「カムカムエヴリバディ」チーフ演出が安子編を語ります
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「カムカムエヴリバディ」チーフ演出が安子編を語ります

NHK広報局

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」でチーフ演出を担当しています、ディレクターの安達もじりです。

このドラマには、「安子」、「るい」、「ひなた」という3人のヒロインが、順を追って登場します。
そのうち今回は、「安子編」が終わり「るい編」に向かう中で、“演出チーム”が考えていたことをお話できればと思います。

話がいろいろ余談方向に飛んでしまうかもしれませんが、気軽にお付き合いいただけたら幸いです。

※注記
今回の記事はネタバレを含みますので、まだドラマをご覧になっていない方はご注意ください。

「演出」の仕事とは?

「ドラマの演出をしています」と自己紹介すると、よくどんな仕事なんですか?と言われます。
テレビで「演出」という文字は見るけれど、何をやっているのか、具体的なことは分からない。自分でもそう思います。
今回この文章を書くにあたって、改めて、説明するのが難しいなと感じました。

私事ですが……元々たまたま飲み屋さんで、ある映画監督と隣り合わせになり、翌日から数年間監督助手の仕事をしたことからこの世界に入りました。

最初にその監督から「映像の演出をするときの心得」として教えてもらったのは、

「初心忘るべからず」「無理するな。よく休め。マイペース」「メシは食え」「気配り上手」「交渉は相手に合わせて。ゆるやかに」「マイペースに粘り強く」「感謝。感謝」「何が撮りたいのか?」「人に愛情のある映画を作れ」「役者の芝居は大切に。芝居の中にポイントが必ずある。必要なところをはずすな。フィルムはちゃんと見ろ」「一回頼んだらその人と心中」「ケアーは大切」「何事も意思疎通。すぐにはっきり伝える、言う」「何事もすばやく、機敏さが勝負」「すべてのスペシャリストになれ」「ライティングはいろいろ見て勉強しなさい」

……書き留めたメモを今でも大切に持っています(まだまだ出来ていないことが多いので反省ばかりですが…)
久しぶりに見返してみましたが、やはり具体的にどういう仕事なのか、分かりづらいですね。大事なことはもちろんいっぱいあるけど、誰も手取り足取り教えてくれない。背中を見て育て!そんな時代でした。

「監督」「演出」「プロデューサー」、いろんな言葉がありますが、これは映画や民放、そしてNHK、さらにCMや舞台だと役割がそれぞれ微妙に違っています。

NHKのドラマ制作現場の場合、「プロデューサー」は脚本開発・キャスティング・予算管理、「演出」は現場の責任者であり仕上げまで含めた番組の実働制作責任者つまりディレクター、という役割分担だと何となく教わってきました。

ただそれはあくまで「建前」で、経験上、「プロデューサー」と「演出」が二人三脚でタッグを組んで連帯責任を負っていく、そんな構図になっているように思います。二人で大型船の船長を務める、そんなイメージでしょうか。

“朝ドラ”や“大河ドラマ”の現場ではキャストを含めると100人以上の人が常に動いています。大人数で一つのものを作り、ご覧頂く方に届けるのです。

これだけの大所帯なので、「演出」と言っても一人でやるわけではありません。連続テレビ小説の場合、半年間の放送分をおよそ10か月から11か月程度のスパンで撮影します。

撮影と同時に脚本開発と編集など仕上げの作業も進めないといけません。物理的には一人の演出で作ることは不可能です。今回も「演出部」と呼ばれる班には20人近いスタッフがいます。全員がディレクターです。完全なるチーム戦です。

そして、「撮影部」「照明部」「音声部」「衣装部」「メイク部」「小道具部」「大道具部」などなど……それぞれがプロの技術を持ったあまたの班と連携して、一つのドラマを作っていくわけです。

よくよく考えてみると……「演出部」だけ何の「技術」も持ってない。ただひたすら旗を振り続ける「旗振り役」です。

いかに気持ちよくプロの職人たちに技を発揮してもらって一つのものに仕上げていくか、それがすべてだと大先輩のディレクターから教わりました。
「演出はサービス業」だと。

思いのこもった「旗」を振り、スタッフ・キャストの思いを最終的に「一つの贈り物」という形に仕上げて、それをご覧頂く皆さんに届ける、そんなことを繰り返すのが「演出」の仕事なのかもしれません。

