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カムカムエヴリバディ 小道具美術の世界「ひなたの部屋」

はじめまして、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の美術を担当しているNHK大阪拠点放送局・映像デザイン部の麻生と申します。
きょうはドラマの「美術」の中でもひときわ細かいこだわりがいっぱい詰まっている、『カムカムエヴリバディ』の小道具美術の世界をご案内させていただきます。

放送のほんの数秒だったり、画面に小さくしか映っていなかったり…そんな時もありますが、本当にいろいろな思いをのせて飾っています。
今日は小道具美術を通してみなさまに少しでも『カムカムエヴリバディ』の世界をさらに好きになっていただければうれしいです。

「映像デザイン部」の仕事って?

私の主な仕事は、番組に関わる美術を図面やスケッチを描いてデザインすることです。ドラマだけでなくさまざまな番組のセット美術も担当します。入局4年目になりますが、先輩のもとで音楽番組やニュース番組や大河ドラマなどさまざまな番組の美術デザインに携わってきました。

そして約1年半前『カムカムエヴリバディ』の美術チームに入りました。最初は初めての朝ドラということでわからないことばかり、、しかし、るい編やひなた編になると少しずつセットのデザインを任せてもらえるようになりました。

たとえば、先日(3/4)放送されたこのシーンで説明すると…

画像 文四郎とひなた

台本には白を基調としたダイニングと書かれていたセットです。映像デザイナーは台本を読み、演出と相談してセットの方向性を決めます。そしてセットの図面を書き、大道具部に発注。アンティーク調の家具や小物を小道具部に発注。背景の映像を映像制作会社に発注。そして「三つ首の竜」もデザインを決め発注します。映像に映るさまざまなものをデザイン、ディレクションしていく仕事なのです。

▼カムカム映像デザインの仕事、こんなのもあります▼

こちらは恐怖の大王がせまってくるシーンに映った「三つ首の竜」のデザイン画です。

ひなたの妄想ということもありチープなつくりにしたいという思いがありました。その場合もどうしたらチープなつくりになるか素材やサイズを指定していくのが映像デザイナーの仕事です。

画像 三つ首の竜 イメージ画

ちなみに、このデザイン画の下にご注目ください。イメージスケッチの隅にこんなことを描きました。

画像 こんな案も

みなさん、これ、なんとなく見覚えがありませんか?

画像 宇宙人

実は、るい編に登場した宇宙人の頭を変形させて竜の頭を作っているんです。

3人の宇宙人を作成していたころは三つ首の竜の話はなかったので本当に偶然なのですが、ちょうど3つなので使えるのではと思い、提案してみました。どちらもドラマで一瞬しか映ってない。その1シーンのためだけに作ってそのまま捨てるのではなく素材などを再利用する。今の言葉を借りるとSDGsです。

朝ドラは収録期間が長く毎年撮影されているため、持続可能なセット作りが行われています。
このように一度撮ったものも何かに使えないかなと考えるのも、朝ドラの美術デザイナーに必要な考え。図面やスケッチを描くだけでなく、セットの効率的な運用も含めてドラマの映像面でリードしていくのが、私たち「映像デザイン」の仕事なんです。

”別冊おサーカス“の真実

一瞬しか映らない小さな小道具=家具や小物も作り込んでいます。そしてそれが、思わぬ反響を呼ぶことも…。
たとえばこちら。ひなたの部屋の本棚ですが、

画像 本棚

注目いただきたいのが視聴者の皆様にいろいろと謎を巻き起こしてしまった。「別冊おサーカス」です。

画像 別冊おサーカス

実はこれは実際にある作品をもじったものではなく、ドラマ内のオリジナル作品です。もともとは小道具チームが「ギャクサーカス」という少年誌をずっと前の別のドラマで作っており、その出版社が少女向けに出した…という設定で作られたのが「別冊おサーカス」です。

画像 ギャグサーカス

頭に「お」をつけたのは上品にするためだと、ベテランの小道具さんの長洲さんが教えてくれました。(なんとマニアックな話をすみません…)

また、朝ドラでは時代や設定が似ていると、歴代の朝ドラや他のドラマで使っていたもの使うことがあります。
なので、「今日のコレは○年前の朝ドラのあのシーンで使われていたアレだ!」などとSNSで過去の小道具が話題になっているときはバレた、、と冷や汗をかくことも。一方で、私たちが飾った美術にも注目してもらえていることにうれしい気持ちになることもあり、正直複雑です。

どちらにせよ、たくさんの方に見られている朝ドラを、より質の良いものできるように日々気を引き締めて頑張らねばと思っています。

ひなたの部屋の裏話

画像 ひなたの部屋イメージ

ひなたの部屋は私が初めて担当した朝ドラヒロインのセットです。そしてこれがひなたの部屋のスケッチです。自分なりにこだわったのはつたなくてもよいからすべて手描きにすることです。小道具を発注するときに調べた資料や当時の写真をもとに説明する方法もあるのですが、そこは優秀な小道具チーム。写真資料にかなり近いものを用意してくださいます。

ひなたは時代劇が幼いころから好きです。漫画を読みます。元気な女の子ですが何事も続かないところがあります。この個性を表現できる部屋を発注するには既存の写真や資料にある不要な部分が邪魔になると思いました。そういう部分を省き表現したいことだけ載せられるようにすべて手描きにしました。

