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「灯りの配達。」/#冬ピリカグランプリ  ショートストーリー

今日は大晦日。
私が待っているのは「灯りの配達」だ。

いつも12月26日から30日までの間に配達される。大晦日の配達は今までなかった。24日と25日は別の配達人たちが忙しくて、宇宙の交通が渋滞になるため「灯りの配達」は26日からという決まりになっている。そして大晦日には、配達人たちもお休みをとる。
だから、大晦日に普通「灯りの配達」はこない。もちろん大晦日に配達される場合もあるらしいので、私はそれに期待をしている。

不安に駆られる。やっぱり、私が原因かしら。
もしかしたら。
今年は私への配達はないのかもしれない。

夜の10時。夫は夜勤で元旦に帰宅する。
私は台所でお正月のおせち料理を作り始めた。
まだ黒豆だけ、仕上がっていないのだ。
来ないものは来ない。そう諦めるしかない。

その時、ドアがノックされた。
私は玄関の扉をあけると灯りの配達人が立っている。
今年の配達人は「鬼」だった。ちょっとだけ頬に涙のあとが残っている優しい赤鬼が。

「ごめんなさい。灯りの配達が遅れてしまって。」
配達人は毎年変わる。人間の時もあればそうでない時もある。
昨年も人間ではなかった。

「実は僕。今年が初めての配達なんです。それで迷ってしまって。」
「いいえ。お気になさらないでください。ちゃんと配達に来てくれたのですから。」
赤鬼は申し訳なさそうにしている。真っ赤な顔がもっと赤くなっている。
「黒豆つくったところです。少し召し上がりますか。」
赤鬼は驚いたようでそしてまた申し訳なさそうな顔をした。
「すみません。豆は苦手なんです。」
鬼が豆を苦手という事をうっかり忘れていた。

「じゃあ。こちらが新しい灯りです。どうぞ。」
そういうと赤鬼は灯りを渡してくれた。
たちまち、私の心が明るく温まる。

この灯りをこれから約1年間、大切に育てる。
夢、友情、希望や愛だけでなく悲しみ、怒り、苦しみもそれらすべてを栄養にして灯りは育つ。その灯りは1年後に回収されてまた別のところへ配達される。そして配達されたところでまた育てられる。回収された灯りの代わりにそうやって育てられた灯りが配達される。永遠に循環する灯りたちは配達された先々で心を明るく照らして温めている。

「こちらこそ、ごめんなさい。」
今度は私の方が申し訳ない顔になる。

「私。前の灯りを配達されてすぐになくしてしまったんです。」

「えーと。ちゃんとありますよ。それも煌々と立派に育っていますけど。」

そういって赤鬼が指さしたのはベビーベットだった。そこには10月に産まれた赤ん坊が眠っている。

そういえば前回の配達人はコウノトリだった。
「彼らは言葉が話せないからね。」
赤鬼は笑って赤ん坊のハートから灯りを回収した。

「配達と回収が終わりました。ありがとうございました。それでは、良いお年を。」

温かい灯りに照らされながらすやすやと眠る赤ん坊。

たくさんの灯りをみんなが大切に育てている世界を思うと私の心はもっと温かくなる。

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