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#5 聴者とろう者 コミュニケーションの文化の違い

NPO法人にいまーるの理事・臼井です。
にいまーるは、障害福祉サービス事業を中心に手話普及活動も行なっている団体であり、ろう者と聴者が一緒に働く職場です。
障害福祉サービスの利用者は全員耳が聴こえません。
しかし、スタッフの比率は、ろう者2割:聴者8割と、聴者が多いので、双方の文化の違いが垣間見え、時には食い違うことも多々あります。
そんな職場から生まれ出る、聴者とろう者が共に仕事をする中での気づきを連載していきます。
今回は「文化の違い」について書いていこうと思います。

金曜日になれば「良かったら飲みに行かない?」と話が出ても、このご時世さすがに「はぁ?何言ってんの?こんな時に」と断られてしまう可能性が高いかもしれませんが、この「誘う⇄誘われる」という関係性で、「断る」というのは日本人にとって大変勇気のいる(?)行為の一つではないでしょうか。

ここで、ろう者と聴者の断り方が分かれるのは百も承知ですが、お時間ありましたらちょっとお付き合いくださいませ。

「良かったら飲みに行かない?」と誘われたのに対して、
「(あぁ、上司に声かけられちゃったけど…)はい、行きます!」と答える人もいれば、
「すみません、今日は無理です」ときっぱり答える人もいるでしょう。

一言にろう者とか聴者とかカテゴライズしてもあまり意味がないように思うけれど、どうしても断り方を観察していると両者の違いが出ていて面白いなあと思ってしまいます。

ろう者同士であれば「今日?無理!これからデートだから!」と言う。
聴者同士であれば「今日ですか、ごめんなさい。ちょっと用事があって…」とやんわりと断る。
でもそれも関係性によっては、「ごめん、無理」ときっぱり言う人もいます。

聴者に誘われたろう者の反応を見ると、関係性によるものの、どちらかというと具体的に断るケースが多いように見受けられます。「すみません、今日は行けないです」という一言だけでも、「すみません、今日行けたら行きたいんですが…また誘ってください」というよりは、よっぽど具体的ではありませんか(もちろん、日本語リテラシーが高く聴者の常識を心得ている ろう者の場合は丁寧な断り方ををします)。

一方で、聴者の場合はろう者に誘われた時にどうやって断ったらいいか戸惑うようです。

ろう者の常識を知る機会がない、というのが大きいのかもしれません。
市町村で開催されている手話講座で「では、今から、ろう者に誘われた時の断り方の手話を学びましょう」という時間が果たしてどのくらいあるのでしょう。

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図1.聴者とろう者のコミュニケーションの文化の違い

私の知る限りでは「断る」という手話の単語は学べるけれど、「断り方」を具体的に学ぶ機会はあまりないような気がします。

このため、聴者としては相手の気分を害さないように(わぁ、なんて優しいお気遣い!)「あ、また今度で」と答えようと頑張ります。

しかしながら、ろう者にとっては「うん、今度ね。では、いつなの?」と受け止めることが見受けられます。
異文化コミュニケーションの本にも書いてあったのですが、外国人の中にはろう者と同じように反応するので「だから、日本人の断り方って本当にわかりにくいんだよ!もう!」と嘆く人がいるそうです。

日本人は結果よりも「和」を大切にしたい風潮があり、聴者なりの頑張って表した手話が「ありがとう、また今度お願いします」。

言葉の表面だけを見れば、「ありがとう、と言われてるから、今回は無理だけれど次回は大丈夫なのかもね」と期待してしまう。
誰が悪いのかを裁判にかけても意味がないくらい、ここはどうしようもないわけで。

断り方はいろいろですが、手話を使って会話するろう者に対しては「今日は無理です。忙しいです」とはっきり答えることが本当の優しさになります。

「私は嫌われたくないし、そんなはっきり言えるような性格じゃないんだもん。だからちゃんと空気読んでよ!」と言いたい気持ちも理解できます。


では、聴者の常識をろう者が全員学んだほうがいいのか。

マジョリティ(多数派)は聴者なのだから、ろう者のみなさん一緒に学びましょうね。
マイノリティ(少数派)はろう者なのだから、聴者のみなさんはマジョリティの常識を教えてあげましょうね。

という構図でいいのか???と私は思うわけで。

マジョリティの常識だけで成り立っているの?この社会は。

ダイバーシティという言葉が謳われているくらい、社会は変わってきているのに「ろう者と聴者」という構図の中で、なんか今のはフェアじゃないな、と思うことが多くて。

ろう者に誘われたとはいえ、はっきり断っていいんですよ。
断られるのも社会経験の一つですから。

「だから今日は無理だってば!この先も忙しいのじゃ!あほ!」と言えたら座布団100枚あげます。

とはいえ、日本語リテラシーのあるろう者にとって「無理!」と真正面に言われたら凹みます。じゃあ、どっちなんだよ!になっちゃいますね。

でも、やはり大事なのは「その人にとって、どういう言い方だったら一番伝わるのか」を考えて、伝えてみる試み、という行為。

ベストなんて無い。ベターでいきましょうよ。

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著:臼井千恵
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