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「新しい希望Ⅱ 女王。」/ショートストーリー

「お父さん。由佳はみおと残ったそうです。」

父と母は宇宙船の窓から遠ざかっていく惑星を眺めていた。家族だと言うのに少しも感情が読めない。妹と飼い猫があの惑星に残るという事実を彼らはどう思っているのかと聞きたくはあったのだが、正直自分の感情がどういうものなのかと整理がついてなくて、もう少しで父の聞き言葉を逃すところだった。

「なんとなく、予想はしていた。みおはあの惑星の生まれだから。」

妹の名前が「由佳」で飼い猫の名前が「みお」。

私たちが住んでいた惑星は地球とほぼ近い環境で、移住するのは理想的だった。ある致命的なことが判明するまでは。

私たち人間がその惑星に移住して約3年でわかったのが人間の生殖能力がなくなってしまうということ。しばらくは原因を探ってみたりしたのだが、結局わからなかった。他の持ち込んだ生物は普通に繁殖できていたので、気づかずに3年が過ぎてしまった。これでは到底移住は無理ということになり、ほぼ全員が地球に帰還することになった。まだ、完全に移住という段階ではなかったのが幸いと言える。

研究のためにと残る人間も少なからずいた。汚染されている地球よりは、良かったのかもしれない。それでも、人間ならいつかは死に絶えてしまうという運命の惑星だ。

今あの惑星に残っているのは少数の人間と人工生命体と持ち込んだ植物や猫や犬などのペットだろう。家族同様のペットを連れて帰りたいと望んだものもいたようだが重量規制がかかってしまって、ほとんど連れて帰れなかったはずだ。

「みおはあの惑星で生まれた猫だから。あちらのほうがいいのだろう。そうなると由佳だって残る。」

母は早々に自分の部屋に戻っていった。父と僕だけが残った。僕の妻はすでに人工冬眠カプセルだ。

「お父さんは。お父さんは由佳がどうなっても良いと言うのですか。」

「そんなことはない。あれは最新の人工生命体だ。本当なら地球に連れて帰りたかった。だからこそ、人工生命体というのにも関わらず最終便に乗れる手配をした。だが残ると選択したのは由佳だ。」

「お父さんは由佳のことをやはり最後まで家族とは思っていなかったんですね。」

人工生命体の第一人者である父はそれには答えなかった。

僕は人工生命体でも由佳を妹として家族として愛していたが父や母きっと僕の妻でさえ、僕とは同じでなかったのかもしれないと胸に悲しみがわいてきた。


私は息子に恨まれているかもしれないな。だが、由佳は私の研究が集約した人工生命体だ。由佳は長命だ。メンテナンスまであと約200年は大丈夫なように設計してある。他の人間が死に絶えても、他の人工生命体が壊れても生殖能力が損なわれていない生物や植物と暮らしていける。そして由佳は命に対して深い愛情をもつようにプログラムしてある。つまりは民を護る女王のような存在になる。

あの惑星の新しい希望そのものとして由佳は存在するはずだ。




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