企画の立ち上げからすべてが始まる

スタッフを一つにまとめるために一番必要なのは、そのプロジェクトの核となる「旗」です。

どんな「旗」を振れば、いい作品を届けられるのか。こればかりはほんとに毎回毎回試行錯誤しています。正解が分からない。

企画を立てる段階で、このことをご覧いただく方に届けたい、伝えたい……そんな気持ちが強ければ強いほど、振るべき「旗」が明確になることだけは分かっているのですが、とても難しいです。

クランクイン前までの準備期間は、ある意味その「旗探し」の期間とも言えます。

今回の「カムカムエヴリバディ」は、プロデューサーの堀之内と二人で、脚本家の藤本有紀さんに執筆依頼をするところからプロジェクトが始まりました。

どういう経緯でこの企画内容になったのか、は別の機会にお話することにして、何はともあれ「三世代ヒロインで100年の物語を描く」という骨子が決まりました。2020年の春頃のことです。
コロナ禍に突入したばかりのことでした。

外出自粛などの影響で、藤本さんとの打合せも中断し、それぞれで準備を進めるという期間が相当長く続きました。
藤本さんに物語全体の展開案を執筆いただいている間、同時並行で「カムカム年表」と銘打った資料を初期スタッフでこつこつ作りました。

このドラマで描く100年間の、ドラマに即した年表です。A4の紙で200ページを越える資料となりました。

時代考証とは、「何をしたらあかん」というものでなくて、その時代を生きた人の息づかいを知る手がかり。「今で言うところの、こういうことかなあ?」などと想像を膨らませ、「あ、これなら分かる!」という感じで今見ている人の感覚で分かるように解釈して表現していくことだと思っています。

そのためにはまずは知らないといけない。藤本さんとこの年表を共有しながら、一度100年間をたどり、物語の骨格を作っていきました。

今生きる感覚で100年を描くには?

パール・バックという人が書いた「大地」という名著があります。19世紀から20世紀の中国を舞台に三世代の家族を描いた物語です。

藤本さんが最初に「三世代の物語を描きたい」とおっしゃった時に、この小説のことを思い出しました。古本屋で購入し久しぶりに読み直してみると、そこにはたくさんヒントがありました。

「大地」は、ほぼすべて全編通して、主人公の家族の行動範囲内で起きる出来事が主人公の気持ち・目線で表現されています。舞台となっている当時の中国はいわゆる「激動の時代」。戦争も大げさに描かれる訳ではなく、そこにいる主人公の感覚で表現されています。
今回この企画も、そんな描き方で今に至る100年間を描けないかと考えました。

そこで、藤本さんとも相談して、このドラマは完全に時系列で描く、劇中に年号の字幕を出さない、ということを決めました。相当初期段階のことです。

今、令和何年か、日々生活を送っているとふと忘れて過ごしていることも多いと思います。きっと戦争中を生きた人たちも、終戦直後を生きた人たちもそんな感覚だったはず。

安子編で描いたのは戦争を挟んだ、まさに「激動」という言葉がふさわしい時代ですが、「激動」だったということは今から振り返って分かること。その時代を生きた人たちにとってはどうだったのか……その生々しい感覚、息づかいをこのドラマでは表現したいと考えました。
そうすることで、今生きている感覚でこの物語に没入してもらえるのではないか、と思ったからです。

カムカムエヴリバディの「旗」とは?

その後、最初の緊急事態宣言があけた頃から怒とうの準備が始まりました。
藤本さんに「脚本」を執筆し始めてもらうと同時に、スタッフ組み、キャスティング(ヒロインオーディション含む)、ロケ地探し、セットプランの作成などなど……あっという間に時間が経過していきます。

メインスタッフが揃ったタイミングで最初の顔合わせ(最初にスタッフに「旗」を振る大事な瞬間です)、その時に配った資料に書いたことを恥ずかしながらご紹介すると……

日のあたる道。私、ここにいていいんだと思える場所。コツコツ生きていたら、そんな場所がいつかきっと見つかる。誰しもが誰かの人生を明るく照らしている。日々の平凡で小さな一歩一歩が紡ぐ小さな奇跡。どんなに辛いことがあっても生きるってすばらしい、そんな世界へ、カムカムエヴリバディ

居場所探しの物語

バトン。100年のファミリーストーリー。おじいちゃん、おばあちゃん、おとん、おかんはこうして生きてきた。この先我々はどう生きていくか? そして子どもたちは?

