現代版 雪女 異類異端婚「雪の娘 - 人間と異界の狭間で」~禁忌を破った父と娘の物語~
あらすじ
1998年、主人公の新谷透は趣味の登山中に富士山で遭難し、奇跡的に山小屋で発見される。
しかし、彼を救ったのは神秘的な女性、雪女の凛だった。
命の代償として彼女と結婚し、二人は娘の小夜をもうける。
しかし、透は禁を破り、小夜に母の正体を告げてしまう。
その結果、凛は雪女の里に戻らざるを得なくなり、透と小夜の二人だけの生活が始まる。
ある日、小夜が塾から帰宅せず、透は不安に襲われる。調査の末、小夜が「妖怪商人」と呼ばれる犯罪組織に誘拐され、奴隷として売られようとしていることが判明。
透は凛を呼び戻そうとするが連絡がつかず、憑き物使いの深見胡堂に助けを求める。
胡堂と妖怪商人のリーダー紅丸との呪術戦の末、小夜は雪女の血が覚醒し、人間界に戻れない身体になってしまう。
しかし、胡堂の秘術によって人間の姿を保てるようにする方法が高額で提示され、透は代償を支払う決断を迫られる。
主な登場人物
1. 新谷 透(しんたに とおる)
役割: 主人公。娘・小夜の父親。
年齢: 37歳(物語開始時)
容姿: 短髪で黒髪。登山が趣味で体格は引き締まっているが、会社員の疲れからやや目の下にクマがある。
性格: 実直で家族を何より大切にするが、不器用なところがある。理屈で考えがちだが、家族のためならリスクを取る勇気を持つ。
口癖: 「どうにかなるさ」「最後まで諦めないからな」
背景: 中堅商社の営業職。大学時代から登山を趣味にしていたが、凛との出会いをきっかけに現実と異界の狭間で苦悩する人生を送ることになる。
2. 凛(りん)
役割: 雪女であり、新谷透の妻、小夜の母親。
年齢: 外見は20代半ば(実年齢は不明)。
容姿: 真っ白な肌、長い銀髪、吸い込まれるような氷の青色の瞳。普段はシンプルな和服を好むが、人間界では現代風の服装も取り入れる。冷たい雰囲気だがどこか儚げな美しさを持つ。
性格: 控えめで穏やかだが、異界の存在としての厳しさを持つ。感情が激しくなると冷気が漏れ出る。
口癖: 「人はすべてを知る必要はない」「忘れるのもまた一つの幸せ」
背景: 雪女の一族から人間界に出てきた異例の存在。透を救ったことで人間の世界にとどまる選択をしたが、娘に正体が知られたことで里に帰らざるを得なくなる。
3. 新谷 小夜(しんたに さよ)
役割: 主人公の娘。物語の鍵を握る存在。
年齢: 13歳(中学1年生)
容姿: 父親似で黒髪ストレートだが、瞳は母譲りの透明感のある青色。身長は小柄でやや細身。清楚で素直そうな印象を与える。
性格: 純粋で心優しいが、思春期特有の反抗心もある。自分の中に流れる異質な力に無意識に気づいており、葛藤を抱える。
口癖: 「どうして私だけ……」「普通に生きたいだけなのに」
背景: 母の血を引き継ぎ、人間と雪女の狭間で揺れる。物語の後半で雪女の力が目覚めるが、それをコントロールする術を持たず苦しむ。
4. 深見 胡堂(ふかみ こどう)
役割: 憑き物使いであり、透の協力者。
年齢: 50代後半。
容姿: 長身で痩せた身体、禿げ上がった頭に鋭い目つき。常に和装を身に着け、古びた経本を持ち歩いている。顔に呪術による傷跡がいくつもある。
性格: 冷徹かつ無慈悲だが、本質的には義理堅い。金銭に執着するが、正義感がないわけではない。
口癖: 「力には力で」「タダでは動かんぞ」
背景: 憑き物使いとして長年妖怪や異類と戦ってきた孤高の存在。金を積めばどんな依頼でも受けるが、その裏に過去の喪失と後悔がある。
5. 紅丸(こうまる)
役割: 妖怪商人のリーダー。物語の敵対者。
年齢: 外見30代半ば(実年齢は不明)。
