能に焦点を当てるのはあまり意味がないと思います。面白おかしく上手に書かれていてすごいなと思います。「縦・横・算数」では面白くないので、「本能」というワードでまとめたほうが人々の腹に落ちやすいという話です。この本の本当に良い所はエピソードではなく、エビデンスできちんとデータをみて考えようという点です。エピソードの重要性を理解させるために、「今の社会に生きている人はこんなクセがありますよ」と著者は提示しています。

■けんかと「アレキサンダー大王」

――出口さんが「縦・横・算数」や「数字・ファクト・ロジック」という発想を持ち始めたのはいつごろからでしょうか。

僕は小さい頃はガキ大将だったんですよ。よくケンカしていました。小学校のころは体が大きかったのでだいたい勝っていました。でも5発殴って勝っても、3発くらい殴られるんですよ。勝つけれど、こっちも痛い。小さいころから本が好きで中学1年のころは「アレキサンダー大王」にすごく憧れていました。自分のけんかの経験に照らして、10年間も戦争に勝ち続けるのが信じられなかったんですよ。だって5発殴って3発殴られるダメージを僕が受けているのに。アレキサンダーって不思議だな、と。図書館の本を探して読むと、インダス川のほとりで援軍を受け取っているという記述があって、そこで腹落ちするわけですよ。だから勝つんですよね。元気な兵隊をちゃんと補充していたので。
でもすぐに疑問がわきました。「電話も郵便もない大昔にマケドニアからインダス川のほとりまで行って、どこにアレキサンダーがいるのかが分かったんだろう」と思いました。調べていくとアカイメネス朝ペルシャ帝国がつくった「王の道」という駅伝制度があって、それを上手に使って連絡していたのが分かりました。なるほどアレキサンダー大王はゼロから新しい帝国を作ったのではなくて、ペルシャを乗っ取ったんだなと。そのインフラの上にアレキサンダーの大帝国ができたんだと腹落ちしました。
このように中学生の頃にはもう、「なんでだろう、なんでだろう」と考えるクセがついていたような気がします。大学に入った時です。僕は文学や自然科学の本は読みあさっていたんですが、大学に入った1960年代後半は全共闘時代。都会の同級生たちはみんなマルクスやレーニンを高校時代に読んでいました。それでマルクスを読み始めたら、ヘーゲルやカント、デカルトへとさかのぼっていきました。最後はプラトンまでいきました。このころに「数字・ファクト・ロジック」という考え方がほぼ固まった気がします。

――出口さんのベースは「人・本・旅」と以前、出口さんの著書で読みました。もっとも影響を与えたのはなんでしょうか。

僕は何からできているかといえば、おそらく本が50%で、人と旅が25%ずつ。本が圧倒的ですよ。尊敬する人といえば真っ先に元の初代皇帝「クビライ・ハーン」が浮かびます。実際に会うことと本を読んで知ることに境目はありません。クビライの合理性にひかれました。彼はなにもないところに大都という新しい都を作る。今の北京の前身です。大都は実質的にはアラビア人が作った街です。クビライが即位したのは1260年。そんな昔にモンゴル人でもない、中国人でもない、すぐれたアイデアを出した外国人に任せたんです。そのような度量を持っていました。国籍や民族、年齢、性別に一切かかわりなく、有能だったら使う。そこが一番憧れるところですね。
たとえば日本が東京一極集中をやめようと新しい首都づくりを始めたとします。多分、規模から考えて設計は国際コンペになりますよね。コンペの結果、1位が韓国や中国の人だったとき、果たして任せるでしょうか。「任せない」という人が結構いると思います。一番アイデアが優れた人に任せるべきなのに。日本人の総監督やアドバイザーをつけようなどという話になる。これは偏見や思い込みのせいです。

――エビデンスで考えるという点で最近、気になっている社会問題はありますか。たとえば年金問題はどうですか。

年金は破綻するはずがありません。年金の本質は皆からお金(社会保険料)を集めて再分配しているだけです。世界中の学者で年金が破綻するといっている学者は皆無に近い。将来の年金を担保するものは2つしかありません。経済成長と良い政府。ニコラス・バーという世界的に有名な年金学者が言い続けていることです。
年金が破綻するという人は「ヤング・サポーティング・オールド」(若者が高齢者を支える)という前提に立っているだけの話。この前提は普遍的な真理ではない。少子高齢化が進んでいる欧州では「オール・サポーティング・オール」(みんながみんなを支える)という前提に変わってきています。年金が破綻すると言っている学者がいるのはおそらく日本だけです。

■メディアの責任は大

――なぜ日本ではデータに基づかない議論が出るのでしょうか。いつまでも改善しない理由はなんでしょうか。

メディアがきちんと書かないからです。メディアの責任がかなり重い。それはメディアが不勉強だからです。大学の事例でいえば日本はセンター試験を変えようとしています。普通なら世界のセンター試験がどうなっているのかをまず調べませんか。でもそんな報道は見たことありません。「英語の4技能をどう考えるか」とか「民間に委託して大丈夫か」といった細かい議論ばかりです。センター試験を見直すんだったら、なぜ世界のセンター試験を参考にしないんですか。
たとえばフランスのバカロレアは「物事を知るには観察だけで十分か」とか「芸術は美しくある必要はあるか」といった問題を18歳に解かせているわけです。なぜそんな世界のセンター試験の動向を報道しないのか。おかしいと思いませんか。
ただし不勉強と申し上げたのは何も本人が悪いわけではなく、構造の問題です。年2000時間以上も労働していたら勉強できない。日本人が怠けものだとか、レベルが低いなどという問題ではなくて社会の構造が製造業の工場モデルに過剰適応していることに問題があります。世界はサッカー(サービス業中心)に変わっているのに、まだ野球(製造業)をやっていると思い込んで素振り(残業)を続けているようです。だから、残業を減らすのは正しいことです。

――日本は戦後復興のままのモデル。重厚長大の産業を育ててきたままのスタイルが変わっていませんね。

そうです。一括採用や終身雇用、年功序列、定年……。これらは高度成長と人口の増加がなければ、成り立たないワンセットの労働慣行です。もう、ありえない話です。徐々に変わりつつありますが、そのスピードは遅い。新しい産業の象徴であるユニコーン(企業価値10億ドル以上の非上場企業)はどこにいるのか。米国に200社、日経新聞によると中国に七十数社、インド17社、フィナンシャル・タイムズによると欧州連合(EU)31社、日本はゼロじゃないですか。日本は時間との競争をどうするかという観点をもっと重視しなければいけないと思います。

「ファクトフルネス」講演会・ライブ中継のお知らせ

日本経済新聞社は7月11日、『ファクトフルネス』の共著者、アンナ・ロスリング・ロンランド氏を招いた来日記念講演会を開催します。7月4日には、来日を記念したプレイベントも開催します。
両イベントともに募集は終了しておりますが、一部の内容をライブ中継する予定です。放送予定などはこのTwitterでお知らせするので、ぜひフォローをお願いします

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