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被災地に不足しがちな戦略的目線と支援の見立て

熱しやすく冷めやすい

ここ数日でみなさんはどれくらい、令和2年7月豪雨の情報に触れましたか?
もう九州以外では、ほとんどニュースに取り上げられることがなくなったように感じます。
九州エリア内の報道ですら、1カ月前の報道量と比べると、だいぶん少なくなっているはずです。

熱しやすく冷めやすい私たちが、一つの事柄に関心を寄せられるのはほんの一時です。
日々の生活を送ることに精一杯な現代では、仕方のないことかもしれません。

「ボランティア」

今、日本の災害復旧には、ボランティアという存在が欠かせません。
(それ自体についてはいろいろと思うところがありますが)

今まで別の記事でも言及してきたように、「ボランティア」と表現は一緒でもいろいろな組織や個人がいます。

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災害ボランティアセンターを通じて現地で活動する人
普段は全く別の社会問題に取り組み、災害が起きれば対応を講じる団体
普段は自営業として働き、災害が起きれば休みをとって現地で活動する職人や専門職
私たちのように、日常から緊急支援や災害復旧に関わっている団体や個人

それぞれの団体や個人によって、緊急支援でのアプローチの仕方も違いますし、スキルも経験値も違います。
活動の内容やそれぞれのスキル、現地での経験値を踏まえると、ボランティアではなく専門家と称したほうがいいような団体や個人もいます。
しかし、一般的にはボランティアとくくられてしまうので、ここでもボランティアと表現します。

そのボランティアの活動が、被災地の復旧を左右することもたくさんあります。
実際に数で対応できない今、ボランティア不足で復旧に遅れ、などとも言われていますね。

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ボランティアの強みは、数での解決だけではありません。
その専門性や仕組みづくりで対応していくボランティアもいます。

しかしこのコロナの影響で、専門性の高いボランティアや、仕組みづくりをするボランティアも現地に入れていません。
普段なら、私たちも含めたいろいろな団体が現地に入り、どんな支援が必要なのかを調査します。
今回はこの調査すらできていない。
だから、現地では何が問題なのか分かっていない可能性もあるのです。
課題が分からなければ、対応も対策もできません。


前置きが長くなりましたが、今回のnoteは、この支援の見立てや戦略がとても重要、という話です。

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被災地では、今までの常識が覆されることもよくあります。
当たり前があたりまえでない状況では、何をやるにも手間がかかり、災害発生直後はとくに混乱します。

二度手間三度手間もよくあること。
この先適応されるであろう制度をしらないために、やらなくてもよいことに汗を流している場面もあります。

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住民の方が土砂撤去を一生懸命されていたので、手伝いながらお話をしました。すると、その家は解体すると言うのです。公費解体という制度を知らなかったために、解体費用をどうするか心配されていて、ちょっとでも安くするためにと家財や土砂を撤去されていました。

これは、住民側にもボランティア側にも情報がうまく伝わっていないから起きたことでした。
こうしたやった方がいいことと、やらなくてもいいことの線引を助言することも重要です。
大量の土砂を人力で土嚢袋に入れている現場に、重機とダンプを手配して効率化を図り、その現場の人員を他の現場に采配したりもします。

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やらなくてはいけないことが山積みで、混乱が生まれやすい状況こそ、戦略的に活動する必要があります。
課題が山積みで、問題の本質が見えにくくなるのもポイントです。

どんな災害が発生して、どんな被害が生まれたのか、またもとはどんな地域だったのか
という点を踏まえて、どんな支援がどれくらい必要か、を考えなければいけません。


西日本豪雨の見立て

【状況】
・代表される被災地域が、岡山、広島、愛媛などの県をまたぎ、広域すぎる被害が発生。
・岡山の特徴は倉敷市真備町の5000世帯が2階までの浸水被害。
・広島は県内全域が土砂崩れの被害、幹線道路が被害を受け交通事情が悪化、1カ月たっても土砂の搬出が手つかずの地域が多い。
・愛媛県は3市町村が大きな被害で、うち一つは山間部の土砂崩れとそれによる地域の主力産業(みかん)の被害。

