CG担当者の仕事は番組のCGを作るだけじゃない!私が“恐竜AR”を作ったワケ
恐竜の大きさを体感してみたり・・・
恐竜と触れ合ってみたり・・・
恐竜に追いかけられてみたり・・・笑
スマホでリアルに動く恐竜を体験できる「恐竜超AR」というサービスを開発しました。このトリケラトプスに追いかけられているのが筆者です。
実はコレ、NHKの恐竜番組のロケ現場で実際に使われている技術。
視聴者の皆さんに番組を見てもらうだけにとどまらず、遊びながら恐竜を体験してもらいたい!と企画したサービスです。
「恐竜超AR」は恐竜番組で使われている技術!
NHKでCG/VFXを担当している日髙と申します。
私は7年前、入局当時から志望していたCG/VFXの部署へ異動し、2016年の紅白歌合戦や大河ドラマ「青天を衝け」、NHKスペシャル「ジオ・ジャパン2」などの番組制作に携わってきました。
なかでも私は恐竜番組を担当する機会が多く、2019年に放送した「恐竜超世界」や「ダーウィンが来た」の恐竜特番、そして、2023年3月に放送した「恐竜超世界2」を制作してきました。
太古の恐竜たちの世界をどのように描いているかというと、まずはできるだけ人工物の少ない、カッコいいロケーションを探して背景映像を撮影します。
その後、恐竜のCGをその上から合成します。
背景の撮影には私のようなCG担当者も同行し、恐竜の大きさや動きをカメラマンに伝えながら一カットずつ丁寧に撮影していきます。
そんな撮影現場で困ること・・・
それは、役者となる「恐竜」が撮影現場にいない、ということです。
ドラマのように役者さんがいる場合は彼らの演技を見ながら撮影することができますが、恐竜番組の場合は「恐竜」がCGなので、恐竜がどこにいるかを想像して背景だけを撮影することになります。
例えば画コンテを見ながら
・恐竜はどの種類が登場する?何頭くらいいる?
・どれくらいの大きさ?カメラからどのくらいの距離にいる?
・どこを向いていて、どんな動きをする?
など、そこにいない恐竜たちを想像して撮影しなくてはならないのです。
そこで、少しでもイメージを明確にするため、長さの分かるメジャー棒を立てて「ほら、恐竜の頭の高さはこのあたりだよ!」という目印を参考にしながら撮影しています。
ですが、しょせんは“ただの棒”・・・。
「本当に恐竜を撮影しているような臨場感ある映像」にするためには、恐竜を正確かつ具体的にイメージしなければなりません。
それを可能にするために開発したのが「恐竜のAR」というわけです。
例えばプエルタサウルスの場合、全長35メートル、高さは約20メートル近くもあります。これだけ大きいとなかなかイメージしづらく、メジャー棒の長さも足りないため人によって思い描くサイズが異なってしまいます。
恐竜ARをロケで使用すると、実際に恐竜のCGをスマホの画面越しに置いて、「恐竜がいたらこんな感じ!」という具体的なイメージをカメラマンや監督と共有することができます。
これにより、
「下からこんな感じで撮ったらもっとカッコいいんじゃない?」
「あれ、思ったより尻尾が長いんだ!だったらもっと広いアングルにしよう」
など、そこにいる恐竜を具体的にイメージしながらコミュニケーションが取れるようになったんです。
まさに恐竜のARは恐竜ロケの現場で活躍している技術なんです。
「恐竜AR」の技術を皆さんにも
私は、「撮影現場で使っているこの恐竜ARの技術をもっと活用できないか」と考えるようになりました。
視聴者の皆さんに届くのは「恐竜の一部を平面的に切り取った映像だけ」なので、「骨格はどうなっているのか?」「ツノはどんなふうに生えているのか?」など番組で映った以上のことを知る術がありません。
「せっかくデジタルデータで作られている恐竜なんだから、視聴者の皆さんにも恐竜を3Dで、肌で感じて体験してもらいたい!きっと新しい発見や気付きを持ってもらえるのではないか?」と思うようになり、開発したのが「恐竜超AR」でした。
2019年の「恐竜超世界」を放送する際に初期バージョンをリリースしましたが、このときは動かないポージングするだけの恐竜でした。
今回の「恐竜超世界2」の放送にあわせて恐竜が動くようにバージョンアップしました。
使い方はとっても簡単です。
スマートフォンで恐竜超ARのリンクへアクセスしたら、
「マシーンを回す」を押して…
ページをスクロールすると、「ARで遊ぶ」のボタンが表示されるのでボタンを押します。
カメラが起動したらスマホを動かして地面を認識させます
すると、画面の中に恐竜が出現するんです!
