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「新しい時をまた刻むために。」/ショートストーリー

彼女は学校から走り出します。
全てが嫌になって逃げ出したのです。

その彼女の背に向かってまだ悪意にみちた怒声が飛んできます。
心ない言葉は容赦なく彼女を切り裂き呪います。

彼女は切り裂かれた制服を脱ぎます。
呪われた彼女からカタカタと音がします。
彼女を形どっていたものがどんどん音をたててはずれます。

学校の校則とか。
良識とか。
社会のルールとか。
友情とか。
思いやりとか。
愛情とか。

彼女はタガがはずれてしまいました。

彼女の身体はどんどん変貌していきます。
何がはずれていくたびに彼女は彼女でなくなります。

家に着くころには。
彼女はひとの形さえ成していませんでした。

おぞましいものになった彼女は自分の部屋にひき籠ります。
そして。
獣のように唸りだし、この世を呪いだします。

おぞましい形の奥で。
本当の彼女が永遠に消えようとしています。

そのとき。

連絡をうけた父親がドアを蹴破って入ります。
次に彼女の母親も部屋に入ってきます。

ふたりは彼女からはずれたものを大事に抱えています。
学校から家までの道に散らばっていたひとつひとつを
探して丁寧に拾い集めてきたのです。

父親と母親が彼女を抱きしめます。
そして。
最後まで彼女に残っていた希望がはずれたものを
もとへと繋げていきます

母親の胸で彼女はおぞましいものから赤ん坊に生まれかわりました。
赤ん坊は泣きだします。
最初に生まれたときと同じように。
父親と母親があやします。

ようやく。
彼女はすやすやと安心して眠ります。

新しい時をまた刻むために。



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