コハク

1993年生まれ。 イラスト↓ https://linktr.ee/kohakky__

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5分で読める小説 『復讐』

『復讐』 シロはあまりの熱さに思わず叫んだ。 「わぁあああ゛!!助けてっ…!」 側に居たクロは悲鳴を上げるシロを一瞥し、憐れみとも後悔とも取れるため息を吐いた。 「安心しろ。お前は後10分程度で死ぬ。そう悪い死に方ではない」 「望んでない!早く!!頼む!」 火が燃え広がるシロの身体は彼の胴体の太さの倍以上にもなる巨大な柵によって固定されていた。 それは身動きできぬようシロを両サイドから締め続け、まるで人気の無い狭い路地を通り抜けようとして壁の間に挟まってしまったか

    • 5分で読める小説 『大声ドラえもん』

      『大声ドラえもん』 A子:「私の知り合いの人の話でね、変に引っ掛かる話があるから聞いて欲しいんだけどさ…」 A子は席に運ばれてきたアイスコーヒーにシロップを入れるわけでもなく、徐にストローでかき混ぜながら続けた。 A子:「その人が高校生のとき、クラスで一番大人しい子がいて、その子が授業中に急に叫んだことがあったらしいのよ」 B子:「ほう、なんで?」 A子:「その子、普段大声で叫んだりなんかしたことなくて、むしろ授業中真面目に先生の話を聞くようなタイプだったのに、急に

      • 5分で読める小説 『ふしぎな学習曲線』

        『ふしぎな学習曲線』 妹から[自信がないや]とLINEが来た。 普段、妹は俺が仕事をしている時間帯にはLINEして来ない。 エイプリルフールだったから、また何か嘘が始まると思った。 お昼休みになってから返事を送る。 「どうしたの?] 数分もしない内にすぐLINEの通知音が鳴った。 [受験勉強] どうやら、嘘をつく余裕は今年はないらしい。 [自信ね、わかる。俺も毎日自信ない] [仕事?] [うん] そう打つと既読が付いたまま妹からの返信は途絶えた。 兄

        • 5分で読める小説 『ディスティニー』

          『ディスティニー』 「はい、もしもし」 「あ、お忙しいところすみません。わたし、表参道のジュエリーショップからかけております、スミタと申します!」 「…はい」 「突然のお電話すみません。八王子にお住まいの27歳の女性、〇〇さんのお電話でお間違いないでしょうか?」 「…はい、そうですけど…」 新しい電気代契約の電話だと思って出たら、全く違う男性の声で戸惑った。 ジュエリーショップ…? 相手が個人情報を的確に詳しく知っていた為、何か事情があるのかとすぐに切れなかっ

        5分で読める小説 『復讐』

          5分で読める小説 『キャラ弁』

          『キャラ弁』 「キャラ弁作って」 突然の娘の一言に耳を疑った。 「キャラ弁?」 小学校1年生の娘は生まれつき目が見えない。 全盲だ。 「なんのキャラがいいの?」 一応、彼女のリクエストを訊いてみる。 「キティーちゃんのキャラ弁がいい」 「キティーちゃんね、わかった」 とは言ってみたものの、彼女はそのキャラ弁を見ることができない。 お弁当の中を手でベタベタと触るわけにもいかないのに、どうやって彼女にキティーちゃんのキャラ弁を感じて貰えばいいだろう。 そもそ

          5分で読める小説 『キャラ弁』

          5分で読める小説 『うんともすんとも』

               『うんともすんとも』   「私は彼のことが嫌いだ。 野球に詳しくて私には分からない話をする所も、 ヨーグルトが好きで子どもっぽい所も。 バカみたいにふざけてばっかりで先生によく怒られる所も。 掃除の時間は歌いながら箒で遊んでるし、 物はすぐ忘れて「貸して」って言うし、 寝てばっかりなのに数学は満点取るし。 たまに遠い目でボーッと窓の外眺めてるから、 どうしたの?って話しかけると本当に腹立つ変顔で振り向いて来るし。 誰に対しても変わらない所も、 いつもしょ

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          5分で読める小説 『年に一度の再会』

              『年に一度の再会』 腕時計の長針が“9”を指していた。 待ち合わせの夜9時半を15分も過ぎている。 「ヒカリ、ごめん」 映画館内のグッズ売り場でパンフレットを見ている女性に声をかけた。 「よかった、お疲れさまね」 安心した笑顔を見せるのは心配性の彼女らしい。 彼女は決して「遅いよ」なんて言わない。 「もう始まってるよね…」 「うん、チケット買ったよ」 はい、と彼女が手に持った二枚のチケットから一枚分を俺に手渡す。 いつだったか、待ち合わせに遅刻しても怒

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          5分で読める小説 『恋ラーメン』

          『恋ラーメン』 「あそこのラーメン屋、美味しいらしいよ。」 バイト仲間のしーちゃんが突然そう呟いた、午後二時四〇分―。 お昼のお客さんラッシュが落ち着いて、ほっと胸を撫で下ろしながらパンの袋詰めをしていた時だった。 「あー、あのすぐ近くの? 行ったことないや。」 「めっちゃ狭いですよね!カウンターに八席くらいしかないらしいですよ!」 ――「カウンターに八席」 後輩の菜々子が横から会話に参加したものの、私たちがその店について知っているのは「美味しいらしい」とい

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          5分で読める小説 『宇宙人の電話』

          『宇宙人の電話』 「雨降ってるの?」 「あー、降ってます」 「やっぱりね、ザーッて聞こえるもん」 「そっちは降ってないんですか?」 「うーん、曇り」     本当は天気などどうでも良かった。 沈黙を避ける為に適当に訊いたら当たって自分でも驚いた。 話題なんて何でもいい。 この電話があと少し続くなら。   ◆ 「なにその声、気持ち悪い」 高校の同級生が言った言葉が蘇ると、いつからか人と喋るときに冷や汗が出るようになった。     コンプレックスだった。 声が。 喋り方

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          5分で読める小説 『サプライズ』

          『サプライズ』 トラちゃんは不器用な男だ。 サプライズなんてまるでしない。 公務員として真面目に働いては定時に帰ってきて少し晩酌して眠りにつく。 それが彼の平日のルーティン。 休日はベランダにずらりと並んだ植木鉢のお花のお手入れと部屋の掃除とピー助のお世話、あ、ピー助は飼ってる小鳥の名前ね。 とにかくゴロゴロするのが嫌なのかなっていうくらいちょこまかと忙しなく動き回って生きている。 私はどっちかって言うとズボラだからそんな綺麗好きなトラちゃんと結婚できてラッキー。って

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