照明担当者が語る!「カムカムエヴリバディ」とっておきのシーン制作秘話
こんにちは!朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で照明を担当している天野と申します。
突然ですが…先日放送されたこのシーン、
安子が岡山から大阪の稔のもとへ汽車で向かっているシーンですが、実際には汽車は進んでいないんです。スタジオに建てられたこのセットで撮影しました。
進んでいない汽車を進んでいるように見せる、そこにも照明は一役買っています。(その秘密はのちほどお話しします!)
そのほかにも、日差しや月明かりを使った時間表現、色の対比や明暗、柔らかさを生かした心情表現など、照明はドラマの中でさまざまな役割を担っています。
ドラマ好きの方でも照明に注目して見ているという方は少ないかもしれません。私もこの仕事に就くまではそうでした。
今回は、知っていたらドラマを見るのがちょっとおもしろくなるかもしれない、そんなカムカム照明の舞台裏をお伝えしていきます!
「照明部」って、こんなことをしています
まずは、軽く自己紹介をさせてください。
私は現在、NHKの大阪局で「カムカムエヴリバディ」の“照明フロア業務”を担当しています。
元来“大のドラマ好き”だった私は、「技術者でありながら、表現者でもある」テレビ照明の仕事に魅力を感じ、2020年に入局しました。
幸運なことに、初任で大阪局の照明グループに配属され、あれよあれよという間に、ことしは朝ドラを担当させてもらうことになりました。2年前の自分には信じてもらえないことでしょう…。
恵まれた環境に感謝しつつも、甘えてはいられない!という気持ちで先輩方に付いて行き、濃密な日々を過ごしています。
”カムカム”の照明は2班体制で、基本的に1週間交代で現場を担当します。撮影も話の頭から順番に撮っているわけではないため、このシーンはA班、次のシーンはB班…というように、実は、1話の中でも担当班が異なることが多々あります。
そんな場合でも、「日が差す方向が違う!」や「天気が急変してる!」といった矛盾が生じないよう、2班で情報共有しながら撮影します。
また、1班は6人体制で、LD(Lighting director)、LSC(Lighting second chief)、フロアの3つの役割があります。
・LD
照明のチーフで、方針を決めます。収録前から監督や美術など他部署とやり取りし、照明プランを作成します。
そして収録週の前日には、この図面をもとに照明部みんなで器具を仕込みます。
収録中は、「副調整室」というスタジオに隣接した部屋でモニターを見ながら器具の位置や明るさ、色などあらゆる指示を出しています。
・LSC
副調整室の調光卓で、照明器具ひとつひとつの明るさや色を操作します。
スタジオ内の器具を正確に把握し、どの器具をどれほどの明るさや色にすべきかを考えながら調整します。器具は多い時で100台近くにもなり、そのすべてを操って画を作る重要なポジションです。
・フロア
スタジオ内で器具の位置や向きを変えたり、役者の動きに合わせて器具を動かしたりと、現場の最前線で動いています。わたし・天野が担当している業務です。
LDのプランを3次元の現場で再現するにはどの位置がベストかを考え、ワンカットワンカット臨みます。
また、40kg以上の器具を持ち上げたり、吊っている器具の修正のために3階分の階段を昇り降りしたりと、筋力・体力が必要だったりもします。
私も、最初は持ち上げられなかった器具がいつの間にか持ち上げられるようになり、心なしか腕がたくましくなったような気がします…。
「パヤパヤ」ってなんだ?
筋力・体力も苦労しますが、最初に苦労したのはやはり専門用語でした。撮影現場では、これまでの生活では聞いたこともない用語がたくさん登場します。
「〇〇持ってきて」の○○が分からないことも日常茶飯事。先輩が持ってきているのを見てあれが○○なのか…と、ひとつずつ用語を一致させていきました。
その中でも特になんだそれ??となった用語が“パヤパヤ”です。
正式には“1/fゆらぎライト”と言って、炎のように揺らめくLEDライトです。
電池式で手のひらに乗るほどの小さいサイズのため、灯篭の中などにこっそり仕込みます。
安子編で登場するかは分かりませんが、時代劇で灯篭が灯っているように見えたら中にパヤパヤが隠してあるかもしれません!
