見出し画像

【石丸ショック】都知事選での石丸躍進に怯える大人たち

7月7日の七夕の日に投開票が行われた、四年に一度の東京都知事選は、現職の小池都知事が、300万票近い得票を集めて、三期目の椅子を仕留めた。
そんな中、当選した小池都知事を上回る注目を集めているのが、蓮舫候補を抑えて二位に躍進した石丸伸二氏だ。なんと初挑戦で166万票、24%を超える得票率を叩き出した。選挙前までは、ほとんど無名の候補であり、まともな支持基盤が全くない状況から、短期間でこれだけの成果を出したのは驚きでしかない。
そこで、今回は、この世の中をあっと言わせた石丸現象について考えてみたい。

史上初のSNS選挙

今回の石丸候補の選挙戦の特徴は、何といってもSNSの活用だろう。そもそも広島県の安芸高田市という山間部の過疎自治体の一市町に過ぎなかった石丸氏を一躍有名にしたのもXやYoutubeなどでの過激な発言だ。
実際の都知事選では、大手コーヒーチェーン店のオーナーがスポンサーにつき、元自民党の事務局長を務めた、人呼んで”無敗の選挙の神様”が裏方を務めたようだ。
また初めから当選を目指すのではなく、全国的に注目を集める東京都知事選で政治家として名前を売るのが目的だったのだろう。
実際の選挙戦では、XやYoutubeなどのSNSで集まった大量のボランティアが中心になり、ポスター張りなどの裏方を引き受けたようだ。
また個人を中心に二億円を超える献金が集まっているとの報道もあった。
何かと批判の多い今回の石丸氏の選挙戦だが、日本の政治上で初めてSNSを最大限に活用して、大量の浮動票を獲得した結果は、今後の日本の選挙を語るうえで大いに評価されるべきだろう。

若者はSNSしか見ない

今回の石丸氏の100万票を大きく超える得票の大きな特徴の一つが20代以下の若者の圧倒的支持だ。何と、この年代に関しては、都知事に当選した小池氏を抑えて40%を超える得票率を叩き出したようだ。
そして、テレビや新聞などの大手マスコミは、この若者による石丸氏への高い支持に戸惑いを隠せないようだ。
しかし、若者層の日ごろの行動を普段から理解していれば、何ら不思議ではない。以前から言われていることだが、物心がついた時からスマホがあった20代以下については、”スマホしか見ない”のだ。新聞はおろか”TVすら全く見ない”。ちなみに最初のiPhoneが発売されたのは、2006年だ。なんと今から18年前だ。今、二十歳の若者が2歳の時だ。当時18歳の高校生は、今36歳になっている。そして彼らはTVをほとんど見ない
新聞やTVなどの既存メディアは、自分たちが世論を作っていると未だに勘違いしているようだが、見ないものは存在しないに等しい

蓮舫さんは、よく知らない

リベラルメディアが挙って押していた蓮舫氏に関しては、蓮舫氏本人には失礼ながら、20代以下の世代にとっては、小学生の時にTVの中でおぼろげに見た”甲高い声で叫ぶ派手なルックスのオバサン”ぐらいの認識でしかないかも知れない。
今回の選挙でも話題になった「二位じゃだめなんですか?」で有名な民主党政権時代の事業仕分けについても、若者は、よく知らない人が殆どだろう。何しろ十四年も前のことだ。今年大学を卒業した22歳の若者が8歳(小学校二年生)の時の話だ。
このことを理解すれば、彼らの石丸氏への投票行動はなにも不思議ではない。重要なのはYoutubeの再生回数なのだ

石丸氏への総攻撃が始まる

今回の都知事選での大量得票を受けて、早速、石丸氏へのメディアによる総攻撃が始まったようだ。
特に話題になっているのが、7月7日の夜に日本テレビで放送されたニューズゼロでのコメンテーターとのやり取りだ。
普通の政治家なら丁寧に回答するはずの、在京キー局の、しかも看板ニュース番組を小バカにするような石丸氏の受け答えが話題になっている。
このやり取りを受けて、メディアの中には石丸氏がアスペルガーだとかサイコパスだとか、一歩間違うと人権侵害とも見紛う分析をするところまで登場している。
しかし、この一見型破りともいえるやり取りも、SNSでの拡散を狙ったとみれば特に違和感はない。SNSが主戦場の石丸氏にとって、新聞やTVは、既得権にまみれた所詮オールドメディアに過ぎないのだ。そして新聞やTVから批判を集めれば集めるほどに彼の信者は燃え上がる。フェイクニュースばかり垂れ流す(と石丸支持者が思っている)既存の”マスゴミ”から攻撃されればされるほど、それは石丸氏の”正しさ”を証明することになる
仕組みとしてはトランプ現象と一緒だ。リベラルのCNNやインテリから批判を浴びれば浴びるほど、トランプ支持者たちは、影の政府からトランプを守らなければと燃え上がる。

