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#72 4つの言語が飛び交う結婚式に参加して気付いたこと(後編)

今回は、スタッフの小野塚さんへのインタビュー記事です。
小野塚さんは、お隣の韓国で貴重な経験をしてきたそうです。
その経験について、お話を伺いましたので、皆さんにも共有します。前編と後編の2本立てとなります。今回は後編です。

前編はこちら。
>#71 4つの言語が飛び交う結婚式に参加して気付いたこと(前編)

ー複数の言語を使って交流する中で、苦労したことや気づきなどはありましたか。

日本語・韓国語・日本手話・韓国手話の4つを使い分けることに苦労しました。普段は、日本語と日本手話の2つを使っています。今回参加した結婚式では、そこにプラスして韓国語と韓国手話が入ったため、混乱する場面がありました。

私とシヒョンは10年の付き合いなので、韓国語+日本手話、日本語+韓国手話というあべこべの組み合わせも使いながら、4つの言語を駆使して話すことに慣れています。
しかし、今回初めてお会いしたシヒョンのご主人(韓国人・ろう者)と会話する時には、なかなか通じませんでした。私が韓国語+日本手話で話しかけても、「??」という表情でした。

なぜ通じなかったのか考えてみて気付いたのですが、私は口で韓国語を話しながら、手で日本手話を話す・・・ろう者のご主人には声が聞こえないので、日本手話から連想して、口も日本語と思っているのではないかと。

臼井さん(にいまーる理事長)は、日本手話ができないがドイツ手話ができる日本人と、日本語+ドイツ手話で会話したところ、話が理解できなかったそうです。臼井さん曰く、言語の衝突が起こり、どちらも読み取れなくなるとのことです。

シヒョンのご主人の中でも、言語の衝突が起こっていたのではないかと思います。

─今回、初対面のろう者と会って交流する中で、苦労はありましたか。

今回の結婚式には、たくさんのろう者が出席していました。韓国人ろう者はもちろんのこと、日本人ろう者も出席していて、会場には「韓国人の聞こえない人」「韓国人の聞こえる人」「日本人の聞こえない人」「日本人の聞こえる人」が入り混じっていました。

結婚式の日はとても暑い日で、たまたま喉が渇き自動販売機を探していたのです。むこうから歩いてきた韓国のカメラマン(ろう者)に、韓国語+日本手話で「自動販売機、どこ?」と場所を聞いたところ、通じませんでした。

その際「日本人ですか」と手話で聞かれ、次に「聴者ですか」と聞かれました。結婚式場には様々な人がいたため、コミュニケーションを取るために日本人・韓国人どちらなのか、ろう者・聴者どちらなのかという判別が必要でした。相手によってコミュニケーション手段を変えないとならない点は、頭の中の混乱を招きます。
私自身も、頭がごちゃごちゃになり、息子から話しかけられた時に思わず韓国語で答えてしまい「はあ?日本語でしゃべってよ」なんて言われてしまいました(笑)

─母語ではない言語の中に身を置くことで、何か感じることはありましたか。

今回の経験で「伝わらないもどかしさ」をすごく感じました。

韓国語の学習は2年前に辞めており、久しぶりの韓国語というのもあって、日本語が通じにくい釜山では、伝わらないもどかしさを感じました。圧倒的に聴者が多い社会の中で、きっとろう者も、注文一つや手続き一つでも自分が言いたいことが伝わらないもどかしさがあるのだろうな、それを自分の体験として実感することができました。

食事に入ったお店でセットメニューの説明を受けた時、よくわからない部分がありました。でも韓国人の店員さんも一生懸命伝えようとしていることがわかるため、英語を言ってみたり、簡単な韓国語に変えてみたり、指差しをしたり、やっと通じた時にはお互いに笑顔になることができます。それがまた楽しいですよね。

伝わらないもどかしさを感じながらも、工夫しあってお互い伝えようという努力をするのが、コミュニケーションなのだと思います。
違う言語の中に身を置くことは、普段自分が身を置いている世界を俯瞰的に考える良い機会になると思いました。

─韓国のろう者を取り巻く環境や文化について、何か気づきはありましたか。

手話のことやろう者を取り巻く環境のことで言えば、韓国と日本の違いを少し感じました。

友人シヒョンの職業は「ろう手話通訳士」です。ろう者で手話通訳の仕事をしています。
日本ではろう者が「手話通訳」を職業として担っているのは、私はまだ聞いたことがありません。(実はこのインタビューを受けた後、たまたま読んだ本で、日本にも「ろう通訳士」の方がいることを知りました。)

また、韓国でテレビを見ているとニュースに手話通訳が付いていたり、新幹線の中の広告案内の動画に手話通訳がワイプで写っていたりします。シヒョンに聞いてみたところ、全部のニュースに付いているわけではないとのことでしたが、私の感覚的には日本よりは手話通訳の姿を見ることが多いような感じがしました。

そうそう、韓国では手話の表記が「手話 수화」から「手"語" 수어」に変わったんですよ。2016年に手話言語法が制定された時に手話も一つの「言語」ということで「手語」に変わったそうです。すごいですよね。手話という言葉が変わるなんて、さすが「パリパリ文化※」の韓国だなぁと思いました。

※パリパリ文化とは「빨리 빨리(パリパリ/早く早く)」という意味で、何事も早ければ早いほど良いという考え方のこと。

シヒョンの話では実際には、まだまだ定着しない部分もある、容易ではないとのことでしたが、それでも日本と比べると変化を恐れない姿勢は、さすが韓国の文化というか、すごいなあと思いました。

今回の渡韓で、貴重な体験ができました。
何よりも友人の幸せな姿を間近で見届けることができたことが嬉しかったですし、4つの言語が溢れている空間で、言語を組み合わせながら会話をする体験は、めったにないことですからね。

日本人と韓国人、聞こえる人と聞こえない人、それぞれ「違い」はありますが、その「違い」が私には楽しいのです。これからもその「違い」を認め合い、お互いの文化を楽しみながら交流を続けていきたいと思っています。

今回、シヒョンのご主人から韓国手話の本をプレゼントしてもらいました。次に会うまでに韓国手話も学び、今度は韓国手話を使って、もっともっとコミュニケーションがスムーズになるように頑張りたいです。


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インタビュアー:米本 江里
編集:横田 大輔(X:@dyokota_


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