【見立て】
・広域に被害が及んだことで、立地や報道によって支援のムラが出る可能性が高い。
・東京や大阪の大都市から一番近いのが岡山。新幹線もあり、アクセスが良い。報道も真備町の被害を多く取り上げているため、倉敷市にボランティアが集中する可能性。2階までの浸水とベットタウンで比較的新しい家も多い地区も多く、家屋復旧には手数が必要になる。
・広島で被害の大きい坂町や呉市では、土砂が1メートル以上堆積している地域も多い。人力での対応は難しいため、重機が必要。まだまだ生活道路が土砂堆積により使えないところも多く、なかなか進まない復旧作業に住民にも疲れがみられる。
・愛媛県の被害が大きかった地域は、最も西部の3つ。松山市から最も距離のある宇和島市が土砂崩れの被害。浸水被害の他の2市町村と比べると被害件数の速報値は少ないが、土砂撤去の分だけ人手が必要だが、アクセスに難があるため人を集めきれない可能性が高い。

【対策】
・倉敷市のボランティアセンターで受け入れキャパを最大限にし、一人も断らないボランティアセンターを作る。現地でのボランティア受け入れ体制を整えるため、被災地域の数か所でサテライトの運営をできる人員と設備を整える。地元支援者に家屋修復の簡単手順と支援方法を理解してもらい、支援の幅を広げるきっかけとする。
・広島は、支援側のキャパシティを考えると、一軒一軒丁寧に土砂の撤去というのは難しい。ただ、今のままの状況が続くのは住民の精神面が心配。重機チームを投入して、町の景色を変える。また重機チームでボランティアが活動できるだけの下準備を進め、効率化を図る。
・一番アクセスが悪い宇和島市で拠点を設置してボランティア募集を行う。また、山間部の土砂崩れは被害の全容が把握しづらい。心配な地域に個別訪問チームを派遣して、ニーズの調査を実施する。

現地では、上記のような情報から、こんなことを考えていました。

手前味噌ですが、こうした見立てとそこからの対策は、今までの被災地での経験やノウハウと、支援団体ならではのフットワークの軽さがなければ難しいと思います。

被害の見立て、支援の組み立て

浸水被害からの復旧作業のイメージがないと、どれくらいの規模の人手が必要なのかは分かりません。
浸水被害と土砂災害の復旧にかかる作業量の違いも知っている必要がある。

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どれくらいの規模の復旧作業が必要か見積もれないと、どれくらいの規模の災害ボランティアセンターを立ち上げたらいいのか分かりません。
センターの規模を見立てないと、どんな場所にどう開設するのかも方針を決められない。
ボランティアの募集一つとっても、被害の見立ては必要です。

復旧を仕切っていかなければならない立場である被災した市町村も、災害ボランティアセンターの主体となる社会福祉協議会も、たいていは被災初心者です。

スコップがどうの、家の構造がどうのとは、普段は使わない情報です。備えておいて損はない情報ですが、一般的な備えには入っていません。
右も左も分からないからこそ、こうした経験に基づく知識や先を見越した見立てが必要です。
これらは、経験と知識がある専門家の助言なくしては難しいと思います。

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また、この見立てと戦略づくりが必要なのは、最初だけではありません。
災害地はナマモノです。良くも悪くもどんどん状況が変わります。

例えば、住民やボランティアによる災害廃棄物の搬出と、行政の廃棄物対応にタイムラグがあると、大きな課題に発展します。長野でもそうでしたが、道端や空き地に廃棄物があふれ、集積場へも大渋滞。そこで滞りが生まれて、全体の活動にも影響してしまいます。

①災害廃棄物の撤去計画についてver.3_191024ds

廃棄物のあとに出てくるのは、土砂撤去問題。土嚢に入れるのか?土のまま道路に出すのか?でも作業効率は大幅に違います。
ボランティアはどこかに出す、までを考えますが、全体としては行政の搬出能力まで考えて現場の対応を決めなければいけません。

