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どうしてもコーポレートキャラクターをつくりたかった

「うちもゆるキャラ作りたいな…」

こんな漠然とした想いを持ったのは2017年、三田理化工業に入社してすぐ展示会で同業他社からマスコットキャラクターのスマホクリーナーをもらった時だった。

アスカメディカルのアスカメちゃん

展示会で渡せば喜ばれるし、営業に行けば名前を憶えてもらいやすい。何より、会社が少し明るく見える。ゆるキャラの効果を実感した。

実際、その後に当社で展示会向けの販促品を作ったが良いアイデアが出てこなかった。なによりワクワクしなかった…

当時の販促品、バイアル便(自分もどう使うのが正解かわからない…)

三田理化工業は、RACOONというブランドを持つ。お客様から「三田理化の洗浄機は、アライグマ(RACCOON)みたいやな!」というお言葉から、創業者がブランド名「RACOON」を作った。


それをうまく使えば、良いキャラクターが出来るのでは!と思い何度かイラストを描こうとしたがどうしてもラス〇ルに寄ってしまう。

アライグマ界の頂点

さらに調べると、大企業があらいぐまをモチーフにした洗浄機向けのキャラクターをすでに出しており、RACOONをもとにキャラクターを作ることは厳しい、ということが分かった…

1.社長就任前

「やっぱりゆるキャラ作りたい!!」

2024年の社長の就任発表を控えた2023年10月、自社のキャラクターを作りたいという想いが溢れ出た。

社長就任にあたり、三田理化工業はどんな組織になりたいか、どんな組織でありたいかを考えていた。そのアウトプットとして「三田理化らしさ」を示す共通価値観(Shared Value)を作った。
※三田理化バリューについては、別途まとめる予定

そのバリューの体現の一つとして、ゆるキャラを作ることが自分の中でつながった。

けど考える。

新社長に就任して最初の仕事が「ゆるキャラ作ります!」って、なんともアホっぽくないか。社員から呆れられないか。そう思うと、一度立ち止まってしまう。

でも夜、寝床に着くと「ゆるキャラ作りたい!」の想いが立ち上がってくる。

こうなるともう止まらなくなった。

2.相談

この想いを誰かに伝えたいと考え、まさに社長就任時にゆるキャラを作った先輩経営者がいることを思い出した。

Xでもつながりのあるシコー株式会社の白石社長だ。

白石社長は、まさに社長就任とともに「ゆるキャラ」を作った。
当時は(社員からアホやなと思われてないのかな)と思ったことは少しも表に出さず、連絡した。

年末ランチしながらのつもりだったがドタキャンされた

白石社長からは自分の時はこうやって進めた、というお話をしていただいた上で、「なぜゆるキャラ作りたいの?」とこちらの心を整理する時間を作ってくれた。

また、もう一人。そもそもゆるキャラを作りたい、と思わせてくれたアスカメディカルの林社長にも相談した。「このキャラクターのお陰でお客様との距離が近くなったよ」という言葉が力強かった。

二人に相談した結果、自分の頭を整理出来、なぜゆるキャラを作りたいかを言語化できた。そしてゆるキャラを作るまでの道筋が見えたことで決意が固まった。

2023年12月27日、社長の就任あいさつまで残り1週間だった。

3.宣言

コーポレートキャラクター作りに全社を巻き込むため、まずは社内に宣言することにした。
社長就任初日、2024年1月5日の社長就任あいさつにて「ゆるキャラを作ります」と宣言した。

三田理化工業のゆるキャラを作ります。
 うちの製品は、ステンレスの塊だったり、ガラス瓶だったり、どことなく無機質です。それらのデザインをもっと愛らしく変えていくことも一つですが、まずはゆるキャラを作りたい。修理の電話番号を書いたゆるキャラのステッカーを見て、お客様の気持ちが一つ和らぐかもしれない、ゆるキャラが貼ってある製品に愛着を持って清掃してくれるかもしれない。
 社内のコミュニケーションでも、付箋の注意書きがあるより、ゆるキャラが言ってくれる方が少し和らいだコミュニケーションになるかもしれない。
 なにより、このゆるキャラ作りを通してみんなが笑いあえるような取り組みになればよいな、と思っています。進め方としても、みんなに参加いただけるようなプロセスを考えています。アイデアを今から温めていてください。個性を爆発させてください。

