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「パワーストーン。」/ショートストーリー

あるところに石屋がおりました。

石屋が扱うのはパワーストーンと呼ばれる石たちでした。

と言っても、どんな石だってパワーストーンなのですがね。

石屋は元々石屋ではありません。

パワーストーンと呼ばれる石が世の中の人々にもてはやされて高く売れるものですから。

流れにのって商売を始めただけです。

ですから。

石をみる目などはなくて。

適当に値段をつけて売ると言う。

詐欺師のような店主です。

どういうわけか。

そんな詐欺師の石屋が売る石たちには不思議なパワーが宿っていて。

どんなに高額でも飛ぶように売れたのです。

石屋は笑いが止まりません。

ある日。

貧しい少女が病気の母親のためにとパワーストーンを買いに来ました。

もちろん。

一番安い石だって、少女が持っているお金では買えません。

この店主にしては珍しいことに。

安い石がゴロゴロと入っている箱からひとつ。

一番汚くてちいさな石を

少女に渡しました。

石屋は親切心とか思いやりとかではなく。

この汚い身なりの少女を早く店から追い出したかっただけです。

それでも。

少女からお金を払ってもらうことは忘れないのです。

ホントにあこぎな商いの仕方です。

少女は何度もお礼を言いながら、嬉しそうに帰ります。

家に帰った少女は汚れていた石を一生懸命に。

病気の母親の回復を祈りながら磨いています。

石は少女に磨かれてどんどん輝きを放ちます。

少女の願いは叶うでしょう。

どうしてとお聞きになりますか?

少女が買った石こそが他の石のパワーを開花させられる。

ある意味、最強のパワーストーンだからです。

なんでそんなことを知っているのかと言えば。

あの石屋にその最強のパワーストーンを売ったのが。

私『なんでも屋』でございますから。

ちなみに。

あの石屋ももう終わりでしょう。

あの石のパワーについてたかをくくって忘れてしまったのか。

あの石がなければ。

他の石たちは眠ったままです。

色々と見越して商いするのが『なんでも屋』でございます。



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