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kintoneを武器にした小さな製造業の変革(2017~2022)

2017年に三田理化工業株式会社に入社してから取り組んでいるローコードツールkintone(キントーン)を武器にして行った変革について、現在の状況までをまとめました。

入社当時の課題(2017年)

三田理化工業株式会社は、1949年創業、社員数42名の小さな製造業です。

入社した2017年、三田理化工業の状況はあまり良くありませんでした。むしろ悪かった。

2017年当時の売上推移

2014年から毎年売上が下がり、4年でマイナス30%。新型コロナウイルスのような大きな市場環境の変化も無い中、この売上の下がり方は一筋の光も見えませんでした。この1年間の離職率は20%を超えていました。

変革に立ちはだかる壁

経営大学院在学中に意気揚々と乗り込んだアトツギが改革しようとするも現実は甘くない。業績を上げるために事業分析をしようとしてもデータがありません。会社のこと、顧客のこと、製品のことを学ぶのに必死で、データを集める、打ち手を考える時間を作ることも出来ませんでした。
「データがない」とは売上や原価といった結果のデータではなく、その結果が得られるプロセスに関するデータや、自社以外のデータがない、そしてそのデータ同士が紐づいていないことを指します。
例えば納入実績はある。修理履歴もある。ただそのデータが製品ごとに紐づいていないので「どの製品が壊れやすいか」「何年周期で更新されているか」というデータは収集出来ませんでした。

非効率な業務の例

挑戦と失敗と方針転換

ドンドン下がる売上、先の見通しを立てない経営陣へのいらだちと焦りから、私は入社2ヶ月目の管理職会議で声を荒らげました。
「このままでは潰れる!抜本的に変革して生産性高めよう!デジタル化を進めよう!モノ売りじゃなくコト売りに転換しないといけない!」
抽象的な言葉のオンパレードです。
結果、何も変わりませんでした。会議はそのまま進み、仕事も何一つ変わることはありませんでした。社長を始め管理職の方々は怒るでもなく、ただただ肩を叩き「落ち着け」と言ってくれました。
屋上に続く階段で、自分の無力さに一人泣いていました。

パワーと影響力の図

図のように、人に影響を与えるには「公の力(役職など)」「関係性の力」「個人の力(実績)」のどれかを持っていなければなりません。入社2ヶ月、20代の若造の私はそのどれも持っていませんでした。
ここで方針を転換します。「大きいことを言う前にできることから始めよう」来年、会社が潰れるかもしれませんが、そこはもう自分の責任ではないと開き直ることにしました。
立ちはだかる4つの壁のせいで改革が進まない、と思うのではなく、まずこの壁を取り除くことに取り組もう、今社員が困っていることを解決しよう、と考えを改めます。その実現のためローコードツールを導入します。
失敗したくなかったので低価格、5人×780円=3,900円/月で始める事ができるkintoneを導入しました。その時の考えは下記noteをご参照ください。

kintoneの効果

kintoneを用いた業務改善については個別でnoteに書きましたので、宜しければこちらを御覧ください。

導入事例としてメーカーのサイボウズさんHPでも紹介されています。

一番最初に行ったのは、これまでメールで上長に報告していた営業日報をkintoneに変えたことです。

kintone導入の一番最初のアクション

それ以外の業務もエクセルやメール、紙で報告していた情報をkintoneに変えた結果、ドンドン顧客情報が集まるようになりました。営業の訪問準備時間が1時間から5分になりました。

顧客データがkintoneの貯まる

目に見えて良い成果が出たのはサービス部門です。
従来は納品した機械が「故障→緊急修理→残業増加」という業務フローでしたが、顧客情報がkintoneに集まることで、過去の修理履歴から点検案内を増やす事ができるようになりました。その結果「壊れる前に点検→まとめて日程調整→残業減少」という流れに変わりました。
顧客情報、業務情報が蓄積することで、受動型だったサービス部門が能動型の組織に変わりました。
その結果、サービス部門の売上・利益が向上しました。

kintone導入後点検比率が向上している

またクレーム対応の報告・進捗確認をkintoneで行うことで、ヌケモレ、対応遅延が減り、その結果クレーム対応日数が1/3になりました。このことは、お客様の満足度向上に繋がります。

