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ヒストリー10 〜家に帰るぞ!サルトに忍び寄る怪しい影〜

〝ザックの森〟の外 《2人の男視点》

農民の身なりをした、
ふたりの男が、ボロ小屋の横に立って
〝ザックの森〟の入り口をずっと見ている。
ひとりは太った男で、もうひとりは、痩せた男だ。
痩せた男は、タバコをふかしている。

その時、〝ザックの森〟の入り口から
少年が出てきた。

太った男『来たぞ兄貴。』

痩せた男『あぁ。ちょっと遅くなったが
予定通りに戻ってきたな。』

痩せた男は、吸っていたタバコを足元に捨てて
足でタバコを消した。

太った男『でもよー兄貴。』

痩せた男『なんだ?』

太った男『ほんとに、あのガキでいいのか?』

痩せた男『仕方ねーだろ。ディッチ家のメリルが
標的だったが護衛が多すぎて攫〔さら〕いたくても
攫〔さら〕えねーんだよ。』

太った男『妥協して、ドットチャイム家の
ガキかー。絶対報酬が下がるよな。』

痩せた男『ドットチャイム家は、九王国でも
最弱の王家だからな。まぁ、普通、王家の
ガキには、護衛がつくはずだが、
あのガキは馬鹿なのか、それとも
護衛する価値もない奴なのか、
護衛の姿は見た事ねぇ。』

太った男『それに比べて、メリルには
女剣士〝ベルヴィル〟が、ついてるから・・。
近づく事もできやしない。』

痩せた男『女ながらに
〝力感シリーズ〟を扱える、
覚醒者〝ベルヴィル〟。
ちっ、あの女さえいなけりゃ
なんとかメリルを攫えたのによ。』

太った男『あいつで我慢するしかないかぁ。
クソー。』

痩せた男『このまま、何もできずに
帰るよりはマシだろ。』

太った男『手柄なしで帰ったりなんか
したら、チーム〝チョウキ〟のリーダー
〝モンテ〟に殺される!怖ぇー!』

太った男が、〝モンテ〟の名前に震えている。

痩せた男『だから、
意地でも手柄を立てるんだよ!
王家の血筋の誰かを連れて帰れば
殺される事もないし、報酬も貰えんだろ!
安く見積っても、王家の子だからな。
100万ブルクは貰えるはずだ。』

太った男『・・メリルを攫えれば
1000万ブルクだったのに。』

痩せた男『うるせー!ガタガタ言ってねぇで
あのガキを追うぞ!』

ふたりは、少年の後を追いかけた。
その少年とは、もちろんサルトだ。

サルトは、鼻歌を歌いながら走っている。
帰りは、行きのように布船もないので
3時間ほど駆けて、自分の家に帰るのだ。

太った男『はぁ!はぁ!あ、あいつ、
どんだけ早いんだよ!』

痩せた男『はぁはぁ!
お前はデブ過ぎるだけだろ!
腹8分目って、あれだけ教えてやってんのに!』

太った男『あ、兄貴だって、バテてんじゃん。
体力なさ過ぎ!はぁはぁ。』

痩せた男『くそーっ、こ、このままじゃ
見失っちまう!』

ふたりの男と、サルトの距離が
どんどん離されて行く。
このまま、サルトを見失うかと思った時
サルトが道の端で、急に立ち止まった。

痩せた男『なんだ?急に立ち止まりやがった!』

遅れてやって来る、太った男。

太った男『はぁはぁはー。どしたんだ兄貴?』

痩せた男『ガキが、道の端で、
何かと喋ってやがる。』

太った男『え?・・ほんとだ。』

サルトは道の端に咲いた、タンポポに
話しかけてるようだ。

サルト『ねぇ、今僕に話しかけた?』

タンポポ{・・・}

タンポポは反応しない。

サルト『う〜ん、また誰かに話しかけられた
ような気がしたんだけどなぁ。』


・・

太った男『兄貴、あいつ花に話しかけてるぞ。』

痩せた男『頭がイカれてんのか?・・
まぁいい。とにかく今の内に、
攫〔さら〕っちまうぞ。』

痩せた男『わかった。』

ふたりの男は、布キレを出して
そーっとサルトの背後から
近づいていく。
道中には、裏道のせいか
3人以外に誰もいない。

サルト『いつになったら、動物とか
花とかと喋れるんだろ。』


・・

タンポポ{うしろ!}

サルト『え?』

その瞬間、サルトの口は濡れた
布キレで塞がれた。
暴れるサルトだが、大人の力には
勝てない。

サルト『んーっ、んーーっ!』

太った男『コ、コラ!暴れるな!』

サルトの抵抗が、だんだん弱くなっていく。
その内、サルトの力は完全になくなり
意識もなくなった。

痩せた男『よし!袋に、こいつを入れるぞ!』

用意してきた、大きな袋に
サルトを無理矢理入れて
袋の口を紐で縛り、太った男の肩に乗せて
その場を離れようとする、ふたり。

太った男『このタンポポに
話しかけてたのかな?』

痩せた男『知らねーよ!さっさと行くぞ!
アベルの壁も、うまく越えなきゃ
いけねーんだ!モタモタしてると人が来るだろ!』

ふたりが、その場を走り去っていく。

タンポポ{・・・}

タンポポが、風に揺られていた。

つづく。


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