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#69 ろう者と聴者が一緒に働く職場で気をつけていること(ろう者編)

理事長の臼井です。
にいまーるでは、ろう者と聴者が一緒に働いています。
NPOとしても障害福祉施設としても新潟県内では珍しい職場だそうです。
上司がろう者」となるともっと珍しがられるので、普段どんな働き方をしているのか、ろう者と聴者のそれぞれの視点で書いてみます。
今回はろう者編です。

あくまでも現時点での働き方に過ぎないので、これが数年後には変わっている可能性もあると思って読み進めていただければ嬉しいです。

1. ろう者と聴者の割合(パワーバランス)

にいまーるでは、アルバイトも含めるとろう者3割:聴者7割くらいの割合でスタッフが働いています。
最近、にいまーるはろう者のスタッフを募集しています(2023年10月24日現在)。上司である私が現場にいつまでも立ち続けるのはよろしくないし、ここ数年の間に若い世代(Z世代も含む)のスタッフが増えてきている中で、彼らと同世代のろうスタッフはまだいないということで、募集を始めました。

ろう者と聴者、それぞれが手話を使って意見を交わし仕事を進めていく環境がベストだと思いますし、理想としてはろう者5割:聴者5割の環境です。

当法人はろう難聴者の利用者さん中心の施設を運営していることから、言語マイノリティの視点を取り入れながら環境整備していくことが求められます。
もちろん人件費もかかりますから、単に人を増やせばいいという問題ではないですが、意見を交わすことは言語マイノリティの肌感覚を言語化することでもあり、聴者にとっても新たな気づきを得る機会になるのでは、と思います。


2. 話し方のリズム、議論の運び方

ろう者の中には、議論すること自体に慣れていない人もいます。
日常的な会話は不自由ないものの、経験値が少ないことによって、議論のテンポが掴めなかったり、他者の意図を確認するだけで精一杯で自分の意見を構築することが難しく、「何が言いたいの?」と理解してもらえなかったりすることがあります。

聴覚障害者の当事者研究を行っている松崎先生(宮城教育大学)が著書の中で取り上げていましたが、聴者の場合は幼少期から成人するまでの間に、無意識のうちに、集団生活を通して他者と意見を交わす経験が積み上げられているため、ろう者との間に経験値の差が出てきているようです。https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b630067.html

当法人はろう難聴者の利用者さんが快適に施設を使い、社会資源を活用して豊かな人生を送れるよう伴走することが仕事なので、できる限りスタッフ同士の共通認識を確認しながら進めていけるよう意識しています。


3. ろう者として気をつけていること

上司の立場でもある私にとって「ろう者として」と「上司として」は使い分けるようにしていますが、ろう者の一人として意識していることは、数多くあります。
わかりやすい典型的な例としては、

①来客があった時、聴者に任せっぱなしにしない(ただし上司として、一任する判断はあり)
最初は、相手に「ろう者と接する」経験を持ってもらうためにマンツーマンで対応した後、手話通訳や音声認識アプリを使って対応をします。

②電話を依頼する際、判断材料を揃えて伝える
事業を運営していると、電話リレーサービスよりも共通認識を持ったスタッフに頼んだ方が早い時もあるので、電話を依頼する際は伝言だけでなく、私が知りたいこと、確認したいこと、そして考えている終点(ゴール)も併せて伝えるようにしています。

③議論する際、ろう者としての意見を意識する
利用者の身体的な感覚(聞こえないこと)は、聴者のスタッフにとって理解が難しい領域でもあるため、「あの場面では、多分本人も気づきにくいと思うからストレートに伝えてみたらどうか?」といったようなアプローチ方法も併せて意見を伝えるようにしています。


4. まとめ


かなり前の話になりますが、ろう者が聴者に対して「あなたは見えない壁を作ろうとしている」と言った場面がありました。二人の関係は良好だったので「なんであの時に、そう言ったの?」と聞いてみると「聴者が頑張って手話を学んでいるのは分かっていたのでもっと信頼関係を深めていきたい。でも分かってもらえない部分があるような気がして」と言っていました。

表面的な付き合いを通り越して、人としての関わりを深めることによりお互いが学び合う。これが社会を変えていく小さな始まりになります。

ろう者と聴者が一緒に働く上で気をつけること」というテーゼは、引き続き探求していく必要があります。皆さんの中にある経験談もぜひ聞かせてください。
最後までお読みくださってありがとうございました。



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文:臼井 千恵
Twitter(@chie_fukurou

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