ドラマなので当時の資料や知識も大切ですが、“ひなただからこそ”と言える物を飾ることを目指しました。
そんな思いを込めて加えたのが、スケッチの右上の図です。

画像 スケッチ内の図

台本を読みひなたの部屋を構成する要素で大切だと感じたのは「時代劇が好き」「女の子である」「漫画が好き→当時のカルチャー」「回転焼き屋の娘である→庶民的」の4つ。この4つの要素が混ざり合う部屋を作る。まず方向性だけでも明確にしようと図を入れました。

そして具体的に何を飾ればそのような部屋になるのか自分で考えたものを部屋のスケッチの周りにイラストで描いています。しかし、自分の頭脳だけでは限界があると思い、小道具チームにも4つ要素をもとに飾るものを考え、作っていただきました。少しデザイナーとして職務放棄な感じかもしれません。しかし、それもひなたの部屋をより良いセットにするためです。

そして、小道具チームの方が飾ってくれたものは私の考えているものより想像以上のものでしたので、その一部をご紹介したいと思います。

① 手作りの鎖鎌とおもちゃの刀

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時代劇好きのひなた、きっと刀や手裏剣などの武器をおもちゃにして遊んでいるだろう。そう考えた私は、「新聞紙や折り紙で作った武器を部屋に飾って欲しい」とチームに伝えました。というのも、小さな回転焼き屋を営む大月家の経済状況からすると、市販のおもちゃはそんなにたくさんは買えないに違いないからです。
(同じ理由から、プラスチック製のおもちゃの刀は上の写真の一つのみにしています)

そうしてできあがった武器の一つがこの鎖鎌。注目していただきたいのは、鎖の部分の素材です。トイレットペーパーの芯を思わせる茶色い厚紙でできているんです。たしかに、小学生の工作といえばトイレットペーパーの芯をよく使っていたな…と懐かしく思うとともに、絶妙なリアリティを突いてくるチームのこだわりに驚かされました。

② 手作り刀

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刀の柄にまかれている折り紙が、一見刀とは不似合いなかわいらしい色や模様であるのがポイントです。というのも、母親のるいはかわいい色や模様の服は大阪編から身に着けていたりしてそのようなものが好きです。娘のひなたもそのような色や模様が好きだろうとひなたに買ってあげます。

しかし、娘のひなたは時代劇が好き。折り紙をもらっても折り鶴を作るわけでもなくチャンバラ用の刀の柄にまきます。親の思いと子供の趣向のミスマッチさを表現している小道具です。そんなストーリーが浮かんできます。

もちろんこんな細かい指定を私にはできません。最初に説明した4つ構成要素のうちの2つ「時代劇が好き」「女の子である」というキーワードをもとに小道具チームが制作しました。

③    改造侍おままごと人形

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この人形を見たとき、小道具チームの変態的な熱意を感じました。もちろん自分が発注したときは全く思いつかなった小道具。しかし、手作り刀と同じく、私が発注時にお願いした「時代劇が好き」「女の子である」というキーワードをもとに制作してくださいました。

芸が細かい!
あまりの完成度の高さに、10歳であるひなたの芸当ではないだろうと感じたほどです。飾って良いのか、悩んでいました。
しかし、飾りたい!
そうだ、お母さんのるいが作った設定にしよう。

ひなたにお人形を買ってあげたるい。しかし人形でおままごとではなく、チャンバラ遊びするひなた。それを見たるいが人形を侍に改造した。そんなストーリーがふっと浮かんできました。そしてそのストーリーに母親のやさしさを感じました。見た目は奇妙な人形ですが、その時に台本に描かれたストーリーから想像を膨らませていくことの大切さに気付きました。

登場人物にはドラマのシーンには描かれない生活や日常があって、そこに物が置かれているのにも理由がある。

その想像力が必要なのだと今更ながら理解しました。その時から小道具発注のときはより想像を欠かさないようになりました。

④    さむらい習字

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さむらいの習字は子ども時代のひなた役の新津ちせさん本人に書いて頂きました。これもひなたなら学校の習字の時間で好きに書いていいよと言われたら時代劇関係の言葉を書くだろうなというストーリーを想像したためです。

そしたらとても字がうまい!おままごと侍人形も作れるのではないかというくらい器用です。
ちなみに「ぶしはくわねどたかようじ」は小道具チームが書いたものです。下手風に書いてくださったので、こちら低学年の時に書いたものと設定しています。

まとめ                                      

記事を書かせてもらい、自分の仕事を見返してみると悩みながらセットのプランをしていたり、仕事の最中にさまざまな発見があったりいろいろと学ばせて頂きました。そんな状態でもひなたの部屋のセットが魅力的になったのは小道具チームの協力と技術のおかげです。

そしてSNSでもひなたの部屋に関してたくさん反響をいただきうれしいです。ひなたの部屋はひなたが大人になった今でも、少しずつ飾りを変えて出てきているので、ぜひドラマ本編とともに注目して頂けたら幸いです。

映像デザイン 麻生 啓史

画像 筆者

2018年入局。最初の配属は東京の映像デザイン部。東京では「紅白歌合戦」や大河ドラマ「麒麟がくる」の美術チームに所属。3年目の2020年に大阪拠点放送局に転勤し、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の美術チームに参加。同ドラマでは「錠一郎の部屋」「ひなたの部屋」「うちいり」などのセットを担当。

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「そば処 うちいり」のセット
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▼制作チームから視聴者のみなさまへ▼

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