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DUDEN 2020② -ジェンダーしてる?-

ジェンダーしてる?

皆さん、ジェンダーしてますか?

A: Gendert ihr? (ジェンダーしてる?)
B: Ach quatsch, nicht mit mir!  (バカバカしくってご免だよ。お断りだな。)  A: Na ja, Du arbeitest ja schließlich in der Behörde. Die Behörden wurden  schon längst gegendert. (でも公務員なんだしそうも言っていられないでしょ。役所はもうジェンダーしてるしね。)

ジェンダーって動詞なの😅? 

ここで早速、前回ご紹介した独独辞典DUDEN2020、相棒の出番です。

gendern: das Gender-Mainstreaming anwenden (ジェンダー主流化を使用すること)

ジェンダー主流化とは、男女平等の考え方を政策やシステムを取り入れること

つまり、男女平等の考え方を取り入れて実践することを、ドイツ語でgendernといい、言葉の世界ではその実践手段の一つとして、具体的にはジェンダーニュートラル(性的中立性)な表現を使っていくことを指すのですね。

例えばJALでは、10月1日から機内アナウンスの"Ladies and Gentlemen"を廃止、ジェンダーニュートラルな

"Attention, all passengers" や、 "Good morning, everyone"

などが使用され始めたっていうのもその一つですね。


まぁ、どっちでもいんじゃない(^^)?(意識低め)


いまいち言葉ジェンダーニュートラルの重要性、緊急性が差し迫った課題とも思えず、よってドイツ語を書いたり話したりする時、意識低め、多少肩身狭めに言葉のジェンダー問題はスルーしてきました。

正直「面倒」。。

表現のジェンダーニュートラル化は積極的に言葉を置き換えていくことですから、具体的には別の名詞で置き換える、現在分詞に置き換える、特殊記号を使用する、全く新しい人称代名詞を使用するなど、いくつか方法が考えられます。

なんていうか。。

ジェンダーニュートラルな表現= 単なる文字の書き換え作業?

しかし今日は満を辞して、役所や大学・企業などで近年取り入れられてきているジェンダーニュートラルな考え方、そして日本語話者にはいまいちピンとこない、(例えば前述のJALの例をとれば、日本語の「ご搭乗の皆様、」という呼びかけにジェンダー問題存在せず)。ニュートラルジェンダー化する言葉について書こうと思います。

ジェンダーって何?

そもそもジェンダーが何であるかを知るために、逆にジェンダーに縛られた考え方や行動(ジェンダーバイアス)がどんなものか、HeinekenのCMから見てみてみましょう。

カクテルは女性が、ビールは男性がの飲むもの、という固定概念を覆していく若い男女が爽やかに描かれています。ロンドンでは、男性も躊躇することなくカクテルが注文できるようにと透明なカクテルが発売されたことで話題になったバーも。

https://www.burgerandlobster.com/blog/mixed-ology-cocktail-range/

実際に男性のカクテル注文が増加したというのだから、色にまつわる男らしさ、女らしさという固定概念もなかなか根強いものですね。このような試みは、もちろん日本でも例外ではありません。例えば中学や高校の制服ではスカート以外を選択することが可能になったり、小学校で使うランドセルも、その色のバリエーションはより広く、誰でも好きな色を選べるようになってきました。

ジェンダーニュートラル化する言語

では言葉にフォーカスして、ジェンダーニュートラル化する表現について見ていきましょう。前回の投稿にも少し書きましたが、この夏に発売された最新版のDUDEN(ドイツ語の国語辞典)には、ジェンダーニュートラルな表現に関する記述があることが大きな特徴です。

ジェンダーニュートラル化される言葉の背景には、表記によって例えば女性が、男性の付属の存在として認識されていると感じたり、性的マイノリティーの人々が、社会の一員として認識されていないと感じたりするようなことがあってはいけないと考え方があることが挙げられます。逆を言えば、現行の表現には、何かしらそのように感じられる要素があるということです。その真偽についてはまた別の機会に譲りたいと思います。

