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kintoneの導入(ISO9001対応の文書管理編)

「どの手順書が正しいの?」

みなさんの会社ではこのようなお悩みはございませんか?当社は悩んでおります。実際にサムネイル画像の事象は日常茶飯事で起きます。
共有のファイルサーバの手順書(最新).docと書かれた10年前のファイル。
そもそもファイルの場所がわからず聞いても全員答えが違う。
そして担当者の手元にある虎の巻。
さて、どうやって正解の手順書にたどり着きましょうか。

ISO9001という世界標準の品質マネジメントシステムでは、この文書管理についてもルールが定められています。

a)文書化した情報が、必要なときに、必要なところで、入手可能かつ利用に適した状態である。
b)文書化した情報が十分に保護されている。

組織は、該当する場合には次の行動に取り組まなければならない。
a)配布、アクセス、検索及び利用
b)読みやすさが保たれることを含む、保管及び保存
c)変更の管理
d)保持及び廃棄

ISO9001:2015  7.5.3 文書化した情報の管理より抜粋

当社はISO9001を取得しており毎年、外部審査機関による認証を受けています。社内には文書管理手順もあり、その中では主に下記のことが定められています。
 ①手順書を作成し、部門長の承認(ハンコ)を得ること
 ②ハンコを押した手順書はファイルに保管すること。
 ③登録した手順書名を文書登録台帳に記録すること。
 ④その台帳も承認(ハンコ)を得て、ファイルに保管すること。
 ⑤改訂・廃棄なども同様にすること。

当社の文書管理手順

おそらく、ISO9001を取得している企業の多くはこのように文書管理している(していた)のではないでしょうか。このnoteでは、上記の文書管理手順を「紙の文書管理」と表記します。

紙の文書管理で起きること

ISO9001に準拠して実際に文書管理がルール化されているなら問題ないのではないか?と思われる方がいるかもしれません。んな訳ない。
私の入社時、紙の文書管理によるデメリットが大きく、このような手順書は会社にとって資産ではなく、作業手間がかかるコストとして捉えられていました。その結果、残念な品質管理が行われることになります。

  • 正式な手順書は最小限の記載とし、担当者が虎の巻を作成する。

  • 紙のファイルを見ず、せっかくの手順書が使われない。

  • 紙の台帳と紙の手順書の整合性が取れない。

  • クレーム対応としての再発防止策が手順の変更とならず、表面的な対応になってしまう。(教育訓練など)

  • 外部審査に通ることが目的となってしまう。

本来、ISO9001とは顧客満足を高める=品質を向上し続ける仕組みを作ることを目的としています。私自身もこのISO9001の考えに共感しています。ただ、仕組みを維持するための作業が足枷となり品質向上が止まるというのは本末転倒です。

このような事象を目の当たりにして、なんとか変えたいと思いつつ自分自身どのように変えていけば良いか分からずに年月が過ぎました。「文書管理」は紙が必須なのか、デジタル化がどこまで許されるかを一人では判断出来ませんでした。

20年ぶりの技術部長の交代

当社は社長が技術部長を兼務している状況が20年以上続いていました。しかし2021年10月、別の企業で品質管理の責任者をされていた方と縁があり入社頂き、2022年4月には技術部長に就任頂きました。
その権限委譲の中で、ISO9001にこれまで以上に真剣に取り組もうという方向性を定める事ができました。文書管理のデジタル化についても「これは良いけどこれはダメ」「ドンドン効率化しましょう」と言ってもらえたので自分の中でセーフティを外して(その部分の判断を丸投げして)チャレンジ出来るようになりました。

文書管理アプリの機能

前置き長くなりましたが、ここから作成した文書管理アプリの機能を説明します。

プロセス管理

文書管理手順の承認プロセスをkintoneのプロセス管理機能で代替します。

kintone導入後の文書管理手順

紙の文書管理では、編集した手順書は印刷してハンコを押して上長に提出していましたが、kintoneでの提出に変更します。

Microsoft Word(またはGoogle ドキュメント)で作成した手順書をPDFに変換します。その後、kintoneのレコードにPDFを保管して、文書管理手順に定められたプロセスに基づき、文書の照査者、承認者へそのレコードを提出します。