土の次は、壁や床の対応。災害ボランティアセンターでどこまで対応するのかが決まれば、NPOや支援団体でどこまでカバーするのかの棲み分けを決める必要もあります。
その後の消毒や乾燥は?と現場の動きを先取りして話を進めていきます。

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目に見える課題は、見立てもしやすく先取りしやすい。
問題は、目に見えないことです。被災後の心のダメージや、復旧復興に向かう気持ち、人と人の関係性…。

被害を大きく受けていると、地域としての存続が難しいかもしれないという問題も生まれてきます。そうなると、家屋の復旧よりも、コミュニティ維持のためのサポートが必要になるかもしれません。
地方や高齢化率の高い地域、山間部の集落など、もともと地域の力が弱まっていることでは、コミュニティ維持の問題が大きくなります。

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災害は、人々の日々の営みがうばわれます。
地震や雨や風で、営みの基盤が失われることが被災です。
基盤とは、家であり、地域そのもの。

家屋の復旧がなかなか進まないと、カビが生えたり、家の木材などが傷んだりしていきます。
被災した家を見て、なかなか進まない復旧状況を見て、心も痛みます。
なかなか進まない自宅の再生に希望を失ったり、安全が保証されるかわからない地域に不安がつのった結果、慣れ親しんだ地域を離れるという選択をせざるを得ない状況にもなりえます。

災害で人口流出が激しくなり、地域の弱体化が一気に進むこともあります。
人がいなくなって地域が弱くなれば、孤独死や関連死につながる可能性も高まります。
地域としての存続も危ぶまれるかもしれません。

できるだけ早く、家の傷みを止める(土砂撤去、乾燥、消毒)。
できるだけ、元の生活や地域に戻れるようにサポートする。
地域を守る。

だから、できるだけ早い段階で状況をつかみ、課題を整理し必要な支援を講じたい。
その対応には、専門知識を有した支援団体などの力が必要だと感じています。
外部からのサポートを全てシャットアウトしてしまうと、こうした専門知識も排除してしまうことに


コロナ禍の被災地支援をどうするのか?

私たちとしては、状況に応じて、「ボランティア」をもう少し細かいカテゴリー分けをできればいいのではと考えます。

例えば、大きく【①一般ボランティア/②経験のある支援団体や専門性の高い支援者】と分けてみてもいいでしょう。
災害ボランティアセンターのボランティアとして広く募集するのは、県内に限った上で、②のように専門性の高い支援チームは遠方からでも受け入れる(もちろん感染症対策などの対策をした上で)。

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被害の規模や性質、行政の体力やそれに見合った方法を考え、足りないところを補うように募集するというやり方でも良いはずです。


では、どんな人や団体を専門性が高い、経験があると判断するのか?
これは、普段からの信頼関係により判断されてくると思います。
平時からの関係性づくり(=受援力)が大切なのはこんな場面も想定できるからです。

まだまだ2020年シーズンは終わらない

近年の気候変動で、本当に目まぐるしいほどに自然災害が激甚化しています。
そして残念なことに、一年に起こる災害は一つだけではありません。
昨年2019年は、8月末に九州で大雨が、9月の頭に台風15号で千葉が、10月に台風19号で東日本の広い範囲が被害を受けました。

今年2020年も、これからまだ台風の影響を大きく受ける可能性があり、まだ大きな災害になる可能性があります。
ここから、またコロナ禍の災害支援を必要とする地域が生まれるのではと危惧しています。

今からできること、市町村単位でそれぞれの行政が災害対応を考えること。
ぜひ災害時にいかに援助を受け入れるのかという受援計画を見直してもらいたいと、切に願います。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。 少しでも、災害現場の課題が伝わっていたら嬉しいです。 いただいたサポートは、被災地の現在を伝えるための活動資金にさせていただきます!