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「カムカムエヴリバディ」ロゴができるまで~ひなたの道を歩いてほしい~

11月から放送が始まった朝ドラ「カムカムエヴリバディ」。
わたくし、番組美術スタッフとして、番組のグラフィックやセットの設計を担当している「瀨木せぎ」と申します。

私が就いている「美術デザイン」というポジションは、ドラマ全体の「世界観のビジュアル設計」をおこなっています。

ドラマ制作部からの「こんな世界を作りたい」という思いにこたえ、視覚表現のゴールをつくり、そこまで制作部・技術部・広報部をあわせたチーム全体をリードしていくのです。

皆さんが何気なく目にしているテレビ画面やモニター、紙媒体には、私たち美術の「狙い」が込められています。

単に見栄えのいいものをデザインするのではなく、「このコンテンツを通して皆さんに何を受けとってもらいたいのか」が伝わるようにイメージでもって設計していきます。

わかりやすいところでいえば、主人公が暮らす町や家の舞台設計・キャラクター設計、広報にまつわるロゴやタイトルバック、ポスターなどなど。
時代背景・取材風景の資料と合わせて、「私たちが伝えたいキャッチーな世界」を台本から構築しています。

さて、今回その一環として番組のタイトルロゴのデザインも担当しました。

それがこちら

ロゴ画像
おもわずオハヨーといいたくなるタイトルロゴ

こちらに決まるまでには、ほかに何案も候補がいくつかあったのです。

画像 ロゴ候補の数々
もっといろいろありました

ロゴ決定までの紆余曲折をお話しつつ、このデザインに込めた私たちの思いをお伝えします。


イメージの出発点は「何かを成し遂げたわけではないヒロイン」

当初、番組制作部から

「近所にある遊園地のように敷居がひくく、家族みんなで元気になれるコンテンツを作りたいんです」

というちょっぴり豪気?な野望とともに、プロットを渡されました。

イラスト プロットを渡される:ぶ厚…とつぶやく
画:瀨木文

またその際に、演出部の安達もじりさんから

「今作品はオリジナル脚本で、祖母から孫にかけての100年を描きます。ラジオ英会話を中心に繰り広げられる、伏線盛りだくさんでちょっと複雑なストーリー。そんなコンテンツの顔(ロゴ)を、物語全体を把握し作りこんでいく人と、1からつくりあげたいんです」

というオファーがありまして、インハウスでのタイトルロゴ制作が決まったのです。

通常朝ドラのタイトルロゴは、外部のプロの方に依頼することが多いのですが、白羽の矢は私のもとに。
責任重大だ!とどきどきしながら、プロットを読み込む日々がはじまりました。

物語の主人公は、なんと3人。朝ドラ史上初の試みです。1度で3倍も楽しめるこのドラマ、1世紀もの時をかけるファミリーストーリー。

それぞれの人生に登場するキーアイテムが、物語の伏線となって次世代へと紡がれていく。その壮大さに、第一印象は「朝ドラ版大河」だったことを今でも思い出します。

イラスト 船に乗って昔から現代へ つぶやき:壮六ねえ~

しかし、その壮大さとは反比例するように、ヒロインたちは市井の人でした。

今までの朝ドラのように何かを成し遂げた方々と比べたら、ずいぶんと庶民的な毎日を生きている彼女たち。
この生きざまや悩みって、現代に生きる女性たちにとって「あるある」の宝庫なのでは?と思い至りました。

時代に翻弄されながら、不安なことからは逃げてしまったり、できそうなことには向き合ってみたり。登場するキャラクターが抱える葛藤は、私の身近なところでも起こっている「事件」そのものだったのです。

イラスト 誰かとすれ違う:どこかで出会ったような

「そんな日常の延長線のようなドラマを象徴するロゴってなんだろう」

何かを成し遂げたわけではないヒロイン。
キーワードは「ラジオ英語講座」。
大正時代に生まれたヒロインから、その娘、またその娘、とバトンがつなげられていく。

アイデアの出発地点はここでした。

時代が求める、型にはめたような「女性らしさ」と、そこにはハマれないでこぼこな生き方。
「こんな私なんて…」と落ち込むことがあっても、それでも光を感じるほうへ向かっていく。

情報の多さに戸惑いましたが、それらをこぼさぬようスケッチにひとつひとつ落とし込んでいきました。

「演出の伝えたいことをビジュアル面でとがらせていく」とは?