「ボサを横切らせて影を出せ!」
他にも聞きなじみのなかった用語のひとつに“ボサ”があります。
造花・造木を指し、照明では、明かりの前に置いて影を出す際に使用します。背景の壁や床がまっさらで明るすぎたり、白い衣装の主張が強すぎたりした際に、ボサの影を出して和らげることがあります。
11月1日放送の第1話、安子が杵太郎の膝の上に座っているバックショットでは、杵太郎の背中にボサの影(写真:黄色い四角部分)を出しています。
もともとこの背中に影はなく、ビカーっと光ってしまっていました。
また、冒頭に挙げた安子が汽車に乗って、稔のもとに向かっているシーンでもボサを使用しています。
放送では、影が3回横切っています。この影、私が出していました。
窓外から当てている明かりの前を、ボサを横切らせて影を出し、実際には進んでいない汽車が進んでいるように見せています。
▼こんな感じで作業していました(動画は別シーンの撮影の様子です)▼
外から見るとなかなかシュールです…。
このわずか10秒のシーンだけでも、
などさまざまなことを意識して動きました。
近年では窓外にLEDディスプレイを置いたり、VFX技術を活用したりする作品も多いですが、カムカムではあえてアナログな手法も取り入れ、味のある温かい雰囲気になっています。
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ここから先はさらにマニア向け!
汽車を例に、照明の役割として動きの表現を取り上げました。
しかしそれは一部に過ぎず、さらなる役割として、登場人物の心情や時間、季節の表現があると思っています。
ここから先は、演出担当者やLDに確認したわけではなく、あくまで私の想像のため、ドラマ照明について興味が出てきた方はぜひ続きも読んでいただけるとうれしいです。
安子が家族に稔との関係を反対された後、それでも稔に思いを伝えるシーン。
個人的にとても印象に残っているシーンです。
このときの照明はというと、背景には月明かり風のブルーの冷たい明かりを、
安子と稔には、街灯風のアンバーの温かい明かりを当てています。
この色の対比が、2人の関係を反対する家族の心情と、2人の想いの対比を際立たせているように思います。
ちなみにこのシーン、台本には「凍てつくような冬の月」とあります。台本の通り、時間(夜)や季節(冬)、心情を表現している、照明の魅力が詰まったシーンだと感じています。
また、このシーンが印象に残った理由には、”いい位置に影を伸ばすため”に照明器具を持って、セットの屋根上にまで登っていたためでもあります。
まだ撮影が始まったばかりで経験が浅かった私は、数cmの違いにもこだわってここまでするのか…!と驚いた記憶があります。
しかも、後日LDから聞いた話では、セットの都合で「そこに街灯があるから」とアンバーな街灯風の明かりを当てたのではないとのこと。
つまり、演出として、あえて「2人にアンバーな明かりを当てたい」という思いから、事前に監督や美術と相談し、2人が立ち止まる位置に街灯を設置したのだそう。
そこまで考え、こだわって明かりを作り上げているのかと個人的に勉強になったシーンでした。
※セットの屋根上から明かりを当てて撮影したカット、放送では使われていませんでした…。苦労したから採用!なんてことはなく、カットされることもあるんですね。それを含め印象に残ったシーンになりました。
さんざん語ってきましたが、照明はあくまで裏方です…
ここまで照明の役割や魅力をさんざん語ってきましたが、私としては「照明を意識して見てほしい!」と言いたいわけではないんです。
むしろ逆で、「照明がどうなっているかなんて、意識したことがない!」と視聴者の皆さんに思っていただくのがドラマ照明の理想だとも思っています。
それだけ違和感なく作品に溶け込んでいると言えるからです(シーンによってはわざと効果を付けて、他のシーンと差別化する場合もありますが)。
画面に映っているものをどう解釈するかは、皆さんの自由です。素直に見たもの感じたものを大切に、ドラマを楽しんでいただけるとうれしいです!
まだまだ始まったばかりの「カムカムエヴリバディ」を、どうぞよろしくお願いします!
▼制作チームから視聴者のみなさまへ▼
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