ライブドア事件との類似性

今回の石丸氏のやり取りを見ていて既視感を覚えた人も多いかもしれない。そう20年近く前にあった”ライブドア事件”との類似性だ。
当時イケイケどんどんのネット企業だったライブドアは、プロ野球チームの買収をしようとしたり、最後にはラジオ局のニッポン放送買収を通じて在京キー局のフジテレビの買収を試みた。
その結果は、ご存じの通りだ。フジテレビの買収に乗り出すと同時に、TVを中心とした既存メディアの総攻撃を受け、最後はでっち上げともいえる罪で東京地検特捜部に逮捕されてしまった。
今回の主要メディアと石丸氏のちぐはぐなやり取りも、当時のライブドアのホリエモンこと堀江貴文氏の「想定内です」との名言を思い出させる。

10年後はSNS選挙がメインに

ライブドア騒動では、堀江氏は目標として”TVとネットの融合”を掲げていた。しかしその構想は既存の識者や経営者から総スカンを食った。有名なのが当時テレビ朝日で放送された田原総一朗司会のサンデープロジェクトでのやり取りだ。番組の中で、有名な外資系のコンサル会社社長がホリエモンの構想をこき下ろした
しかし20年近くたった今、結果は明白だ。当時は我が世の春を誇っていたTV局はネットの台頭で凋落し、数年前に広告収入でネットに抜かれてしまった
また新聞は発行部数を落とし、今では主要な新聞社の本業は”貸しビル業”になっている。
またホリエモンが構想したネットとメディアの融合に関しては、ネットフリックスやSNSの形で海外のプラットフォーマーに覇権を握られてしまった
今振り返れば、ホリエモンの予言は全て当たっていた。時代遅れだったのは(当時も今も)大企業で権力を握るくそジジイたちの方だったのだ。そして20年近く前に起きたライブドア騒動が、日本がITでアメリカにキャッチアップする最後のチャンスだった(残念)。

政治の世界にも20年遅れで同じことが起きるだろう。理由は簡単だ。10年すると、今の70代は80代になり選挙に行かなくなる。一方で、スマホネイティブ世代が有権者の半分近くを占めるようになる。
今後10年で大手新聞と在京キー局のTVは、今以上に劇的に影響力を失うだろう。今の(文春を除いた)週刊誌のような状況だ。いくら上から目線で正論を吐いたところで、誰も見なければ存在していないのと一緒だ

一部の有権者に刺さる

中高年世代には信じられないかもしれないが、SNS世代の若者にとっては、例えば2ちゃんねるで有名な”ひろゆき氏”や、元お笑いタレントでYoutuberの中田氏などが、経済や政治を解説する識者と思われている。
社会経験や知識があれば、彼らSNSインフルエンサーの発信する情報の”底の浅さ”、”議論の粗さ”が目立つだろう。しかし、そもそもSNSしか見ない、そして本も読まない、情報分析力のない人間には、その違いが分からないのだろう。
石丸氏に関しても、SNSに溢れる他のインフルエンサーと同じで、”話し方が面白い”だけで、話の内容には殆ど意味がないとの指摘が多い。
しかし、そもそも難しい政策の話を理解する能力のない多くの有権者にとっては、”話し方”そのものが重要な判断材料になる。
加えて芸能人を思わせる端正なルックスと、京大卒、三菱UFJ銀行勤務という分かりやすいブランドが加われば、カリスマとしての資質は十分だ。
この既存の体制に反旗を翻す”半沢直樹”的なキャラが一部の有権者に刺さったのだろう。
また今回の都知事選での分析を見ていて興味深かったのが、維新とれいわ新選組(そして自民の一部も)という水と油のような政党の支持者の票のかなりの部分が石丸氏に流れていることだ。広告やマーケティングの世界で有名な”B層”と呼ばれる人たちが、石丸氏の”分かりやすい反既得権益キャラ(注:反”権力”ではない)に反応したのかもしれない。