文書管理アプリのプロセス管理

照査者、承認者は内容確認後、差し戻して担当者に戻すか、承認プロセスを進めます。承認者が承認というボタンを押した後は「承認済み」のステータスとなりレコードは編集不可になります。
※承認プロセス途中のレコードは一覧の色を変えて識別しやすくしている。

文書記号と一覧

当社は事業部が2つあり、それぞれの手順書を個別に一覧表示したい、という考えのもと、これまで曖昧だった文書記号のルールを作り直しました。

文書記号のルール

一覧表示時にこの文書記号のルールで表示されるように設定しました。
またそれぞれの一覧に飛べるよう一覧画面の説明欄にリンク表を貼りました。

文書管理アプリの一覧画面

この文書記号ごとの一覧が従来の登録台帳の代わりになり、紙の登録台帳は廃止することが出来ました。
(細かく言うと、承認者や承認日がフィールドに自動入力される仕組みにしています)

改訂番号

ISO9001の文書管理では、変更履歴を管理することも求められています。その中で改訂番号を記載することが必要です。
文書への記載は外せませんが、kintoneのアプリでも改訂番号をいちいち入力することは防ぎたいと考えました。
また、文書の変更内容自体は残す必要があり、テーブルとテーブル行計算で改訂番号を自動で表示するようにしました。

文書管理アプリの制定改訂履歴のテーブル

制改履歴というテーブルを追加し、変更箇所・理由を記入します。テーブルを追加すると、文書番号のフィールドに自動でR(Revision=改訂)の後ろの番号が入力されます。作成時は0、1回目の改訂は1というイギリスのフロア表示方式です。

参照リンク

kintoneで承認をする、つまりkintoneの文書管理アプリに保存されている文書が正である、ことから文書に押印する必要がなくなりました(この点は社内でひと悶着ありましたが押し切りました)。この結果、Microsoft Word(またはGoogleドキュメント)から直接PDFに変換することが出来、挿入したリンクをそのまま使用することが出来るようになりました。

このキントーンのレコードのリンクを貼る場合、ブラウザのURL欄にあるものをそのまま使うと、弾かれる可能性があります。(余計なURLが付いてます)
そのため特定のフィールドが
「https://(ワークスペース名).cybozu.com/k/(アプリ番号)/show#record=(レコード番号)」となるように計算式を作成します。
そして、このレコード(文書)を参照したい場合はこのフィールドのリンクをコピペするようにしました。小技かもしれませんが、これが後のメリットに繋がります。

kintone化によるメリット

押印の手間削減で文書作成が倍増

言うまでもないかもしれませんが、圧倒的に文書作成・改訂の時間は短縮されました。文書と台帳、それぞれに印刷・押印・ファイリングがなくなったことで作成する方も承認する方も楽になりました。
文書作成アプリの導入が2022年2月からなので、単純比較というわけではありませんが、品質文書の作成・改訂数は倍増しました。

2021年と2022年の文書作成・改訂数推移

これは、手間が軽減したこと、そしてシステム化により文書変更のルールが明確になり改訂しやすくなったことが理由として上げられます。これまで手順書の改訂は管理職や管理部門が行うことが多く、現場作業者が行うことは少なかったです。ただ、この文書管理アプリ作成後、現場作業者に手順書の改訂をお願いしたところ、ドンドン改訂していってくれました。普段PCを使用していない、仕事で使ったことがない方々が改訂をドンドン進めてくれたことは私にも嬉しい出来事でした。