具体例

この要素が顕著に顕れるのが、呼びかけ、職業名や人称代名詞です。そこで、職業名や人称代名詞をジェンダーニュートラルに変えていくという動きがあるのですが、英語の例で言いますと人称代名詞をs/heと表現したり、または複数の人称代名詞であるところのtheyを三人称単数の代名詞として使う方法があります。

もう一度中学校の英文法をやり直さなければならないようなレベルの衝撃的、また斬新なアイディアではありますが、ドイツ語の場合、文法上の性があることによって事態は英語よりも格段に複雑です。

フランス語やスペイン語におけるニュートラルジェンダー化は、またドイツ語のそれとは異なる複雑さを持っているのですが、今回は書ききれませんのでまたの機会にします。

さてドイツ語です。「同僚のみなさん」を例に見ていきましょう。同僚der Kollegeという名詞が男性名詞であることから、複数形Die Kollegenにも、そこに女性が含まれていないと捉える考え方があります。そこでジェンダーニュートラルな表現には現在、口頭や書面による呼びかけの際には、女性形複数・男性形複数をもとに以下のような表現がされています。

- Liebe Kolleginnen und Kollegen: 並列の接続詞undで繋ぎ併記

- Liebe Kollegen/-innen: スラッシュ/及び補足ハイフン-で表記

- Kolleg(inn)en: カッコ()で表記

- Kolleg_innen: アンダーラインで表記

- Kolleg:innen: コロンで表記

- Kolleg*innen: アスタリスク*で表記

- KollegInnen: 単語の中の女性形を示す一部であるIを大文字表記

特に下の2つの表記が新しく、男性・女性はもちろん、そのカテゴリーを超えて、それ以外の全ての性に向けていると理解される傾向が強いです。

上記の方法以外にも、男性形・女性形のない単語の使用、役職で呼ぶ、現在分詞にする、形容詞で、受動態で、関係文にして・・と、とにかくあらゆる手段を駆使して間違っても男性だけが代表されているように聞こえてはならないと、ほとんど苦肉の策と思えるようなものまで投入して言葉の言い換えが行われていることは、時に滑稽にすら映るのですが、この辺もそのうちどこかでご紹介できたらと思います。

日本語で「同僚の皆さん」と呼びかけるとき、女性を無視しているとか、はたまた男性でも女性でもない人々は排除されているなどと言う人はいないわけです。そこには、共に働く「人」という人間の姿しかイメージされませんし、そこに男女の是非は関係ありません。

朗報

前回のnoteに、個々に名詞の性を覚えなければならない煩わしさは、性が変化することもあるこという柔軟性を踏まえれば、多少気楽に学習を続けられるのではと書きましたが、ここへ来てさらにジェンダーにも配慮した言い換えという新たな面倒が・・とお思いの学習者の皆さん、

朗報です。

そもそも言葉は生きているといわれるように、常に変遷していくもの。しかもそれが変化する時、つまり一般に流布するときというのは、下から、つまり一般の話者から変化が起きてくるものです。ドイツでも、国語研究所のような国の機関が定めた新しい表現はなかなか浸透せず、それどころか、結果少しずつ揺り戻しが起きて、昔の表現方法に戻ったということさえあるのですから、今回も大学、大手企業、役所、メディアくらいにしかニュートラルジェンダーの表記が浸透しない可能性もあります。少なくともプライベートのメールや書簡でmeine KollegInnenとかunsere Kolleg*innenと書いている人は見かけません。

また、これに囚われなくてもいいとする専門家の意見を拝聴し、これにも頷けるように思えたので次回、ご紹介しようと思います。

今日は、言葉のジェンダーについて書きました。次回はジェンダーニュートラル表記に懐疑的な立場をご紹介しようと思います。

今日も最後まで読んで頂きありがとうございました。





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