容姿: 真紅の長髪、鋭い目つき、派手な和装に現代的な要素を混ぜた奇抜なファッション。爪が異常に長く、指先に不気味な力が宿る。
性格: サディスティックで残虐。金と力を追い求め、異類や妖怪を道具として扱う。
口癖: 「金で解決できないことなんてない」「俺はお前を買った」
背景: 妖怪と人間の世界を渡り歩きながら、異界の存在を捕らえて売りさばく犯罪者。強力な呪術を操り、深見胡堂と敵対する宿命を持つ。
6. 透の友人(サポート役) - 杉山 健吾(すぎやま けんご)
役割: 透の親友であり、現実世界のサポート役。
年齢: 37歳
容姿: ぽっちゃり体型で短髪、メガネが特徴。カジュアルな服装を好む。
性格: おおらかで明るいが、少し怖がり。透の異常な状況に半信半疑ながらも協力する。
口癖: 「マジかよ、それ映画の話だろ?」「まあ、やるしかないか」
背景: 大学時代からの透の友人で、現在はIT企業の技術職。透の遭難時も救助活動を手伝い、凛との関係を薄々知っている。
現代版 雪女 異類異端婚「雪の娘 - 人間と異界の狭間で」~禁忌を破った父と娘の物語~
第1章:凍える山小屋
あの日、山の神々は俺を選んだのか、それとも単に見放したのか。
1998年12月、富士山はいつもよりも険しく、そして凍てついていた。
冬山登山は確かに危険だと知っていたが、俺の中ではそれが一種の挑戦だった。
平凡な会社員生活を送る俺、新谷透にとって、週末の山登りは唯一の趣味であり、自分を保つための行為だった。
しかし、その日は違った。
「遭難者が出たらしいぞ。」
登山口の近くで偶然耳にした会話を深く気に留めることもなく、俺は予定通り登山を始めた。
曇り空だったが、これまで経験した天候よりも悪くはない。だが、山の天気が一変することを俺は甘く見ていた。
数時間後、吹雪が襲ってきた。
ガイドラインも足跡も雪に埋もれ、辺り一面が真っ白になった。
凍りつく指先を温める暇もなく、俺はただ進むしかなかった。
だが、進む方向が正しいかどうか、それさえもわからなくなっていた。
足が限界を迎えた時、俺は小さな山小屋を見つけた。
薄暗い空の中、その小屋だけがぼんやりと浮かび上がるように見えたのは、幻覚か何かなのだろうと思った。
しかし、意識が朦朧とする中、俺は無意識にその扉を開けていた。
中は驚くほど暖かかった。
いや、暖かいというよりも、何か得体の知れない力に包まれているようだった。薪が燃える匂い、静かな空間、そして―。
「やっと来たのね。」
女性の声がした。
振り向くと、そこには驚くほど美しい女性が立っていた。
銀色の髪が肩にかかり、青い瞳がこちらをじっと見つめている。
彼女はまるでこの寒さの中に溶け込むかのように静かで、しかしその存在感だけが妙に際立っていた。
「……君は?」
俺の声はかすれ、震えていた。
それを無視するように、彼女は微笑んでこう言った。
「あなたの命を救う代わりに、私と契約を結びなさい。」
俺は答えるどころか、彼女の言葉の意味すら考える余裕がなかった。
ただ、彼女の差し出した手に触れると、全身が温かくなり、そして意識が遠のいていった。
目が覚めた時、俺は麓の救助所にいた。
医師や救助隊が安堵の表情を浮かべ、俺に話しかけてきたが、俺の頭には彼女の姿しかなかった。
「本当に……助かったんだな」独り言のように呟いたその時、耳元で囁く声がした。
「忘れないで。契約をしたことを――。」
第2章:凛との生活
彼女の名前は凛。彼女は再び俺の前に現れたのは、退院して間もない頃だった。
俺があの時見た幻覚ではない。彼女は現実として俺の前に立ち、こう告げた。
「あなたの命は、私のものになったの。」