何かをデザインするとき、私が意識しておこなっているのは、

「視聴者が、このコンテンツを喜んで受け取ってもらえるようなカタチってなんなのか」

を具体的な言葉やイメージとして要素を洗い出し、その中から「これならば!」というアイデアになるまで情報を削ぎ落していくことです。

画像 ロゴ候補の数々
画像 ロゴ候補の数々
スケッチブックに描いたり、裏紙を使ったり

脚本家と制作部がこの物語を通して、見てくれる人に何を届けたいのか、どうしたら受け取ってもらえるのか、を視聴者と製作者の両者の目線にたって、大風呂敷を広げて探るのです。

ロゴ制作時のわたしの頭の中を振り返ると

制作部から頂いた言葉をヒントに台本を読み込んでいくうちに、具体的なイメージとして、いくつかのモチーフがひらめきました。

しかし「言葉」からも、テーマを絞りこんで探れそうだなぁとも思いました。

―いま悩んでいる人たちに、陽の当たるところまで来てほしいのか

―自らの力で光を感じるところへいってもらうのか

―気がついたら日の当たるところにいたのか

―ひなたぼっこの気持ちよさなのか

―それとも、ヒロインがめげずに笑っているすがたこそ、
おひさまのような輝きなのか

言葉遊びのようですが、

視聴者の目線からつくるのか、ヒロインの目線からつくるのか、物語を表すロゴをつくるのか、5W1Hの言語に置き換えたりしながら、伝えたいテーマを細かなニュアンスでもまとめていきました。

どのあたりが制作の思いに近いのだろうか、と最初の打ち合わせに臨んだものがこちらです。

第一弾プレゼンテーション

はじめに、プロットを読んだときの印象と要素をいくつか書き出しておきました。

画像 プレゼンテーション資料
ネタバレになるのであえて小さく

また、その際に浮かんだイメージも、写真をコラージュして伝えました。制作部がもつドラマの印象と、私たち美術デザインがもつ印象をすり合わせ、共有するためです。

このドラマは、円形のモチーフが多く出てきます。おはぎに野球、レコード、ラジオのウーファー、太陽などなど。

それらのまるっこいアイテムが縁(円)でつながっていくのも、100年を描くのにおもしろそうですね、とビジュアル面からのアイデアも共有しておきました。

そんなお話をしながら、提案したのが下の4つです。

①つながり 親子のつながりを「筆記体」や「カリグラフィ」で例えてみる

資料画像 A つながり
資料画像 A つながり

②ひなたの道を歩こう テーマである「ひなたの道」で不器用ながらも赤ちゃんのように歩いている

資料画像 B 陽だまりの中をあるいていく

③旋律のような英語の調べ ヒロイン安子の台詞から叙情的に

資料画像

④おひさまのような親近感

資料画像 C おひさまのような親近感

それぞれのロゴに対して、ひと言のコピーと、性格について軽くプレゼンをし、演出から出てくる言葉や意見から、どんなふうにこの番組を見てほしいのかを議論しました。(もちろんソーシャルディスタンスは守りつつ)

4案の中から1案を選び、その次の打ち合わせではその1案から探って発展させた4案をまたプレゼンしていました。

画像 ロゴ候補の数々
何回目かの打ち合わせのもの。5案ですね。

これを繰り返すことで、余分な言葉や形をそぎ落とし、皆が共通して持っているキーワードと、人にささるアイデアを明らかにしていくのです。

例えば、「明るい人」「面白い人」「元気な人」「楽しげな人」では、同じポジティブな印象を与えますが、受け取るニュアンスが違いますよね。

このドラマは長いストーリーに加えて、3人の主人公がいるので、こういった人格をつかさどる単語とイメージが、非常に多岐にわたりました。

検討を重ねることおよそ2か月。
上記で話していたことがようやく一つの候補にまで絞られ、これでいきましょう!と決まりました。

それがこちら。

画像 決定したロゴ
最初にでてくるのが大体良い説

奇をてらわない、いち市井の人が書いたような手書き文字。

どこかで出会ったことがあるような親近感と、「これでいいのだ」と言い切る太鼓判のような円形デザイン。

それがなにより太陽らしい。
このゆる~いフォルムなら、押しつけがましくなく、そっと寄り添ってくれそう。

背景の色も3世代で変えていくことができるのでは?と会議でも盛り上がり、満を持して決まったのです。

まさかの「@@@@」とデザイン被り!!