活き活きと動くリアルな恐竜を好きな場所に置いて、前から、後ろから、自分の好きな角度で観察できます。
これが「恐竜超AR」の特徴です。
「恐竜超AR」のこだわりポイント
恐竜超ARで特にこだわったのは、恐竜の”リアルな姿と動き”です。そのために、これまでの恐竜番組で使用した「恐竜のCGモデルや動きのデータ」を使っています。例えばこちら。
2019年に放送した「恐竜超世界」の中でティラノサウルスがほえるカットがあります。「巨大なティラノサウルスが目の前でほえていたら、きっと迫力がありカッコいいだろうな・・・」と思い、このほえる動きを使うことにしました。
これによって、過去のデータを有効活用しながらも、恐竜番組さながらの活き活きとした、臨場感たっぷりに動く恐竜を観察することができます。
2022年8月。
「動く恐竜超AR」の提案が通ったのはいいものの・・・。
どんな恐竜を登場させ、どんな動きにするか・・・?
それを考えるにあたりこれまでの恐竜番組を改めて見返しました。
これまで制作した恐竜のモデルは100体以上、アニメーションは1000以上にも及びます。
ただ恐竜が動けばよい、というだけではおもしろくありません。
「恐竜たちのリアルな動きをスマホARの機能と組み合わせるとこういう動きにも見えるんじゃないか?こうすればもっと遊べるんじゃないか?」と、膨大な資料やデータを見ながらチームのみんなで夢中になって考えました。
例えば、スマホARには「大きさや向きを自分でコントロールすることができる機能」がもともと搭載されています。
つまり、「本当は何十メートルもある恐竜を机の上に乗るほど小さくして、向きを調整する」こともできるのです。
そんなことを考えて作ったのがこのAR。
私はネコの癒し系動画が好きでよく見るのですが、「パソコンの上で温まってジッと動かないネコのように、デイノケイルスが寝ていたら・・・?きっと可愛いはず!」と思いました。
いざ作ってみたら・・・やっぱりカワイイですね・・・(うっとり)。
鼻ちょうちんはアニメーターさんのアイデアで入れてもらいました♪
このように「きっとこういう使われ方をしたらおもしろいだろうな・・・」と想像を膨らませながら、動きや恐竜のバリエーションを考えていきました。
遊び方はアイデア次第で無限大
恐竜超ARは、威嚇したり、走ったり、寝たりと、恐竜の特徴や個性を活かした動きから、遊び要素のある動きまでさまざまなバリエーションを用意しています。
私が特に気に入っている動きは「マイプとバトル」です。
マイプが手を振りかざす瞬間、アクションを起こすとまるでマイプが攻撃されたかのようにのけぞる動きをします。
うまく撮影すれば、こんな風にダイナミックなバトルを楽しむこともできます!
では、マイプをもっと小さくすると…?
デコピンで倒しちゃうのもアリなんです!
ほかにも、タイミングを合わせて「くしゃみで倒す!」なんてこともできちゃいますね。
こんな風に使う人のアイデア次第で遊び方やおもしろがり方が無限に広がっていくんです!
2023年3月に「恐竜超AR」がリリースされ、投稿サイトが設置されたのですが、体験した世界中のユーザーの皆さんから
「こんなに大きいんですね!」
「こんな風に遊んでみました!!」
などと多くの反響が寄せられています。
中には「なるほど!そんな遊び方があったか!」と驚くアイデアもたくさんありました。
自分たちの想像もしていないようなアイデアで恐竜と遊んでいる様子を見て、恐竜超ARが自分たちのもとから飛び立って視聴者の皆さんのモノになっていくような・・・そんなうれしい感覚がありました。
恐竜超ARの取り組みは番組制作と並行しての作業だったため正直かなり大変な日々でした。
ですが放送とはまた違う形で、恐竜と遊び、恐竜について知ってもらえたのかなと思うと「ARも頑張ってやって良かったな」「モノづくりってやっぱり楽しいな」と感じました。
恐竜超ARはインターネットとスマホさえあれば、世界中どこでも楽しめるようになっています。
ご自宅からお出かけ先までいろんな恐竜を出現させてみて、自分なりのおもしろい使い方を見つけて長く楽しんでいただけると、とてもうれしいです。
さいごに
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
「恐竜超世界2」で、お父さんのヒロシがこう言っているシーンがあります。
「恐竜がハルカの世界を広げてくれてるんだよ」
この言葉を聞いて、私も大きくうなずきました。
番組のCGを作るのが本来の仕事ではあるのですが、それだけが私の仕事ではないと思っています。
番組で恐竜について知ってもらえるように努力するのはもちろんですが、「こんな視点もあるんだ!」と見ている人の世界をさらに広げるために、できる努力をすること。それもコンテンツメーカーとしての責任なんじゃないか、と考えています。
私にとっては「恐竜超AR」がその努力で、恐竜番組で培ってきた技術を結集し、視聴者のみなさんに遊びながら”恐竜を体験”してもらうことを目指しました。
「恐竜超AR」がみなさんの世界の見方を広げる手助けになってくれれば、とてもうれしいです。
CG/VFX担当 日髙 公平