2024年1月5日 年頭あいさつより

ここまで言っておいて、実はどう進めるかはそこまで固まってなかった。いつから始めるかも決まってなかった。(だって決めたの年末でしたし)

しかしこの宣言に対し「同級生にデザイナーいるよ!」とか「家族でデザイン考えてみたよ!」と社員からリアクションが来た。これはやらねば、と改めて決意した。

自分でもデザイナーを探した。
真っ先に声をかけたのは本社の近くでデザイン事務所をしている有限会社ブリューナクの波多野社長だった。(これもXつながり)

一度会社に来てもらい、漠然とした趣旨を説明したところ快諾いただいた。
「ゆるキャラを作る」だけでなく「ゆるキャラ作りを通じて社内のありがとうと笑いを増やしたい」という私の意図も汲んでいただいたので、波多野さんと一緒にこのプロジェクトを進めよう、と決めた。

6月末の展示会で、このキャラクターと一緒にプロモーションする!!ということをゴールに掲げた。
逆算すると4月中にはデザインを決定しなければならない。
みんなを巻き込むこと、と短い期間で間に合わせる。両方を実現するために、プロジェクトを進めることにした。

4.ゆるキャラデザイン募集、開始

まず、全社へゆるキャラデザイン募集を行うことにした。
参加資格は社員とその家族。
理由は、このイベントをご家族に共有することで、ご家族とも「ありがとうと笑いがあふれる」コミュニケーションを取る機会にしてもらえたら、と考えたから。

ゆるキャラデザイン募集のポスター(モチーフは誰?)

条件はシンプルにしたが、シコー株式会社のシコラのようにLINEスタンプなど幅広く使えるようにしたいので「シンプルなデザインが望ましい」という条件をつけた。(ちなみに、最初はシコーさん丸パクリで「ゆるキャラ選手権」と名付けていたがデザイナーさんが止めてくれた)

副賞は5万円にした。少ない!と思われるかもしれないけれど当社は毎年の社内プレゼンの報酬も1万円程度なので、これは破格な金額(当社比)。
高く設定しすぎて、お金目当てになるのもなぁという思いもあった。

募集期間の1ヶ月はドキドキだった。最初に5つほどデザインが来たあとは、全然応募が来なかった。
気合い入れてポスター作ったのに、全然応募来なかったらどうしよう…みんな冷めた目で見てるのかな…、最悪、自分で100個くらいアイデア出そうかな…

そして最終週…音沙汰なかったところから、あれよあれよとアイデアが出てきた。なんでみんな早く出してくれなかったのか…と思いかけて気づいた。「あ、アイデアを早く出すメリットがないやん」

最終応募総数、60案!!!!!!

社員40数名の会社で、これだけ案が集まるとは思わなかった。嬉しかったのは、社員の家族からも応募があったこと。社員がポスターを持って帰り、家庭で話をして、いっしょに色々考えてくれたことを想像すると、胸が熱くなった。

総勢60のキャラクター大集合

5.ゆるキャラ選抜会議

この60案を、最終候補5案に絞るため、役員で選抜会議を行った。

会議の中では、キャラクターを見れば事業がわかるような製品をかたどったキャラクターにすべきだ」という考えと「特定の製品に固執すべきでない」という考えがあった。実際、総数としては商品(特に哺乳瓶やバイアル瓶)をかたどったアイデアが多かった。

ここで、役員の一人が「これから未来を一緒に作っていくキャラクターなので、これまでのビジネスにこだわりすぎない方が良い」と言ってくれたことで方針が決まり、下記の方針を定めた。

①募集ポスターのコンセプト、条件に合致していること
②特定の製品の特化せず、会社全体のマスコットキャラクターになること
③100周年まで愛されるキャラクターであること
④使用用途が広がるよう、デザインがしやすいこと

