新型コロナウイルス感染拡大の今、大規模災害が起きたらどうなる?
2011年から災害現場の最前線にいるからこそ、このタイミングで大規模災害が起きてしまったら、本当にヤバいと感じています。
東京の感染者数が大きく増え、関東で今週末の外出自粛をもとめられるなど、新型コロナウイルスの驚異を身近に感じ始めている人も多いかもしれません。
そんな中、昨日3月25日は北方領土の先のロシアでM7.8が起きています。
大きな被害がなかったようですが、もし震源地がもっと近かったら?
ここ10年だけで考えても、一定期間避難所が開設されるような規模の災害は毎年、日本のどこかで起きています。ここ数年の異常気象がもたらす影響を考えると、今年もどこかで何かしら被害が出る可能性が高い。
もしも、コロナウイルスが蔓延する中で、大規模災害が発生したらどうなるか、考えている人・備えている人が今の日本にどれくらいいるでしょうか?
災害大国日本に生きる我々は、常に「まさか」を考えておく必要があります。
今までのように避難所が機能しない。
3つの密を避けなければならない今の状況では、従来のような形の避難所は、安全と言えるでしょうか。(そもそも世界基準に照らし合わせると改善の余地が沢山あるのですが…)
例えば熊本地震では、熊本県内で最大855箇所、183,882名が避難所に避難していました。
想定以上の避難者が押し寄せ、隣の人の寝息が聞こえるほど密接した空間で、大きな避難所だと数百人が共同生活を送る場合もあります。
そのため、避難所の生活環境の改善を目的にNPOが活躍するほど、(急性期は特に)衛生環境が良くない場合が多く、生活する人にストレスがかかる状況になります。
また、場合によっては被災からの心理的なストレスや色々な喪失感など、一人ひとりの免疫力が弱まる要因が沢山あります。そうなると輪をかけて、感染のリスクが高まるはずです。
今も感染爆発の重大局面であり、こんな状況で大きな避難所を開設すれば、いままでにない規模の集団感染に発展するかもしれません。
旅館などの宿泊施設を避難所に
こういった状況を招かない避難所を設けるためのポイントは、災害救助法の活用です。
災害救助法は、発災後の応急期における応急救助に対応する主要な法律です。
飲料水など救援物資の配布、被災者の捜索、応急仮設住宅なども、この法律に基づいています。
ちなみに昨年の台風19号で発生した時は、391市町村でこの法律が適応されました。
その災害救助法では、避難所の設置について
あらかじめ指定した避難所でなくても、被災者が避難して実質的に避難所としての機能を果たした場合は対象。
避難の長期化が見込まれる場合や要配慮者を対象に旅館やホテルを借り上げて、避難所とすることも可能。
とあります。
原則として、公共施設を使うこととはありますが、必要に応じて旅館やホテルなどの宿泊施設を活用することができるのです。
常総市(2015年)や岩泉町(2016年)など実際に過去に、活用した事例もあります。
ただ、この活用事例を知らない行政がとても多い。
災害救助法はとても柔軟な解釈ができるように作られていると言われますが、その体質的にも思い切った対応が苦手なのが行政です。
こうした事例を一つ知っているだけで、取れる対応は大きく変わると思うのですが、行政にこうしたソフト面の備えがある自治体職員はとても少ないと言えます。
柔軟に活用されれば、集団感染予防だけでなく、過酷な避難生活環境の改善が期待できます。更に、今の自粛自粛で収入が大きく落ち込んでいる民間の施設にお金を回すことも可能になります。
もちろん、個室になってしまうことでの弊害も考えられますが、そもそも従来型では抱える課題が多すぎます。
避難所=学校の体育館という常識をアップデートする良い機会と捉えるのはどうでしょうか。
避難所に行かないという選択肢も
熊本地震では、14日と16日に大きな揺れがありました。本震だと思った後に再び大きな本震があったことにより、余震への不安から建物内での避難が難しい状況でした。そこで生まれたのが、車中泊やテント泊での避難場所でした。
閉鎖的な空間や同じ姿勢で長時間居ることによるエコノミー症候群が問題になりましたが、濃厚接触を避け、プライバシーを確保するために、同じ選択をする人が現れるかもしれません。
ただ、都心部では自動車を持たない家庭も多かったり、生産ラインの影響でアウトドア用品が手に入りにくくなったりする可能性もあります。
