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金縛の時、人はあっちとこっちの間にいる

久し振りに金縛りにあった。

昨日の夕方、あまりに疲労感があって、椅子でうたた寝するのも辛かったので、二階の寝室で横になった。ジーンズとTシャツのまま。普段なら下着も全部取って、気持ちいいケットに絡まって眠るんだけど、それさえも面倒なくらい眠かった。

どのくらい眠ったかわからないけど、ふと目がさめると、耳鳴りがひどい。うう、と思って起き上がろうとするも、体がピクリとも動かない。目は開いている気がする。部屋の中が見えるから。

あっ、来た。と思う。恐怖が駆け抜ける。こうなった時、いつも変なものを見てしまう。例えば、隣家のベランダからこっちを覗いている人影とか、頭の周りを走り回る子供のトタトタいう足音とか。部屋に入って来た誰かにじっと顔を覗き込まれるとか。

怖い!と目を閉じようとすると、真っ黒い排水溝のような穴に吸い込まれそうな感覚。そこに吸い込まれたら戻ってこられないような気がしてもっと怖いので、必死で目を開ける。

そこで、部屋のドアがゆっくりと開いた。何か言っているけど、耳鳴りが酷くて、何を言ってるのかわからない。真夏のケヤキ並木の蝉時雨なんてもんじゃない。バルトークの怖い音楽に頭ごと鷲掴みされているような感じ。そのせいで、世界は無音に等しくなり、余計恐怖が増す。

よく見ると、それは相棒のザックだ。部屋に入ってこないで戸口の向こうにボーッと立っている。彼はボクの状態を察知していない模様。気がつけよ!なぜか無表情で何か言ってるけどとりあえず無視して、必死で訴えた。

「起こヒて…!金ヒばり…起こヒてっ!」

口が回らない。もどかしい。早く、とにかく体を揺すって欲しい。体を起こして欲しいんだ!

なぜ部屋に入ってこない?!入って来てくれ!

そこから夢を見たことは覚えてる。ボクはさっきの恐怖と不安を引きずっている。道端に見知らぬ人と一緒にいる。「何もしたくないほど疲弊してる」」「このまま死ぬのは嫌だ」「誰にも顧みられることもない、つまらない人生をダラダラ過ごすのは嫌だ」というセリフがボクの心にある。夢の中でボクはそんな考えに苛まれ、不安と恐怖におののいている。

すると、3人の人が(もう風貌など思い出せない)近寄って来て、「ダンスのチームを作りませんか」と声をかけてきた。「やろうやろう!」とボクは即座に、救われた気持ちになる。そうだ、ボクはこれからこの仲間たちと、激しくダンスを踊るんだ。そういう人生に生きるんだ。……。

で、目が覚めた。体が動く。助かった、と安堵。久し振りに金縛りにあっちゃった。怖かった。それにしてもどうにかならんのか、あの恐怖感。

ボクは階下に降りて、ザックに聞く。

「さっき上にきたでしょう?」

「行ってないけど?」

「ボクを起こしに、部屋に来なかった?」

「行ってないよ」

えっ?信じられない。本当に?そこからもう夢だったのか。でも、金縛りは本当だ。だってまだ、耳鳴りが残ってる。

急いで、検索する。もうあの恐怖は懲り懲りなんだよ。「金縛りを解く方法」と打ち込んで、色々見ると、まず「落ち着くことが大事」らしい。そりゃそうだな。でも、あの恐怖で落ち着けるのは、ボクみたいに何回も経験がないと無理だな。初めての人は到底無理だろう。そして、「指先や足のつま先など、小さなところを動かしてみる」。やってみてない。今度やってみよう。

症状のところを見てたら、目にとまった一文。「幻覚や幻聴を経験することがある」えっ。症状なんだ。扉が開いて、ザックが立っていた所はまでは「夢」じゃないと感じていた。その後の夢は起きてから「夢を見てた」と思えた。うまく言えないが、その2つには全然違う感覚があった。「夢」の方が画像は鮮明だし、体は動くし、口も流暢に喋れた。「幻覚」の方ははっきりしなかった。ぼんやり輪郭がぼやけてたし、体は動かないし、口も喋れているのか自分でもわからなかった。ていうか、心理的にはパニックだった。「夢」に移行してからは、ホッとラクになっていたよね。

じゃあ、過去に経験した、誰かに覗き込まれるとか、子どもの足音が枕元を走り回る、っていうのは幻覚や幻聴だったのか…。怪奇現象かと思ってた。脳のどこにああいう要素があったんだろう。好奇心がくすぐられるな。

「金縛りにあった時は、抵抗せずに寝てしまう方が早い」とも書いてある。確かに、寝てしまって起きた時は治っていたけど。でも次になったら、まず落ち着いて金縛りを楽しもう。怖いと思わずに。あの耳鳴りと排水溝みたいな闇が強敵だけど、知っていれば落ち着くことができるかもしれない。すぐに寝てしまっては勿体無い。とりあえず、脱出する方法はわかったのだから。

あの排水溝のような闇に吸い込まれてみたら、どうなるのだろうか。直感的に「もう戻れない」と思ったんだけど。暗闇に後ろに倒れるように巻き込まれる感じ。蝉の声みたいな耳鳴りはどんどん音量を増す。死ぬ!もう戻れない、脳が破壊される、そういう確信。それも、妄想か…。

幻聴、幻覚、夢。異世界は全部僕の脳内の電気信号に過ぎないのか。それとも、ここじゃないあっちの世界からきているのか。

夢の中の自分のセリフ

「何もしたくないほど疲弊してる」」

「このまま死ぬのは嫌だ」

「誰にも顧みられることもない、つまらない人生をダラダラ過ごすのは嫌だ」

これは、自分の考えなのか。自覚がなかったけど、僕は心の底でそんなことを思っているのかな。本気で、仲間とダンスを踊ろう!って嬉しく思っていた。燃えるようなダンスを踊ろうぜって。

それ、深層心理のボク?それとも、あっち側のボク?

あっちとこっちの狭間で、ボクは自分の知らない世界で生きているボクと、ちょっとしたダブりが生じて、何かを受け取ってしまったのかもしれない。

さて、どんな仲間とどんなダンスを踊ろうか。

また、金縛りにあうのが楽しみになった。怖がるなよ、落ち着け。そして異世界の自分に会おう。

金縛りになる方法を、これを書き終わったら検索して見るや。

それでは。

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