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「テレビセットも捨てたものじゃないですよ」

「テレビセットは建築物のように残らないから…」
これは大学で建築・インテリアなど学んでいた私がNHKに内定し、卒業制作担当の教授に卒業間際に言われた言葉です。
彼はバリバリの建築家。建築家からしたらそう思うのか…何も言い返す言葉がなく、悔しい思いをしました。
 
それから17年、私は“捨てなくてもいいセット″も作っています。

テレビ美術の仕事とは

映像デザイナーの清と申します。
これまで「龍馬伝」「ごちそうさん」「紅白歌合戦」「ハートネットTV」など担当してきました。
そして現在「阿佐ヶ谷アパートメント」や「いないいないばぁ」など幅広いジャンルの美術を担当しています。
 
番組内容に合わせてロゴやセット、テロップデザインなどメディアに関わる様々なものをデザインしております。

例えば「阿佐ヶ谷アパートメント」では多様性を表現するという番組コンセプトから、2階建てアパートセットをデザインしました。
また、各々の部屋の住民の個性が引き立つような小物や季節ごとの変化など細部に至るまで、テレビに映る“美術”すべてを考え、形にするのが仕事です。

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「阿佐ヶ谷アパートメント」2階建てセット

SDGs美術用品プロジェクト加入

最近は「環境と子どもに優しいデザイナー」を自身のキャッチフレーズに仕事をしています。

きっかけは2021年10月、「SDGs美術プロジェクトが立ち上がるから入ってみない?」と上司に声をかけられたことでした。
 
少しでも環境に優しいセットを作るなど、美術の面から環境問題を考え、課題を解決していく局内プロジェクトです。

プロジェクトに参加し、制作現場の環境負荷について調査を進める中でまず驚いたのが、「テレビ美術セットの廃棄量は放送センターの廃棄物の1/3を占めている」ということでした。
 
テレビのスタジオには、実はセットが常駐しているわけではありません。
基本的にはこのようにだだっ広い空間になっています。

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ここに、収録ごとに、セットを建てて…
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収録後に解体する、という作業を繰り返しているのです。

そのため、セットは「作っては壊すが当たり前」だと思っていたのですが、1/3という数字は改めて驚く量でした。
 
このままではいけない!
まずはできることから試していきました。

セットのパーツを一度で捨てず、別の番組にも使いまわしたり、“サステナブル素材”でセットを作ってみたり。

特にこのサステナブル素材については、植物由来の海や土にかえる生地や廃棄プラスチックなどからできたボードなど初めて知ることも多く、デザイナーとしてとてもわくわくしました。

同僚にそうした情報を共有するうちにプロジェクトの内外に仲間が増え始め、取り組みが広がっていくおもしろさも感じるようになりました。

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段ボールでできた平台(セットの土台に使用されるもの)使い勝手の確認
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土にかえるパンチカーペットの中からスタジオに使いやすい色を選定中

一方で、SDGsの考え方を現場のセットに取り入れるには「デザイン性」との両立が課題でした。

たとえば「いないいないばぁ」。最も大事にしているのは、出演する子どもたちが触っても危険ではないことと、視聴者の子どもたちが見ていてわくわくすることです。
それを実現する素材をたくさんリサーチした後に、植物由来の土や海で分解される「ボア」を数か所に使用することができました。

また、新しいコーナーとして立ち上がったジャングルジムのセットは、紙でできていて古紙回収可能なもので作ることにしました。

ときには私の4歳の娘にも「これとこれ、どっちがかわいい?」などと意見を聞き、子どもがどんな素材に興味を持ってくれるのか探りながら作っていきました。

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「いないいないばぁ」のセット。海や土で分解されるふわふわのファーやボアを使用。
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古紙回収可能な紙管でできたジャングルジム。軽量で強度もあります。
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廃プラスチックなどを砕き成形した再生素材の板で作ったオブジェ


ちなみに「あさイチ」のセットにはサステナブル素材を3割使用しています👇

これはNHK内でも反響があり、職員の意識改革にも少し寄与できたのではないかと思っています。

「テレビのカケラ」の立ち上げ談

これらの番組で成果は感じていたものの、どうしても1回しか使われずに捨てられていくセットパーツというものは無くせません。
しかもその中にはキレイで面白い形状のものもたくさんあるのです。
 
どうにかできないか…
そんな中で思い出したのが、「テレビと子どもが関わるプロジェクトにいつか携わりたい」という入局当時の思いでした。

母親が教員であったことが理由かもしれません。
私と姉、弟の3人を育てながら仕事をしていた母。私たちがテレビを見ている傍らでよく生徒のテストの採点をしていました。
その姿はどこか楽しそうで、教え子ひとりひとりの個性を引き出すことに喜びを感じているように思えました。
 