クレーム対応完了までの平均日数推移

現在では、70を超えるアプリで会社全体の業務を効率化しています。これは導入から1ヶ月に1つ以上のペースでアプリが生まれていることになります。

kintoneで運用してるアプリを貼り出してみた
kintoneで運用してるアプリを貼り出してみた(2022年11月)

また、kintoneの導入に成功したことで、他のツールも積極的に導入することができました。

kintone以外のシステム導入例

いずれもコロナの流行前から導入を進めており、コロナ禍で社員が離れて仕事をする機会が増えたことで効果をより実感することが出来ました。このように導入に積極的になれた要因の一つは私自身がローコードツールを通じて成長できたからだと思います。

個人へのローコードツール導入のメリット

もともとは文系営業マンの私はITやシステムのことなど全然知りません。エクセルの関数も一つも使ったことがありません。そして入社したばかりで業務の理解も乏しい…そんな私がローコードツールと出会ったことで、多くの業務改善を行う事ができました。
「コード書かないと出来ない」とか「一度作ったら変更出来ない」という条件だとしたら、実現出来ていません。また、kintoneでの経験は「あ、こうすればこういうコト出来るかも」という別のツールでも役立つ組み立てる力を与えてくれました。

三田理化工業の現在(2022年)

2022年、20代だった若者は30代になり少しトゲが丸くなりました(たぶん)。入社当時にそびえ立っていた、改革を阻む壁は解決しつつあります。

2022年時点で解決できたこと

もちろんまだ紙はあるし、無駄な作業もあります。
ただ、会社の業績は少しづつ上向きになってきました。社員の離職も落ち着いてきました。

8年間の売上推移
5年間の離職率の推移

もともとは、まず目の前の課題を解決し、その後改革をして業績を回復させよう、と考えていました。ですが目の前の課題を解決した結果、業績は回復しました。

三田理化工業の現在

決して私一人の成果ではありませんし、kintone入れたから全てが良くなったわけではありません。ただ、会社が変わるかもしれない、と思ってくれる社員が増え、離職者が減り、その結果が業績につながっていると考えると、kintoneがもたらした影響も小さくないと思います。

ちなみに、社員にkintoneへの意見を聞いたところ、なかなか褒めてもらえました。改善要望も多く受けましたが…。kintone導入して一番うれしかった事かもしれません。普段なにも言ってもらえないから。

kintoneへのアンケート結果(褒めてもらった部分のみ)

特に、私の後に入社した営業社員の「kintoneの無い営業活動を考えられません」のコメントは嬉しかった。私がした苦労を後輩にさせないように、という思いで作った営業日報アプリが武器になっていると実感できました。

ようやく前を向ける組織になってきた、と思ったところで新型コロナウイルスや調達コストの高騰など、外部環境の変化に当社も揺れ続けています。

ただ、だからこそ会社の向かう道を示す必要があると考え、2022年11月、三田理化工業としては初めて3カ年の事業計画を作成しました。この2年はさらなる品質・納期・コスト(QCD)の改善を行い3年後には製品開発にリソースを注げる体制を作っていきます。
さらに、共有された情報をもとに個別に考え能動的にアクション出来るサッカーチームのような組織を目指していきます。(決してワールドカップを観て思いついたわけではありません)

サッカーチームのような組織に

まとめ

自社の取り組みが、他社でそのまま使えることはなく、逆もまた然りです。ただ、どこか同じところや接点が見つかり、それが読んだ方の参考になれば良いな、と思いこれまでの取り組みの要点をまとめます。

中小企業が挑戦しやすい時代

中小企業が挑戦しやすい時代

現代、そしてこれからは中小企業が挑戦しやすい時代なのではないかと思います。「つくる」という点において、現在多くのツールが生み出されています。ローコードツールがなければ、私は業務改革を進める事はできませんでした。また、製造業では3Dプリンターが高性能になり「作りたいモノ」があればそれを具現化出来ます。これらのツールの導入は、組織が小さな中小企業の方がよっぽど簡単です。
それらの技術が安価に手に入るのは、中小企業のとっては大きなチャンスだと思います。