リンクをそのまま使用できる

紙の文書管理をkintoneの文書管理に変更するに当たり、一番こだわったのは「ワード(ドキュメント)データをそのままPDFにする」ことでした。
kintoneで保存された文書が正、というルールを設けたものの、やはり「文書自体に承認済みとわかる押印が必要ではないか」という社内の意見はありましたが、そこは押し切りました。理由は文書内のリンク埋め込みをそのまま使用できることです。
紙の文書管理で手順書が機能しなかった原因の一つは実際の作業と紐づいていないことだと思っています。
紙の文書管理では手順書を開いても「〇〇の手順書参照すること」と書いていて、別の紙ファイルを開かなければならないことがあります。押印した紙をスキャンしたPDFを保存してはこの問題は解消できません。
Word(またはドキュメント)データから直接PDFに変換した文書はリンクが使用できます。その結果、文書同士をリンクさせることも、そして実際の手技の動画を撮影しその動画のリンクを貼ることも出来ます。

実際の作業手順書の画像(この青文字からリンクに飛べる)

これまで単独だった手順という情報の集合が、他の情報とつながる事によりその価値が一層高まりました。

kintone検索が使用出来る

アプリの運用を開始してから気付いたのですが、直接PDFにした文書は文書読み取りが働きます。kintoneの右上にある検索窓はPDF内の文書でも読み取る事ができるので、手順書の番号を把握せずとも文書検索が容易になり、検索性が飛躍的に上がりました。

右上の検索窓で「教育訓練」と検索するとPDFの情報から検索結果を表示してくれる

最初はこの機能を知らず、検索出来るようにkintoneのフィールドに手順を作成することを考えていたのですが、視認性の観点から仕方なくPDFで保存することを選択したので、これは嬉しい誤算でした。kintoneなめてました。

外部審査で褒められる

2022年は外部審査機関によるISOの審査と、大阪府からの医療機器製造販売業許可の査察がありました。その両方でこの文書管理システムを説明した結果、とても褒めて頂きました。
だから何やねん、と思われるかもしれませんが、褒められたら嬉しいじゃないですか。基本的に厳しいこと言われる場なので。
また、褒められることで手順変更に不満を持つ社員も「じゃあしょうがないか」と思ってもらえる部分もありますので組織を動かす、という面でも良かったと思います。ただ「ソフトウェアバリデーションはしていますか?」という質問はされるのでそれはちゃんとしておきましょう。

(さいごに)文書管理は必要か?

そもそも文書管理って必要か?という疑問に対する自分なりの考えをまとめます。
私の前職である商社では、手順書と呼ばれるものはほとんど無かったです。
そして私自身も不要という認識でした。だってめんどくさいですもん。

その意識が変わったのはグロービス経営大学院に通っていた時のことです。
ヒト系科目を受講している時に尊敬する講師の方に「人材育成の良い方法は?」と尋ねたところ「人材育成の一番の方法は徹底したマニュアル化」という言葉を聞いたことで、私の中のマニュアルの見方が変わりました。
マニュアルを作成することでその業務の標準が出来、さらにその標準をより良くすることが出来る(「標準なくして改善なし」)。
また、その改善によって得られた時間で創造性を発揮してもらう。
また、製造業である三田理化工業に入社し品質管理の面からも文書の必要性を認識しました。10年以上前に販売した機械の修理や更新の受注がある中、記憶に頼っているだけでは早晩限界が来ます。手順・記録をしっかり残すことが品質管理の要であり、製造業としての責任だと思います。
今回の文書管理の仕組みは、品質管理だけでなく改善・創造性の発揮の第一歩と考えています。仕組みを作るだけでなく、ドンドン新しく変化できる文化を作り上げていきたいと思います。

わぁわぁ言うとります。お時間です。さようなら

大阪市在住の89年生まれ 父親経営の中小メーカーに在職。 グロービス経営大学大学院卒業 事業承継や、組織の変革、文系から見た社内システムの構築について掲載予定 好きなもの:サッカー(ガンバ大阪ファン)、漫画(オールジャンル)