俺は抗議するどころか、彼女の美しさに圧倒されていた。
そして、彼女はこう続けた。
「私と一緒に生きることが、あなたの命の代償。」
理屈に合わない話だ。
しかし、彼女を見つめると、その目には何か抗いがたい力が宿っていた。
そして俺は、自分の運命を彼女に預けることを選んだ。
凛と共に暮らし始めてから、俺の生活は一変した。
これまでの日常がどれほど平穏で退屈だったのかを思い知らされる日々だった。
彼女は静かで物腰が柔らかい女性だったが、どこか人間らしさの薄い部分が垣間見える瞬間があった。
特に、寒い冬の夜、ベランダで静かに雪を眺める彼女の背中は、まるでこの世界に属していない存在のようだった。
「寒くないのか?」
俺が尋ねると、彼女は微笑みながら振り返った。
「寒さは私の友達よ。それより、あなたは暖かい部屋にいなさい。」
そんな彼女が、俺の家にいるのはまるで夢のようだった。
しかし、彼女の言葉に従って家に戻るたび、どこか胸の奥で不安が芽生えているのを感じた。
それでも俺たちは夫婦としての形を整えていった。
凛は少しずつ家事を覚え、俺の仕事の帰りを笑顔で迎えてくれるようになった。
彼女は完璧な妻だった。そして、結婚して2年後、娘の小夜が生まれた。
第3章:禁忌を破るまで
小夜は母親似の美しい子供だった。
黒髪に青い瞳、透き通るような白い肌。赤ん坊の頃から目立つ容姿に周囲も驚き、親戚は「凛さんの血が強く出たんだね」と笑っていた。
しかし、俺だけは知っていた。それが単なる遺伝ではないことを。
小夜が成長するにつれ、凛はある日こう言った。
「小夜には決して私のことを教えてはいけない。それがこの家族を守る唯一の方法よ。」
その言葉の意味を考えたことは何度もあったが、深く掘り下げることはしなかった。
俺は凛の言葉を信じ、小夜を守ることだけを考えていた。
しかし、ある冬の夜、小夜が10歳の誕生日を迎えた日、俺はついに禁忌を破ることになる。
その日は特に寒かった。凛は小夜の誕生日を祝うため、普段よりも丁寧に料理を作っていた。
小夜はケーキのロウソクを吹き消し、俺たちは幸せな時間を過ごした。しかし、その夜、小夜がふとこう言った。
「お母さんって、なんだか普通のお母さんと違うよね?」
俺は一瞬凛を見た。
彼女は何も言わなかったが、その目には明確な警告があった。
しかし、俺はその視線を無視してしまった。
「実はな、小夜。お母さんは普通の人間じゃないんだよ。」
小夜は目を輝かせて俺の話を聞いていた。
俺はなぜ話してしまったのか、自分でもわからない。
ただ、小夜が成長する中で、自分の家族の特殊性を知るべきだと思ったのだ。
しかし、その夜、凛は俺に冷たく言い放った。
「あなたは約束を破った。私はここを離れなければならないわ。」
彼女の言葉が現実になるまでに時間はかからなかった。
翌朝、凛の姿は消えていた。
小夜は泣き叫び、俺はただ後悔するしかなかった。
第4章:小夜の失踪
凛が去ってから3年が経った。
小夜は思春期を迎え、母親の不在を感じながらも懸命に成長していた。
しかし、ある日、小夜が通う塾から帰ってこない日が訪れる。
「小夜?今どこだ?」
電話をかけても繋がらず、俺の心臓は早鐘を打った。
彼女がただ遅れているだけならいいが、そんな直感はどこかで否定されていた。
警察にも相談したが、彼らは「家出かもしれませんね」と言うだけだった。
しかし、俺の胸の奥では、小夜が普通の失踪ではない形で消えたことを理解していた。
その確信を得たのは、小夜の通学路で見つけた不可解な足跡だった。
雪の中に残された異常に大きな爪痕。
それは、人間のものではなかった。
俺は思い切って凛を呼び戻そうと試みた。
彼女に頼るのは誇りを傷つけるようなことだったが、娘を救うためには仕方がなかった。