選挙のファットテール

今回の石丸氏の成功を見て、次の選挙で同様なアプローチを試みる”コピーキャット”が大量に登場するだろう。今のところ石丸氏のブランド力がずば抜けて高いが、近い将来に石丸氏を上回るキャラが登場するかもしれない。
ネットの世界では、”勝者総取り”が常識だ。いわゆる”ファットテール”と呼ばれる現象が起きることも知られている。WEBではGoogleやヤフーなど極一部のサイトにアクセスが集中し、大半のサイトは見向きもされない。
またYoutubeやXなどのSNSでは、視聴履歴に基づくレコメンド機能が原因で、ユーザの偏った関心がより強化れるサイロ効果と呼ばれる現象が有名だ。
これらのネットやSNSの特性の結果、遅くとも今後5,6年のうちにSNS選挙の勝者が決まるようになるかもしれない。
そして、この新しい政治の風景の中で、既存の政党が勝者となる可能性はそれほど大きくはないだろう。同時に政治の世界における大手新聞やTV局の影響力も更に大幅に低下するだろう。

最適化≒コスパ重視

石丸氏のマニフェストを眺めると特徴的な言葉がいくつかある。その一つが”最適化”だ。既得権益やしがらみで動きの取れない既存の政治に対して、最適化をキーワードの資源の再配分を行おうという考えだ。
また若者の間で常識となっている”コスパ重視”とも重なる。問題の本質などはどうでもよく、効率的に課題をこなせればよしとする考え方だ。
実際に安芸高田氏では、既存の温水プールなど効果が疑問(と石丸市長が考える)事業を廃止して、給食の無償化を実現したようだ。
この考え方は、一部で話題になっている”テクノ・リバタリアニズム”と共通するところがある。また最近話題になることがあるEBPM(データに基づく政策策定)ともつながるだろう。
この最適化を志向する人間にとって、既存の政治における”やる気””志(こころざし)”などは、どうでもいい話だ。資源の最適な分配が重要なのであって、イデオロギーなどはなから関心はない(※最適化という考え方自体がイデオロギーだとの批判は置いておく)。民放TVのニュース番組でのチグハグなやり取りも、既存のイデオロギーに興味のない層からすれば、くだらない質問を繰り返すTV局の方が時間の無駄、バカということになる。
この最適化という考え方は、特に目新しい考え方ではないが、東京の一部の”意識高い系”有権者に刺さったのかもしれない。

デジタル・ファシズム

都知事選での石丸候補の躍進を見るにつけ、10年後には全く新しい政治の世界が出現しているかもしれない。
それは、SNSにより囲い込まれた有権者が、特定のカリスマ指導者の元に集まる一種の”デジタル・ファシズム”とでもいえるような状況だ。
または、悪く言えば”一種の新興宗教”のようなイメージだ。
そしてSNSを通じてより”信者”のコントロールが容易になる。今回の都議選でも、多くの石丸信者が、彼のYoutube動画やSNSを繰り返し見たと証言している。まるで”某幸福のなんとか”の信者が教祖の著作を買いまくる姿に似ていなくもない。
このような状況が出現した場合、既存のオールドエコノミー企業がGoogleやAmazonによって駆逐されたように、自民や立憲などの既存政党の多くが”あっという間に”姿を消すことになるかもしれない。

新しい都市型政治の誕生

今までの自民党を中心とする政治体制では、地方への公共事業や農業などへの補助金を通じて議席を獲得してきた。さらに都会と地方の一票の格差を利用することで、地方の票の価値をかさ上げし、地方を地盤とする与党である自民党は政治権力を維持してきた。

しかし、今後10年ほどの間に予想される、地方の劇的な人口減少と都市部への人口集中で、既存の方法では政治権力が維持できなるなるのは明白だ。
実際に、次の衆議院選挙を控え行われた”十増十減”の定数是正にもかかわらず、すでに選挙前の段階で一票の格差が再び二倍に拡大してしまっている。

次の世代に政治権力を維持するためには、いい悪いは別にして、SNSなどを利用した都市の有権者の取り込み(または”洗脳”)が必須となる。
この意味から、今回のSNSを利用した石丸旋風は時代の先駆けとなる新たな選挙のありかたを体現した画期的なものだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?