この方針を下に最終候補5つを選抜した。

選抜過程

6.最終投票、そして結果発表

5案を残したものの、社員が提出したイラストのままでは、画力に差があるため、画力の高い人のキャラクターが優勝してしまう。
それを避けるために最終候補5案をブリューナクさんにリデザインしてもらった。
そのイラストを発表し、社内に最終投票を呼びかけた。

最終投票の説明会でのお願い文

投票可能な社員総数41名、すべて期限内の4日間で投票してくれた。
誰かコメント残してくれたらいいな、と思って作ったコメント欄には、ほぼ全員が自分が投票するキャラクターへの想いを書いてくれた。

どのコメントも「このキャラクターが自分たちの仲間になる」という思いが伝わってきた。

投票したキャラクターへの社員のコメント

投票結果は、1位と2位が1票差。

キャラクター最終投票結果 接戦となった

選ばれたのは「みった」と「りっか」だった。ほかにも良い案がいっぱいあったので、結果的にはどれが選ばれても良かったが、みったとりっかで良かったと思う。

応募された最初の「みった」と「りっか」
新コーポレートキャラクター「みった」と「りっか」

選ばれたみったとりっかを最終的に波多野さんがデザインしなおし、今の姿かたちになった。

7.これから

無事にキャラクターが完成したけれど、そこがゴールではなくキャラクターを通してお客様、社会と良いコミュニケーションをとることが大事。
そのため、今後はホームページの更新、ノベルティ(販促品)の作成、製品や取扱説明書などへ登場させるなど、やるべきことは多くある。
LINEスタンプも作りたい!!!ぬいぐるみ作りたい!!

現在ノベルティをつくっていても、最終的に決めるのは難しいなぁと思いながら進めてる。
けど、みったやりっかがついたノベルティ案を社員のみんながみて「かわいい~」とか「これ欲しい!」と言ってくれるので、こんな風に楽しみながら、「みった」と「りっか」がコミュニケーションの輪の中に入っていけたらいいな、と思う。

8.さいごに

コーポレートキャラクターを作りたいと思った後、なかなか勇気が出なかったのは「もっと立派な会社になってからの方がいいんじゃないか」とか「売上や利益につながるアクションの方が優先すべきだ」という迷いがあったから。
今でも「みった」と「りっか」がすぐに売上につながるとは思ってない。

それでも「今やろう」と思ったきっかけがあった。

一人の社員がいる。その方はいつも明るく、言葉でチームを引っ張ってくれる。その言葉に僕も勇気をもらう。

その方が病気になった。そして、休んで治療に専念するか、治療しながら働くかを選択しなければならなかった。

「三田理化が好きだから、出来るだけここで働いていたい」

その言葉を聞いて、覚悟が決まった。
この方に限らずこの先誰がどうなるか分からない。
だったら、ただ日々仕事をこなすだけでなく、なにか少しでも明るいイベントがあれば思い出になるかもしれない。

コーポレートキャラクターが正解か分からないけれど、迷っている時間はなかった。どうしてもコーポレートキャラクターをつくりたかった。

みったとりっかが誕生し、その方が他の社員と一緒に楽しそうにノベルティ案を見ているのを見て「ああ、よかった」と思った。一つ、思い出を作ることができた。

会社の意思決定としてはあまりにもおセンチかもしれないけれど、人生における意思決定において、センチメンタルはとても重要だと思う。

この意思決定が正解だったと思えるようこれからも、道なきところに、道をつくり続けます。

どうか、これからも三田理化工業と、みったとりっかをよろしくお願いいたします。

よろしくね、と言うてます

わぁわぁ言うとります。お時間です。さようなら。


大阪市在住の89年生まれ 父親経営の中小メーカーに在職。 グロービス経営大学大学院卒業 事業承継や、組織の変革、文系から見た社内システムの構築について掲載予定 好きなもの:サッカー(ガンバ大阪ファン)、漫画(オールジャンル)