しかし、どれだけ祈っても、凛は戻ってこなかった。
そんな俺の前に現れたのが深見胡堂という男だった。
「お前、面白い話を聞かせてくれるじゃないか。雪女の嫁と、その娘が攫われたって?」
胡堂は、古びた経本を片手に笑みを浮かべながら俺を見た。
その目は、すべてを見透かすような不気味な輝きを放っていた。
第5章:憑き物使い深見胡堂
胡堂との出会いは、不安と一抹の希望が入り混じった奇妙なものだった。
彼は長身で痩せた体を包む和装姿、禿げた頭に呪いのような傷跡が目立つ異様な男だった。
一目でただの人間ではないとわかったが、俺にとってはそれが頼りになった。
「お前の娘、小夜とか言ったか?攫ったのは妖怪商人だ。奴らは人間と異界の存在を売買してやがる。娘の血が奴らには高値で売れる材料だってことさ。」
「小夜を返してくれ!」俺は思わず叫んだ。
しかし胡堂は冷たく笑っただけだった。
「返してくれ、だと? 俺はそいつらの仲間じゃねえ。だが、金を出すなら力を貸してやる。俺の秘術はタダじゃない。」
「どれだけ必要なんだ?」
胡堂はゆっくりと一本指を立てて言った。
「百万円だ」
一瞬、ためらった。
しかし、小夜の命には代えられない。
俺は即座にうなずき、胡堂にすべてを託すことに決めた。
第6章:紅丸の牙城へ
胡堂は娘の居場所を突き止めると言い、俺を連れて東京の外れにある廃工場跡へ向かった。
その場所は異様な雰囲気に包まれ、異界の気配が漂っていた。
「ここが奴らの拠点だ。準備はいいか?」
胡堂が笑いながら振り返ったとき、俺は心の中で自分を奮い立たせた。
「もちろんだ。小夜を取り戻す。」
中に踏み込むと、そこには紅丸と名乗る男が待ち構えていた。
彼は真紅の長髪を振り乱しながら、冷酷な笑みを浮かべていた。
その横には、檻の中に閉じ込められた小夜がいた。
「ようこそ、雪女の娘の父親さん。ここまで来た勇気は褒めてやるよ。」
紅丸の声は冷たく響いた。
「小夜を返せ!」
俺は叫びながら突進しようとしたが、胡堂が腕をつかんで止めた。
「落ち着け、俺に任せろ。」
胡堂は経本を取り出し、呪文を唱え始めた。
その声が響くたびに、空気が震え、異様な光が場を包み込んだ。
一方で、紅丸も同様に呪術を使い、二人の間で激しい戦いが繰り広げられた。
その光景は、まるで別世界での戦争だった。
火花のように飛び交う呪術、空間が歪む感覚、そして紅丸の操る妖怪たち。俺はただ娘の名前を叫び続けた。
「小夜! もう少しだ!」
その時、檻の中にいた小夜の目が光を帯び、突然、冷気が場を包み込んだ。
第7章:小夜の覚醒
小夜が目覚めた力は、紛れもなく雪女の血が覚醒したものだった。
彼女の瞳が母親と同じく凍える青に輝き、冷気が一瞬で敵の妖怪を凍らせた。
「小夜!」
俺が声をかけると、彼女は振り返った。
しかし、その瞳には人間らしさがほとんど残っていなかった。
「お父さん……怖いよ……。」
彼女の涙が雪となり、空中に舞った。
その瞬間、紅丸が叫び声を上げ、呪術の光の中に消えていった。
胡堂が深い息を吐きながら、俺に向かって言った。
「娘の力を抑えないと、このままでは人間界には戻れねえ。だが、俺の秘術でなんとかなる。」
「それを頼む! いくらかかっても構わない!」
胡堂はしばらく考え込んだ後、静かに言った。
「1千万円だ!」
第8章:秘術と代償
胡堂の秘術は成功した。
小夜の力を抑え、彼女が再び人間界で生活できるようにした。
ただし、その力を完全に封じることはできず、彼女は「雪女としての運命」を常に背負うことになった。
「これで娘は元に戻れる。ただし、完全な人間にはなれないことを忘れるな。」
胡堂の言葉は重く響いた。