もしくは、被災した家の一部で不便なまま生活を続けるという在宅避難もあります。過去の被災地でも、高齢者や乳幼児・妊産婦、障がいや集団での生活が難しいような個性を持っている家族がいる場合、「他人に迷惑をかけられない」と在宅避難を選ぶ傾向があります。普段から生活に色々なリスクを抱えケアが必要な人が、避難所にいないことが多いのです。
この新型コロナウイルスについても、感染を恐れて持病のある人や高齢者などが同じように考えるかもしれません。避難所など数が限られた場所には看護師など医療チームが常駐したり訪問したりができますが、一軒一軒に専門家が訪問することは、理想的ですが現実にはとても時間がかかります。
多くの人が健康状態を保ちながら避難生活を続けるには、とても色々な工夫が必要です。
人が集められない
そして、ある意味避難所よりも危険なのが、災害ボランティアセンターです。不特定多数の人が入り乱れ、受付やマッチング(誰がどの家に手伝いに行くのかを決めること)のために長時間行列することもあります。
災害の規模に応じて、全国から広くボランティアを募集するところも多く、台風19号の復旧活動にあたった長野市災害ボランティアセンターは、最大で一日に3,500人が活動しました。基本は野外や風通しの良い場所での活動になるかもしれませんが、このリスクはしっかりと考えていた方がいいものでしょう。
こんな懸念がある中での災害ボランティアセンター立ち上げは、とても慎重な判断が求められます。このリスクを背負って開設するには、色々な準備(環境整備と覚悟)が必要です。
ボランティアの派遣が見込めないと、自己責任の元、家族親族で対応するしかありません。知人がいない転入者、独居の高齢者など、周りからの手助けが見込めない場合は?
お金が集まらない
もう一つ、大きな影響が出ると思っているのが、経済の停滞です。
被災地の復旧復興には、義援金と支援金が不可欠です。
被災した方への公的な支援はいくらかありますが、自宅再建を考えると僅かな額です。そのため十分でない額でも義援金を心待ちにする被災者さんも多くいらっしゃいます。
熊本に寄せられた義援金は、県・赤十字・共同募金会を合わせて53,267,130,794円にのぼります。個人への配当は全壊の世帯だと、85万円。
一方支援金に関しては、みなさんに一番馴染みがあるのは赤い羽根の共同募金会でしょうか。
熊本地震被災地支援で集まった寄附金合計額は553,075,111円、2018年3月までに266件の事業に対して助成しています。
行政によっては、県や市町村から活動助成として公募がある場合がありますが、NPOなど民間の緊急支援に関して、公的なお金が使われることはほとんどありません。我々もよく驚かれますが、被災地で活動する支援団体は、手弁当や民間の助成金をやりくりしながら活動しています。
この調子で経済が停滞し倒産や解雇が増えると、企業でも家庭でも被災地へ向ける金銭的余裕がなくなります。
熊本に限らず東北も、その他の被災地でも、いろいろな形で支援活動が続けられています。沢山の人からの義援金・支援金がなければ、もっとたくさんの人が未だに厳しい生活状況にいるかもしれません。
また、災害支援部門に限らず、幅広いNPOが資金難になるかもしれないとも予想します。
さらに、この経済停滞はおそらく全世界で同時に起きているので、過去のように海外からの寄付や国家間の支援も期待できないかもしれないのです。
こうして考えると、今の被災地での緊急支援は、とても不安定な中で奇跡的に成り立っていると、改めて思います。
この他にも、人的被害発生と集団感染で医療現場はどうなるかとか、マスクはもちろん必要な救援物資の調達が難しくなるとか、色々なことが考えられます。
早い段階で、災害対策本部に感染症の専門家を入れるべきかもしれません。
自然災害大国の日本では、常に大規模災害発生の可能性を考えておく必要があります。考えたくはないですが、巨大地震が発生する確率は高まるばかりですし、出水期と呼ばれる風水害が多い季節(一般的に6月〜10月)もやってきます。
そして、普段の状況ではない今だからこそ、余計に色々な角度から想定しその対策を考えておくべきです。
追記−対策案
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。 少しでも、災害現場の課題が伝わっていたら嬉しいです。 いただいたサポートは、被災地の現在を伝えるための活動資金にさせていただきます!