課題を見つけ出す

「作りたいモノ」を見つけるのも大事です。Aの業務がボトルネックと思っていたら実はその後のB工程が詰まっていた、というように見方を変えると答えが変わることがあります。

視野・視座・視点

困っていることに対して、視野・視座・視点を意識して見方を変えることで、困っていることがより具体的になり「作りたいモノ」が現れてくると思います。

最高じゃなくて良い

ローコードツールを導入しよう、となった時、実際はどのツールにするかはとても悩みます。誰も失敗したくないので。
現在、ローコード・ノーコードツールの数はこれだけあります(2022年8月)。

一般社団法人NoCoders Japan協会(ノーコーダーズ・ジャパン協会)

この中から一番自分たちに合ったものを選ぶことはとても難しい。けど、そこで止まってしまうよりは、実際に使ってみるしかないと思います。あとはエイヤーです。完璧なツールなんてありません。私自身、kintone導入後に何回も「もう違うツールに変えよう!」と思いましたが、これより自分たちに合ったツールは無い、と盲信して突き進むことにしました。今はkintoneで良かった、kintoneでなければここまで進めなかったと心から思っています。

最近、デジタルトランスフォーメーション(DX)という文脈でご紹介頂くこともありますが、大事なのはデジタル化ではなく、トランスフォーメーション=「変革することで競争上の優位性を確立すること」だと思います。

このnoteのように、業務改善のお話をする時、紙やエクセルを敵、悪のように語りますが、20年前はそれが最適な業務ツールだったんですよね。問題なのはエクセルや紙ではなく、その後、変わらなかった組織だと思います。自分が導入したkintoneのアプリも10年後には古いやり方だ、となっているかもしれません。きっとなっています。大事なのは時代に合わせてビジネスを変え続ける、そしてそれにあったツールに変え続けることだと思います。

一歩踏み出す

一番大事なのは、行動するということに尽きるかと思います。何かを変えたい、と思ったら実際にアクションを取ってみる。ローコードツールはその最初の一歩を助けてくれます。

道なきところに、道をつくる。(三田理化工業スローガン)

成果についてお話するのはあまり好きではありません。ここまで書いたくせに、と思われるでしょう。だって「オレすごいでしょ」みたいなコト書いても翌年には大赤字になってるかもしれない、社員が全員辞めてしまうかもしれない、そもそも自分たちよりスゴイ会社はいっぱいある…そんな中で良いことばかり書いても恥ずかしい…と思っています。
ただ、以前書いたnoteや記事、セミナーに対して、参考になったとお声がけ頂いたことで、自分が悩んで迷って作ってきたものが、誰かの一歩の後押しなれるなら成果をアウトプットすることに意味があるかもしれない、と思いました。また、同じく悩みをアウトプットした時には多くの助けてくれる人がいることも知りました。
今回のnoteでは、わたしの入社後の5年間をkintoneを中心に振り返りましたが、実際にはQCD改善活動、70周年を通じた社史・動画・スローガン作成を通じた組織作り、HPリニューアルによるPR活動も行っています。社員の頑張り一つ一つの結果が売上や利益につながっていると思います。このnoteはあくまで三田理化工業を一側面の視点から見た物語だとお考えください。

また、三田理化工業の物語はここで終わりではなく、ここからがスタートです。冬の時代もあれば大荒れの時もあるでしょう。それでも、前に進み続けます。「道なきところに、道をつくる。」というスローガンを胸に、経営理念である「創造力と技術革新により顧客の課題を解決し、社会に貢献する」ために。(最後、かっこつけちゃった)

わぁわぁ言うとります。お時間です。さようなら。


大阪市在住の89年生まれ 父親経営の中小メーカーに在職。 グロービス経営大学大学院卒業 事業承継や、組織の変革、文系から見た社内システムの構築について掲載予定 好きなもの:サッカー(ガンバ大阪ファン)、漫画(オールジャンル)