しかし、小夜が無事に家に戻り、普段の生活を取り戻せたことは何よりの救いだった。
第9章:新たな日常
小夜は中学に戻り、少しずつ普通の生活を取り戻した。
俺も仕事に復帰し、以前のような日々を過ごしていたが、どこかで凛の面影を探してしまう自分がいた。
そしてある冬の日、小夜がぽつりとこう言った。
「お母さん、今も私たちを見ていると思う?」
俺は答えられなかった。
ただ、あの山小屋で出会った凛の姿が頭をよぎった。
第10章:未来への旅路
小夜と二人きりの生活は続く。
彼女の中に眠る雪女の血は、時折その片鱗を見せるが、彼女は懸命にそれを抑えながら生きている。
ある日、夢の中で凛が微笑みながらこう囁いた。
「これでよかったのよ。あなたは強くなった。」
目が覚めた時、窓の外には静かに雪が降っていた。
それはどこか暖かいもののように感じられた。
小夜が戻ってきた生活は、以前の生活とはどこか違っていた。
それは彼女が雪女の血を抱えて生きることを知ったからでもあり、俺自身もその運命を共有することを自覚したからだ。
「お父さん、この雪、なんだか懐かしいね。」
窓の外を見ながら小夜がつぶやいた。
「懐かしい……?」
俺が聞き返すと、小夜は小さな笑みを浮かべた。
「お母さんがいる気がする。」
その言葉に俺は胸が詰まる思いだった。
凛の存在が消えたわけではない。
それでも、彼女が再びこの家族の一員として戻ってくることはないのだ。
胡堂からはその後も何度か連絡があった。
秘術の維持に必要な「供物」を支払う必要があると言われ、俺は定期的に彼に会うために足を運んだ。
「小夜の状態は安定している。だが、異界の血は完全には消えない。気を抜くな。」
胡堂はそう告げたあと、経本を閉じ、俺に背を向けた。
「ありがとう。」
感謝の言葉を口にしたが、彼が俺に向けるのは冷たい横顔だけだった。
雪女の面影
季節は巡り、小夜は高校生になる。
勉強や部活動で忙しい日々を送る彼女の姿は、一見すると普通の女子高生そのものだ。
しかし、ふとした瞬間に見せる冷たい瞳や、感情が高ぶった時に周囲の空気が凍りつくような感覚に、俺は少しずつ慣れていった。
「お父さん、私、将来どうなるのかな?」
ある日、小夜が唐突にそう尋ねた。
「どうなるって、普通に生きていけるさ。俺もずっとお前のそばにいる。」言葉に自信を持たせるよう努めたが、小夜は首を横に振った。
「違う。私が人間でいられなくなったら……その時はどうする?」
答えられなかった。そんな未来が来ないことを祈るしかなかった。
ある冬の日
その冬、また雪が降った。
透き通るような冷たい白い雪。小夜はその雪の中で微笑みながら舞うように歩いていた。
「お母さんも、この雪の中にいるのかな。」
小夜がそう言った瞬間、強い風が吹き、空からは大粒の雪が降り始めた。
その雪の中で、俺は一瞬だけ見た――凛の姿を。
それは確かに彼女だった。雪の中で儚げに微笑む姿。
そして、彼女の青い瞳が俺をじっと見つめていた。
「凛……」俺がその名を呼ぶと、風がさらに強くなり、彼女の姿は雪と共に消えていった。
「お父さん、どうしたの?」
小夜の声で我に返ったが、俺はただ首を振るしかなかった。
エピローグ:雪の未来へ
俺たちはまだ家族だ。ただ形は変わった。俺と小夜の二人だけの家族。
凛はもういないが、彼女の存在は常に俺たちの心の中にあり、雪が降るたびにその記憶は鮮明に蘇る。
「お父さん、これからも一緒に生きていこうね。」
小夜が手を握りながらそう言った時、俺は心から彼女を抱きしめた。
「もちろんだ。俺たちはずっと一緒だ。」
窓の外には静かに雪が降り続けていた。
それは悲しみでもなく、恐れでもなく、ただ優しい白い景色として俺たちを包み込んでいた。
完