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全国大学アドミッションポリシー品評会《明快部門》受賞3作品

❖大同小異の「アドミッションポリシー」

今はどこの大学でも,「アドミッションポリシー」(入学者受入れ方針)を明文化して,ウェブサイトに掲載しています。読んでみると、堅い文章で抽象的な理念が綴られているため,内容がスッと頭に入ってきません。
たとえば,「教育理念」や「求める学生像」に頻出するワードは次のようなものです。
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グローバルな視点/国際社会への貢献/開かれた大学
フロンティア精神/コミュニケーション能力/リベラルアーツ
個性・多様性の尊重/共感力・協働性/自ら行動し考える
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それぞれ大切なことだとは思いますが,「とりあえず全部入れちゃえ」とばかりに詰め込むものですから, ゴチャゴチャして何が言いたいんだか。結局のところ大同小異,個性や多様性のカケラもない画一的なアドミッションポリシーになってしまうのです。

❖「求める学生像」の典型パターン

「建学の精神」は,それでもまだ多少の個性が感じられます。創立者の思想や哲学を引用することで,どうにか差別化が図れるからです。
ところが,「求める学生像」となるといけません。大学入試改革のスローガン《思考力・判断力・表現力》をベタベタと貼り付けて一丁上がり,どこを切っても同じ顔が出てくる「金太郎飴」状態です。
典型例として,神戸大学のウェブサイトから引用しておきます。
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神戸大学の求める学生像
1.進取の気性に富み、人間と自然を愛する学生
〔求める要素:思考力・判断力・表現力、主体性・協働性、関心・意欲〕
2.旺盛な学習意欲を持ち、新しい課題に積極的に取り組もうとする学生
〔求める要素:知識・技能、主体性・協働性、関心・意欲〕
3.常に視野を広め、主体的に考える姿勢を持った学生
〔求める要素:主体性・協働性、関心・意欲〕
4.コミュニケーション能力を高め、異なる考え方や文化を尊重する学生
〔求める要素:知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性・協働性〕
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ちょ、詰め込みすぎ~。
そんなパーフェクトな高校生がいたら逆に気持ち悪いってば。

❖勝手に品評会──《明快部門》受賞3作品

大同小異のアドミッションポリシーですが,中にはキラリと光る「作品」もあります。せっかくなので,私が勝手に品評会を開き,勝手に選考して勝手にご紹介したいと思います。
ノミネート作品は全国の私立大学の多くと,一部の有名国公立大学。評価基準は「シンプルで分かりやすい」,《明快部門》の受賞作を発表します(大学名にリンクを貼っています)。

◆佳作◆相愛大学

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アドミッション・ポリシー(大学紹介)

グローバル化、情報化という激しい波によって社会の構造は大きく変わりつつあります。競争や効率化が叫ばれる中で、人びとは自己の利益を追い求め、ともすれば他者のことに思いをいたさない風潮があります。このような社会にあってこそ、人の痛みや悲しみに共感し、相手の喜びを共に喜び、本当の意味での相手の幸せを願うことが何よりも大切でありましょう。相愛大学は、そのような考えを建学の精神とし、これからの時代をつくる、しなやかでたくましい人材を養成しようとしています。
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《寸評》

余計な要素を詰め込んでいないため,内容がスッと頭に入ります。 殺伐とした現代社会を引き合いに出して「共感能力」の必要性を分かりやすく,しかし押しつけることなく説く姿勢に,優しさと謙虚さを感じます。

◎優秀賞◎身延山大学(仏教学科仏教芸術専攻)

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本学が求める学生像
・遺跡や寺院巡りが好きで、仏教史や仏教美術・仏教文化を学びたい人。
・アジアの仏教に関心があり、仏教のルーツを探ってみたい人。
・世界の諸宗教に関する知識を身につけたい人。
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《寸評》

「遺跡や寺院巡りが好きで」の入り方がとても良いです。 「あ,それって私も学んでみたいナ~」と思うような3項目を、身近なところからアジア,世界へと広げていく構成が,私たちの向学心を心地よくくすぐります。

★最優秀賞★医療創生大学

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医療創生大学の教育理念・目的
医学的根拠(サイエンス)に基づいた術(アート)を備えた慈愛(ハート)のある医療人の創生
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《寸評》
「教育理念と目的」をわずか43字で的確かつ明快にまとめ切っています。「慈愛」を「ハート」と意訳しつつ「アート」と韻を踏むあたりの遊び心,ラップ的感性もオシャレですね。見事という他ありません,アッパレ!