昔々あるところに…から始まる物語。ファンタジー感も少しある優しいハートフルコメディ。愚直に生きる姿。そこにはおかしみがあり、涙があり、希望がある

面白いストーリーと芝居。ひねらずストレートに味わえるドラマに

肌触り、実感、匂い、体温のあるドラマ、感情の積み重ね

○まる、道、川、光と影、色

ラジオ。世代をこえて時代をこえて聴いている人の人生を照らす宝箱

記憶に残るウェルメイドなドラマにしたいです!!!

 など(今見返すと恥ずかしい言葉のオンパレードですが……)、まだ手探りの状態からこのようにキーワードをあげて共有することで、このドラマの世界観をみんなで探っていきました。

そして、怒とうの準備を経てクランクインを迎えた時、このキーワードが自分の中で一つに固まりました。

 あたたかくて 優しくて 愛おしい

コロナ禍の今、皆さんに届ける「贈り物」だとすると、徹底して人に優しいドラマでありたい、そう思うに至りました。

「お芝居」と「物語の舞台」をどう作るか?

2021年3月、いよいよクランクインを迎えました。撮影現場での「演出」の大きな役割は、脚本の世界を立体的に作り上げていくことです。

一番大事なのは、やはりなんといってもお芝居だと思っています。
ドラマは感情を伝えるものだとすると、それを体当たりで表現してくれるのが「俳優部」の皆さんです。

出演者の皆さんと、この人はどういう人物で、こういう時にどういう気持ちになるのか、そんな議論を深めながら撮影を進めていきます。

出演者の皆さんには、「物語の舞台はとにかくこだわって作り込みます。この世界でとにかく存分に生きてください」とお願いしてきました。

物語の舞台は、岡山・大阪・京都。その時代が持つ匂い、その町が持つ匂いを表現していくことがとても大事です。
例えば、大都会に住んでいる設定なのか、のどかな町に住んでいる設定なのかによっても、登場人物が抱く感情は変わってくるからです。

今回、「川」を一つのキーワードとして挙げました。
岡山の旭川、大阪の大和川・道頓堀川、京都の賀茂川(鴨川)。

「人生は川の流れのよう」という発想もあって、このドラマでは川を大事に表現していきたいと考えました。
岡山の旭川にロケハンに行ったとき、京都の賀茂川にとても似ていると感じました。そんなちょっとしたつながりも大事にしていきたいと思っています。

安子編では、戦前戦中戦後の岡山を舞台に、安子をはじめ「たちばな」「雉真家」の人たちを中心に描いてきました。
「雉真家」は元々武家屋敷があったエリア、「たちばな」は町の商店街エリアと設定して場所を作ってきました。劇中「雉真家」は空襲を免れます。これも実際岡山の武家屋敷があったエリアの一部が空襲を免れた史実を元に描きました。

安子を演じた上白石萌音さんはじめ出演者の皆さんは、とにかく人間味のあるキャラクターをそれぞれ演じきってくださいました。

このドラマならではの「岡山」を舞台に、そこに生きている人としてしっかりと存在している。撮影を重ねるごとに、ほんとにドキュメンタリーを撮っているような感覚になっていきました。

 初体験!ヒロイン交代をどう描くか?

“朝ドラ”の「演出部」に入るのは今回が9作目となる私ですが、今までの経験では乗り越えられない最大の「初体験」が、物語の途中でヒロインが交代することでした。

しかも、藤本さんの構想では、二代目ヒロインは初代ヒロインにある種の「恨み」を抱えている、ということでした。
つい今の今まで感情移入していたヒロインに対して恨みをもった別のヒロインに、今日から感情移入して見てください、というのはあまりにもハードルが高いものでした。

第8週に入る前までは、人もうらやむような親子関係だった安子とるい。わずか3回分で「決別」まで描かなければなりませんでした。

ある種の力技が必要で、登場人物たちの繊細な感情をうまく紡いでいかなければなりません。
その上で、徐々にるいに感情移入できるようにしていく……さらに、同じ時間軸の中で安子編にかかわった人々の伏線回収劇も始まり、「命の誕生」「再会」「決別」「始まり」など、人が経験する宿命のようなものを、すべて包括して表現すべき局面でした。

