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湖面に 心に

言葉の壁というものに遮られて、人とのコミュニケーションに苦手意識を持ってしまうことがあります。同じ国に生きて、同じ言語を使用していても理解しえない物事があるくらいですから、文化や国籍、言語、そこから紡ぎだされる考え方の違いによって、なお無理難題を強いられているような気がします。

古民家宿では、暑い夏が過ぎた9月下旬辺りから海外のゲストが増えているのですが、国籍は様々です。
中国、台湾、韓国が主となりますが、ロシアやポルトガル、フランスなどと、一体どこから探して来てくださっているのかと不思議になるほど様々な国と地域からいらっしゃいます。

海外のゲストがお越しくださる時、個人的に気をつけていることが一つ。
話の流れでご出身を聞くことができた場合は、その出身地の言葉の「ありがとう」を調べて実際に使ってみるという事です。

発音は綺麗ではないのでしどろもどろになることが大半ですが、それでも意外と伝わるもので、相手がくみ取って教えてくれることもありますし、私の顔色を伺いながら笑顔で待っていてくれる方もいます。単純で誰にでもできるこのやり取りは、相手に気持ちのいい感情だけを与えてくれる、私にとっては魔法のやり取りなのです。

正直、私は英語が堪能な方ではありません。
必ずお伝えする文言は英訳したものを覚えていて、その他の細かい内容についてはスマートフォンの翻訳機能を使って対応しています。
事前にメールやSNSのDMのやり取りも同様に、一度こちらで英文を作り(勉強の為)、翻訳機で再度確認してから送信しています。相手に伝わる文章というのは、日本語でも文の組み立てを気にしなければならないですし、加えて他の言語となるととても不安になります。送信しても返信がないこともしばしば。そういう人はチェックインするまで気が気ではありません。

先日ご宿泊いただいたゲストに、ペーパーアーティストの方がいらっしゃいました。香港出身の彼女はポルトガルへ移住し、2005年から現在のアーティスト業を行っています。

紙(paper)を編み込み作られた袋に自身が入り、自然に身を委ねている様を撮影し続けているそうです。

彼女はとても朗らかで、ボディランゲージが特徴的な賑やかな方でした。
英語が苦手だと話すと、「全然大丈夫!とっても上手だよ!」と私の背中を“出来てるよ”と叩き、その後の会話も、理解できないでいると何度も繰り返し話してくれます。そのうち気づいたのは、「It's amazing!」が口癖だという事。
樹海の中を散策しているとき。
朝の湖の景色。
西日に照らされた燃えるような紅葉が湖の水面に反射し、写し鏡のようになっているときが一番興奮しているようでした。

彼女を見ていると、手に取るように感情が分かってしまう。人の喜怒哀楽という感情を知るのは、言語の違いはあまり関係ないのだと気づいた瞬間でした。楽しい時には思いっきりそれを表現できる人がどれだけいるのだろうかと。大人になるにつれ感情を表に出すことは私情を挟んでいるようで、何となく恥ずかしく憚られる感覚に陥っていましたが、何も悪いことではないのだと感じます。もちろん、時と場合によりますが。

私はまだ世界を知らない

そういう風に強く感じます。
無知を恥じることはないと思いますが、知識の無さから生まれる間違いや知見の狭さはきっとあるのだろうと。
私がそれを、これからどうやって開拓していくかは私自身も知り得ませんが、それも含めて今後が楽しみであり、今やっている仕事を通して少しずつ知らないことを知っていけたらと思います。

そうやって少しずつ、自分だけの教科書を私の中に作っていくことが、私が死ぬまでにやり遂げたいことの1つです。

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