▲選外▲東京大学

選に漏れた「作品」も紹介しておきます。 なぜ選外になってしまったのか,じっくり読み込んでみてください。
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東京大学の使命と教育理念
1877年に創立された我が国最初の国立大学である東京大学は,国内外の様々な分野で指導的役割を果たしうる「世界的視野をもった市民的エリート」(東京大学憲章)を育成することが,社会から負託された自らの使命であると考えています。このような使命のもとで本学が目指すのは,自国の歴史や文化に深い理解を示すとともに,国際的な広い視野を持ち,高度な専門知識を基盤に,問題を発見し,解決する意欲と能力を備え,市民としての公共的な責任を引き受けながら,強靭な開拓者精神を発揮して,自ら考え,行動できる人材の育成です。
 そのため,東京大学に入学する学生は,健全な倫理観と責任感,主体性と行動力を持っていることが期待され,前期課程における教養教育(リベラル・アーツ教育)から可能な限り多くを学び,広範で深い教養とさらに豊かな人間性を培うことが要求されます。この教養教育において,どの専門分野でも必要とされる基礎的な知識と学術的な方法が身につくとともに,自分の進むべき専門分野が何であるのかを見極める力が養われるはずです。本学のカリキュラムは,このように幅広く分厚い教養教育を基盤とし,その基盤と有機的に結びついた各学部・学科での多様な専門教育へと展開されており,そのいずれもが大学院や研究所などで行われている世界最先端の研究へとつながっています。(558字)
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《長い・難解・回りくどい》の3拍子が揃いました。特に2行目の「世界的視野をもった市民的エリート」,難解です。現代文の試験なら間違いなく傍線が引かれて受験生を悩ませるでしょう。
後段に「市民としての公共的な責任を引き受け」とあるので,これが「市民的」の言い換えなのかなあ,うーん・・・ワカランなー。

❖自慢するなら堂々としろ!

これを読んでいて,伊丹十三監督作品「マルサの女2」のあるシーンを思い出しました。国税庁査察部・板倉亮子(宮本信子)の下に,大蔵省から派遣された東京大学出身のキャリア官僚・三島(益岡徹)がついてコンビを組むのですが,三島は何かというと「僕の大学では・・・」と言うクセがあり,亮子はその言葉を捉えてピシッと叱責します。
出身校を自慢するなら堂々としろ!
そうなんですよ、東大出身者ってマジメだし勉強家だし謙虚なんだけど、どこか屈折したところがあるのです。
私の知っている人もそうです。自分のことを出身大学と結びつけて,「凄く頭の良い人」「超マジメな優等生」「偏差値秀才」みたいなステレオタイプな見られ方をするのをとても嫌がるんです。
それでも,東大出身者であることには誇りを持っていて,「普通の人」「凡庸な人」「デキない人」と見られたくないという矜持もあります。
だから,「出身校の名前を露骨に口に出したくない、だけど暗黙の了解として知っておいてほしい思いはある」──そんな屈折した心の内を東大のアドミッションポリシーが吐露しているように見えるのです。

❖東大のアドミッションポリシーを30字で!

手垢がついた「エリート」という言葉を使いたくない。なので「世界的視野をもった市民的エリート」という造語をこしらえて「一般人の頭の中にあるような『鼻持ちならないエリート』じゃないですから」とアピる。
「頭でっかちの偏差値秀才」とステレオタイプな型に嵌めて散々言われてきたことに忸怩たる思いがある。なので「強靭な開拓者精神を発揮して,自ら考え,行動できる人材」とアピりたくなっちゃう・・・
結果的に、修飾語を多用した,長く難解なフレーズを使わざるを得なくなってしまうわけです。だから読みにくいし,スッと頭に入ってこない。
そこで、私からの提言です。
もういいじゃないですか,堂々と自慢しちゃいましょう!
東大が凄い大学であるのは、自他ともに認めるところです。いつまでも屈折感を引きずっていると,欧米のエリート大学出身者のように,周囲に忖度することなく自分をグイグイと前面に押し出してくる連中には勝てません。
彼らと堂々と渡り合って,沈みかけている日本を救う。それが東大出身者に課せられたグローバル社会における使命だと思うのです。
というわけで,私が東大のアドミッションポリシーを30字でまとめてみました。日本一短いです。
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本学はエリート育成のため, 
日本随一の教育環境を整えています。
(30字)************************************************
これでいいんじゃない?