正直に言って、ほんとにやってみなければ正解が分からない状態で撮影に突入しました。

藤本さんの脚本には圧倒的なパワーがありました。演出としては一つ一つ手を抜かずに素直に表現することに徹底するしかありませんでした。

何となくこういうことか、と少しずつ分かり始めたのは編集してみた時です。ものすごく深いことを表現しているドラマなんだな、とあらためて感じました。

安子とるいの軸はもちろんのこと、例えば、きぬの出産や定一と健一の再会シーンは、これまで描いてこなかった登場人物の背景も含めて数少ないカットで表現しないといけなかったので、とても難しかったです。
この局面は、出演者の皆さんの圧倒的な表現力なくしては描けなかったと思います。

ロバートにプロポーズされて、「ついていけない」と言っていた安子が、「アメリカへ連れて行って」と泣き崩れ、そこで主題歌「アルデバラン」が流れて、安子編から、るい編に移り替わります。

ヒロインが交代するという、私自身経験したことがない描写をするにあたって、一つの区切れをしっかりつけたい、安子を一度ちゃんと見送り、るいをちゃんとお迎えしたい、という意図であの編集の形にしました。

安子の物語のエンドロールであり、るいの物語のオープニングタイトルである、という意味合いが大きかったように思います。

るい編の立ち上げにあたって

深津絵里さん演じる「るい」の登場まで、10数年の時間経過があります。

その間、るいはどういう時間を過ごしたのか。そこは物語の中では描かれません。
るいはこの時点でどういう「心の傷」を抱えているのか。それはかさぶたになっているものなのか、まだ生傷なのか……考え抜かなければいけないことが山積みでした。

今回安子編の終わりと、るい編の始まりは同じ岡山の旭川でロケを行いました。旭川は安子と稔の自転車練習、稔と勇のキャッチボールなど大事な場面に登場しており、安子編で大事にしてきたロケーションです。

楽しい思い出も苦しい思い出もある。安子の人生の節目節目で登場してきました。
そういうことも踏まえて、深津さん演じるるいの初登場シーンは、ぜひ旭川で撮りたいと思っていました。

安子の最後のシーンと深津さん演じるるいの最初のシーンは、その間に長い時間経過があるので、あえて同じ映像構成で見せることでそこに流れる空気の変化を伝えたい、と思いました。

脚本上、るい編に入ってから、安子編を思い出させるような仕掛けになっていることが時々あり、安子編で描いた時と同じような映像構成で描いたりしています。
このドラマならではの楽しみ方だなあ、と思っています。

さいごに

長話にお付き合いくださいましてありがとうございました。

安子編を振り返って見ると、出演者の皆さんが、ほんとにいい意味で、自然体でこの時代を精一杯生き抜いてくださいました。

安子編のどこが一番の魅力か、あえて言うとすれば、「とてもとても魅力的な登場人物たち」ということを挙げたいと思います(もちろんそれはこのドラマ全体を通してのことですが……)。

ほんとに愛おしくて仕方がありません。

安子編の皆さんとのお別れは辛いですが、またるい編で新しいすてきな出会いが待っています。
そしてその先には、ひなた編という、さらに新しいすてきな出会いも待ち受けています。

この先の物語も、登場人物たちとともに新しい時代を一緒に生きるような感覚で、楽しんでご覧いただけたらほんとにうれしく思います。

ドラマとはチームで作るもの。このチームからご覧頂く方への「贈り物」であるべきだと思っています。

誰かにプレゼントを贈る時は、「自分らしくて、かつ、相手に喜んでもらえるもの」を考えてプレゼントを選んだりすると思いますが、それと同じ事だと思っています。スタッフ・キャスト全員が思いを込めて、最後まで「カムカムエヴリバディ」を皆さまにお届けしたいと思っています。

引き続き、毎朝、楽しい15分間を共に過ごしていただけることを願っております。

 演出 安達もじり

photo by 上白石萌音さん

ドラマ番組ディレクター。
主な演出作品は、連続テレビ小説「カーネーション」「花子とアン」「べっぴんさん」「まんぷく」、大河ドラマ「花燃ゆ」、土曜ドラマ「夫婦善哉」「心の傷を癒すということ」(第46回放送文化基金賞最優秀賞受賞)、ドラマスペシャル「大阪ラブ&ソウル この国で生きること」(第10回放送人グランプリ受賞)など

▼制作チームから視聴者のみなさまへ▼

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