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和製英語の弊害

加藤 麻子


英語で仕事をするようになって久しいが、ここ13年は英語教育に携わっている。その中で、日々思うことがあるのだが、今日は英語学習における和製英語の弊害についてお話したい。

「ウィズ・コロナ」という奇妙なフレーズ
日夜コマーシャルで流され、公共放送、マスコミ、国会中継などで頻繁に使われているカタカナ英語。最近の例で言うと、「ウィズ・コロナ」の時代という表現。これは日本でしか使われない奇妙なフレーズである。誰が最初に言いだしたのかは不明だが、with coronavirusという大胆な表現を使っているのは日本だけだ。 

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英語圏の新聞や雑誌を見ると、We are all experiencing a difficult time. とか in times of crisisや in these uncertain times, prevention measures against coronavirusという表現は頻繁に見かけるが、withという前置詞を使っている文章はお目にかからない。それは当然で 、”with”という前置詞には「寄り添う」というニュアンスがあって、I’m with you. (あなたの意見に賛成です。)とか、我が母校 上智大学の建学の精神 "Men and Women for Others, with Others."「他者のために、他者とともに」のように使われる。唯一、日経新聞アジア版に Living with Coronavirus というヘッドラインを見つけたが、日本語原文からの直訳なのが明らかだ。

Stay away from bars to slow coronavirus spread.という時代に、なぜwith coronavirus「コロナと共生」という不可解な和製英語を使うのか、私には理解できない。そもそもなぜここで英語を使わなくてはならないのかが分からない。皆さんの周りに英語学習者がいる場合、これが和製英語であること、英語では通じないことをぜひ教えてあげてほしい。できれば日本語でも意識的に使わない方がいいと思う。With ~ は、知っての通り、〜と一緒にいる、という意味。コロナと一緒になんかいたくないから。 

Go To Travel は日本語
同業者の間で少し前に話題になったもう一つの例、"Go To Travel"も和製英語、つまり日本語だ。テレビで毎日聞かされると、子供たちはあっという間に覚えてしまう。「旅行に行こう」と言いたいのは分かるが、自然な英語だと単に動詞のTravelだけで十分だ。Go to の "to" は「〜へ」という方向を示す前置詞だから、その後には Kyoto とか school といった目的地の名詞が来る。それなのに、次のキャンペーンは "Go To Eat" というから2度ビックリだ!今度は「外食しよう」という意味だろうが、この場合の to は不定詞で、次に動詞の原形が来る。"Go To Travel" の前置詞とは全く別物である。

Go to eat. は学校文法的には間違いではないが、自然な英語で「外食する」は、Eat out と言う。イギリスでこの夏実施された飲食店支援キャンペーン「外食しよう」は、the "eat out to help out" schemeといって、登録している飲食店で食事をするとお勘定の50%が割引になり大成功を収めたと聞いた。

日本人の英語学習を阻む和製英語
「トウキョウ・アラート」「マイナンバー・カード」「ハローワーク」等、広告代理店にも英語ネイティブがいるはずだが、なぜこのような和製英語が次々と生まれるのだろう?日本の英語教育市場は9,000億円近くに達しているにもかかわらず、日本人の英語力はアジアの中でも最低レベルだ。(2017年TOEFL iBT: アジア 29カ国中26位)この不名誉な状況を打破するためにも、和製英語を用いるのは極力避けた方が良いと思う。どうしても使いたいのなら、「これは和製英語で、日本語です。」と免責を書くべきだろう。日本の英語学習者にとって和製英語は学習の弊害となっている。

(2020年10月5日)

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