捨てるにはもったいないセットパーツに子どもたちを巻き込むことができれば新しい化学反応が起こるのではないか…
これはやるしかない! と思い、とある企画書を書きました。
 
それが、「テレビのカケラでなにつくる?」という親子向けワークショップです。

テレビセットの廃材を使いやすいサイズにカットして1個1個消毒し、NHKの各地域放送局にデザイナーが持ち込みます。
それを使って参加者たちに自由に工作してもらい、アップサイクルを行うというものです。
 
テレビのカケラ(=セットの廃材)が子どもたちのタカラモノに生まれ変わるのです。

デザイナーから有志を募り、またNHKアートのスタッフと協力しながら、初回開催に向け準備を進めました。

2022年8月、福島で初開催!

初めての開催はNHK福島放送局で行うことになりました。

用意した“カケラ”は、大河ドラマに使用されていた棟瓦を50個ほど、歌番組で使用されたカラーテープを大きなビニール袋1袋分、スタジオで咲いていた造花など、大量。

1個1個丁寧に切ったり拭いたりしながら、どんな物ができるのか、うまくワークショップとして成り立つのか、いろんな思いを巡らせつつ箱詰めしていきました。

地域局の担当者と打ち合わせを重ね準備は急ピッチで進んでいきました。

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準備された“テレビのカケラ”たち
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造花は「ちむどんどん」の比嘉家のセットで、棟瓦は「鎌倉殿の13人」で使用したもの

そして8月5・6日、福島放送局にてスタート。
開始と同時に素材に興味津々の子どもたちに「これは○○という番組で使ったんだよ」と話しかけると「えっ、見てるよ!」といううれしい反応。
実際にどんなものを作っていくのか不安に思いながら見守っていたのですが、できたものは恐竜やポシェット、車のオブジェなど千差万別!
本来捨てていたものが子どもたちの新しいタカラモノになったのです。

画像 会場の様子
画像 イベントの様子
子どもたちに自己紹介する筆者
画像 イベントの様子
カケラを選んで…
画像 イベントの様子
何ができるかな…
画像 作品と来場のお子さん
どんな道もへっちゃら車
画像 作品
紙管でできた恐竜「ガオー」

やり遂げた達成感とともに、試行錯誤しながら立ち上げたワークショップで親子が作品を作る姿に思わず感動してウルっときました。
子どもたちに作る楽しさを伝えたいと思って取り組んできましたが、逆に私の方が子どもたちから“自由に作る楽しさ”を教えてもらったように思います。
テレビのセットは無駄にはしない! と改めて感じた初回開催でした。

今後も続けていきますよ!

テレビのカケラは2022年度には6か所で実施。
今後も全国各地のNHKや公共施設での開催が決まっています。
 
気づけば66回開催し、650組、1,840名という多数の方にご参加いただきました。
これは私たちがこれだけの視聴者のみなさまと関わることができたという数でもあります。

たくさんの方と工作のお手伝いをしながらお話ししました。
今後もどんな子どもたちや作品と出会えるのか、新しいストーリーができるのか楽しみでたまりません。
これを読んでいただいている今もカケラ(材料)集めを進めています。広がりが止まりません。
 
私は今 4歳の娘の子育てをしながらデザインの仕事をしています。
仕事と子育てで目いっぱいな毎日ですが、それが楽しいと感じられるようにもなりました。
いつか自分の娘にもワークショップに参加してもらい、変わった形状の素材を扱う楽しさや工夫して新しいものによみがえらせる喜びを感じて欲しいと思います。
 
学生の私に「テレビのセットは残らない」と言った大学の担当教授、今なら胸を張ってこう言えます。
 
「テレビのセットも捨てたものじゃないですよ。」
 

今後のテレビのカケラ開催情報は👇をご覧ください。

映像デザイン部 清 絵里子
物心ついたときからテレビを見るのが大好き。
早朝のアニメを見ることが早起きの私にとって日課でしたが、見過ぎたために親に怒られることもしばしば…。
「じゃあテレビを見ることを仕事にすれば何時間見ても誰にも怒られない!」と思い、今に至ります。ただいま入局17年目。

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旭川でのワークショップ(2023年6月開催)にて主催メンバーと。
手前の赤い服を着ているのが筆者。
執筆者へのメッセージはこちら


「テレビのカケラ」がこんな「タカラモノ」に生まれ変わりました。

画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん
画像 作品と来場のお子さん