ところがある朝、「ロゴについてお話がある」と広報担当のプロデューサー(P)に呼び出されました。

席まで伺ってみると、Pの卓上パソコンの画面には「次回朝ドラのロゴのお披露目」の文字が。

ま、まさかこれは

ロゴ画像 おかえりモネ
前朝ドラロゴ

丸っこいフォルム、手書き文字、色のトーン。。

画像 二つのデザインを比べる
双子かな

ニュアンスこそ違うけれど、デザインの構成要素はほぼ同じという珍事件が発生したのです。

「こんなことってあるんかい!(いやある)」と、その場にいたCPと演出と顔を見合わせて思わず失笑。

このまま、えいや!と進めてしまうこともできるけれど、流石に2タイトル連続で似たフォルムはお楽しみ感が減ってしまうよね、と2か月を要した激論はさらなる検討へと発展したのでした。

たどり着いた“隙のあるデザイン”

しかし、長い時間をかけて、ロゴ制作チームで意見を出し合いながら検討したおかげで、一つの明快なテーマは出来上がっていました。

それが、「どんなことがあっても、自分の居場所は見つかるから、陽のあたるトコロへいこうよ」ということです。

この言葉にたどり着いたときに、「見た人の心がパッと晴れあがるような、キモチのよいおひさま」のイメージがコンセプトの軸として決定しました。

登場人物たちが、「自分は自分だから、これでいいんだ」と自分の人生を肯定することが、根幹のテーマであることは変わらない。

型にはめたような記号としての「女性」でなくて、3世代目ヒロインの「ひなた」のような人格をめざそうと、ロゴのカタチを太陽ベースから練りなおしました。

画像 デザイン練り直し
ここまでくると大体トーンも決まってきていますね

ユニセックスで、どこかいびつな印象。
隙だらけで、だからこそ愛せるキャラクター。
めげることもあるけれど、
それでもいいんだよ、とおひさまのもとにいる感じ。

それが英会話ラジオにのるとどうなんだろう。

没案となったタイトルロゴの中から、意外と票をあつめていた「ラジオチューン」のロゴのフォルムを再構成し、

■ラジオ英語講座の番組をにおわせる書体で、可愛げのあるユニセックスな印象に。

■それぞれのヒロインが、岡山、大阪、京都でみつけた「sunny side」を象徴するように、背景には大きな太陽を配置。でも円環はずらしてややいびつな感じ。

■字間を広くすることで間の抜けた、隙だらけな空気感を。

■人生曇ることも多々あるので、雲も足しておこう。

■不器用ながらも手でつくったぬくもり要素は残したいから、手書きからロゴを起こしてみる。

など。

試行錯誤しながら、私たちの生活の中にそっと紛れ込んでいそうな、どこか憎めない、親近感のあるディテールを目指して、微調整を行っていました。(あえてダサく、が合言葉でした)

それで完成したのがこちら。

ロゴ画像 ほぼ決定案
ほぼ決定案。この後「可読性をあげて」とのオーダーが。

皆さんが毎朝ごらんになるこのロゴが誕生したのでした。めでたしめでたし。

余談ですが…各回のファーストカットにもご注目を!

タイトルロゴ作成の過程で出てきていた「円でつなぐ」のアイデアは、実はこんなところにも生かされています。

番組画像 EPISODE 001 連続テレビ小説
番組画像 EPISODE 002
番組画像 EPISODE 003
番組画像 EPISODE 004
番組画像 EPISODE 005

毎回冒頭で出てくる「エピソードタイトル」のテロップです。

一番初めのセクションでふれた「円でつなぐ」という考えが、演出部・安達もじりさんの中にもあったようで、クランクインのちょっと前に「朝ドラのエピソードタイトルを、丸いデザインにできないか」というご相談がやってきました。

朝ドラではこうした形式は初の試み。
「ナルホド面白そう!」と思い、こちらも3案ほどコンセプトを添えて提案しました。

そして採用されたのが先ほどのもの。
「すべてはここからはじまった」というコンセプトの、ラジオテキストのデザインをアレンジしたものでした。

このデザインは、美術スタッフがラジオテキストを作成している様子を眺めているときに、「この表紙の円が、ラジオのダイアルのカタチにちょっと似ているので、すてきだな~」と個人的に思ったのがきっかけでした。

ラジオテキストの文字も、時代感があって可愛らしい。

なにより、ラジオ英語講座からドラマが展開していく印象が、番組トータルの世界観にマッチするし、ロゴにもあいそう。

100年の物語が、1話ごとに数字としてカウントアップされていくのも、逆タイムマシンみたいで印象的になっています。

また、このアイデアに乗っかるために、現場の撮影部は、「イントロで使うモチーフをできるだけ丸っこくとる=真ふかんで撮る」ためにカメラが倒れぬよう支えながら頑張ってくださっています。

イラスト カメラを支える様子
そんな写真は撮っていなかったのでイラストで失礼します

カムカムの物語はまだまだ続きます!皆さんよろしくお願いします! 

画像 筆者

瀨木 文
2015年入局。東京本部を経て、大阪局の映像デザイングループへ。携わった番組は「いだてん」「カムカムエヴリバディ」「閻魔堂沙羅の推理奇譚」など。日課は10キロ歩くこと。

画像 執筆者へのメッセージはこちら

▼制作チームから視聴者のみなさまへ▼

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